血中マグネシウム濃度
目次
定義と意義
血中マグネシウム濃度とは、血清または血漿中に溶けているマグネシウム(Mg2+)の量を示す指標で、通常はmg/dLまたはmmol/Lで表されます。体内のマグネシウムのうち血液中にあるのは全体の約1%に過ぎませんが、神経・筋の興奮伝導や心筋の電気的安定性、酵素反応の補因子としての機能など、生命維持に不可欠な役割を担っているため、臨床で頻繁に測定されます。
体内のマグネシウムは骨に約50〜60%、軟部組織に約40〜50%分布し、血中には少量しか存在しません。血中マグネシウムはタンパク結合型、錯体型、遊離のイオン化マグネシウムに分画され、そのうち生理活性が最も高いのはイオン化画分です。腎臓はマグネシウム恒常性の中心で、腸からの吸収と腎尿細管での再吸収によって濃度が調整されます。
臨床的には、低マグネシウム血症は痙攣、テタニー、不整脈、低カリウム血症や低カルシウム血症の難治化などと関連し、迅速な診断と補正が必要となります。一方で高マグネシウム血症は腎機能低下時に起こりやすく、悪心、徐脈、腱反射消失、重症例では呼吸抑制や心停止を来し得るため注意が必要です。
血中マグネシウム濃度の評価は、原因不明の筋痙攣や不整脈、利尿薬やプロトンポンプ阻害薬の長期使用、アルコール依存、慢性下痢、糖尿病、慢性腎臓病、妊娠高血圧腎症の管理など、多様な臨床状況で意味を持ちます。単独の数値だけでなく、カリウム・カルシウム・クレアチニン・リンなど関連検査と合わせて解釈することが重要です。
参考文献
- NIH ODS: Magnesium — Fact Sheet for Health Professionals
- de Baaij JHF et al. Magnesium in Man: Implications for health and disease (Physiol Rev 2015)
測定法と単位
血中マグネシウムは、日常検査では比色法(キシリジルブルー、メチルチモールブルー、ジチゾンなどの発色試薬)で定量されます。アルカリ条件下でマグネシウムと色素がキレート錯体を形成し、特定波長での吸光度変化から濃度を算出します。カルシウムなどの干渉はキレート剤(EGTAなど)で抑制され、検査の正確性を高めます。
精密分析では原子吸光法(AAS)や誘導結合プラズマ質量分析(ICP-MS)が用いられ、微量元素としての高感度・高特異的な定量が可能です。イオン化マグネシウムのみを測るイオン選択電極法(iMg)は、生理活性画分の評価に有用ですが、実施できる施設は限定的です。
血清と血漿(ヘパリン)で基準値がやや異なることがあります。溶血は赤血球内のマグネシウム流出により偽高値を招くため、検体取り扱いに注意が必要です。通常の報告単位はmg/dL(SI単位ではmmol/L)で、換算は1 mmol/L ≒ 2.43 mg/dLが目安です。
検査の臨床的活用では、測定法や検体条件の違いを理解し、同一方法で経時的にフォローすることが望ましいです。特に集中治療や妊娠合併症の管理では、迅速かつ再現性の高い測定系を選択することが安全性の確保に直結します。
参考文献
- ARUP Consult: Magnesium, Serum or Plasma — Test Fact Sheet
- Elin RJ. Assessment of magnesium status (Clin Chem Lab Med 2010)
正常範囲と数値の解釈
一般的な血清マグネシウムの基準範囲はおおむね1.7〜2.2 mg/dL(0.70〜0.91 mmol/L)ですが、施設や測定法で幅があります。健常者でも食事や日内変動、体液バランスで小幅な変動があるため、単回値よりも臨床像と経時変化で解釈します。
低マグネシウム血症は多くの施設で1.7 mg/dL未満と定義され、1.2 mg/dL未満では痙攣・不整脈など重篤な症状リスクが高まります。高マグネシウム血症は2.5 mg/dL以上で指摘されることが多く、4 mg/dL以上で悪心や徐脈、6 mg/dL以上で腱反射消失、10 mg/dL以上で呼吸抑制・15 mg/dL以上で心停止の報告があります。
低値のときは、利尿薬・PPI・アミノグリコシド・シスプラチンなど薬剤、慢性下痢や吸収不良、アルコール多飲、糖尿病性浸透圧利尿、原発性アルドステロン症、遺伝性腎尿細管異常(Gitelman症候群など)を鑑別します。
高値のときは、腎機能低下に伴う排泄障害、マグネシウム含有下剤や制酸薬の過量、腫瘍崩壊などを考慮します。妊娠高血圧腎症への硫酸マグネシウム投与では治療域(例:4.8〜8.4 mg/dL)内に維持されているかモニタリングが必要です。
参考文献
- MedlinePlus: Magnesium blood test
- StatPearls: Hypermagnesemia
- StatPearls: Hypomagnesemia
- StatPearls: Magnesium Sulfate
影響因子(遺伝と環境)
血中マグネシウム濃度は、腸管吸収・腎尿細管再吸収の効率と、細胞内外の分配によって決まります。これらはTRPM6/TRPM7、CNNM2、SHROOM3、MUC1などの遺伝子群により制御され、ゲノムワイド関連解析(GWAS)で血清マグネシウムとの関連が示されています。
家系・双生児研究や集団ベース研究では、血清マグネシウムの遺伝率は概ね30〜50%と推定され、残りは食事摂取量、アルコール、消化管の状態、薬剤、腎機能、ホルモン環境などの環境要因が占めると考えられています。推定値には集団差や測定法の違いによる幅があります。
環境面では、マグネシウム摂取不足、慢性下痢、吸収不良(セリアック、短腸症候群)、薬剤(PPI、ループ利尿薬、アミノグリコシド、シスプラチン)、糖尿病性浸透圧利尿、アルコール多飲などが低下要因です。逆に腎排泄低下やサプリ・下剤の過量は上昇要因となります。
遺伝と環境は相互作用し、特定の遺伝背景では薬剤誘発性低Mgのリスクが高まる可能性があります。臨床では、家族歴や食事・薬歴、腎機能を総合して個別化リスク評価を行うことが現実的です。
参考文献
- O’Seaghdha CM et al. Meta-analysis of GWAS for serum magnesium (Nat Genet 2010)
- de Baaij JHF et al. Magnesium in Man (Physiol Rev 2015)
- NIH ODS: Magnesium — Fact Sheet
異常時の対応
低マグネシウム血症では、重症度と症状、併存電解質異常(特に低K・低Ca)を評価します。軽症・無症候では経口補充(酸化Mg、塩化Mgなど)と原因除去が基本です。症候性や重症、経口不可・吸収不良時は硫酸マグネシウムの静注を用い、腎機能に応じて投与量を調整します。
補正のポイントは、低Mgが低K・低Caを難治化させることを踏まえ、Mg補正を先行または併行することです。アルコール関連やPPI起因、利尿薬関連では中止や薬剤切り替え、あるいは予防的補充を検討します。血中濃度は過補正を避けるため定期的に再測定します。
高マグネシウム血症では、まずMg含有薬剤の中止と腎機能評価を行います。軽症は輸液負荷とループ利尿薬で排泄促進を図り、中等度以上や症候性ではカルシウム製剤静注で拮抗、腎不全では血液透析を検討します。心電図モニタリングと呼吸状態の監視が重要です。
再発予防として、慢性腎臓病患者ではMg含有下剤の使用を最小限にし、薬剤性低Mgの既往がある患者には代替薬や用量調整、定期モニタリングを行います。食事ではナッツ、豆類、全粒穀物、葉物野菜などの摂取が推奨されます。
参考文献

