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血中ステアリン酸濃度

目次

定義と測定対象

血中ステアリン酸濃度とは、血液中に存在する脂肪酸の一種であるステアリン酸(18

)の量を指します。一般に「濃度」は、絶対量(μmol/Lやmg/dL)として報告される場合と、総脂肪酸に占める割合(mol%や重量%)として表される場合があり、どの脂質分画(血漿総脂質、リン脂質、コレステリルエステル、トリグリセリド、赤血球膜など)を測ったのかによって値の解釈が異なります。

ステアリン酸はパルミチン酸(16

)の伸長によって体内で合成され、また、食品由来の脂肪(例:牛脂、ココアバター)からも供給されます。血中に存在するステアリン酸は、遊離脂肪酸(NEFA)としてアルブミンに結合して循環するほか、リン脂質やトリグリセリド、コレステリルエステルの脂肪酸鎖として各種リポタンパクに組み込まれて運搬されます。

臨床や疫学では、脂質分画ごとの脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー(GC)で脂肪酸メチルエステル(FAME)にして測る方法が標準的です。赤血球膜の脂肪酸は過去数か月の摂取や代謝の反映とされ、一方で血漿トリグリセリドの脂肪酸は直近の食事や肝での合成の影響を強く受けます。したがって、同じ「ステアリン酸濃度」でも測定対象によって生理的意味が異なります。

ステアリン酸は飽和脂肪酸の中では比較的中性とされることが多いものの、代謝経路(例えばステアロイルCoAデサチュラーゼによるオレイン酸への変換)やスフィンゴ脂質(セラミド)への取り込みなどを通じて、細胞のシグナリングや膜性状に影響を与える可能性があります。従って、数値の変動は単に食事だけでなく、内因性代謝の変化を反映します。

参考文献

生理学的役割

ステアリン酸は細胞膜のリン脂質や中性脂質の構成要素として物理的性質を規定します。飽和度が高いため、膜の流動性を低下させ、受容体や輸送体の配置や機能に影響します。これはシグナル伝達や代謝応答にも関わり、特定の組織では機能的な適応に寄与します。

肝臓では、ELOVL6によってパルミチン酸が伸長されてステアリン酸になり、SCD1(ステアロイルCoAデサチュラーゼ)によってオレイン酸(18

)へ不飽和化されます。このバランスは肝脂肪蓄積やインスリン感受性に関連し、マウス実験ではELOVL6の制御が糖脂質代謝に影響することが示されています。

ステアリン酸はまたスフィンゴ脂質合成の原料として、セラミドの脂肪酸鎖に組み込まれます。セラミドはインスリンシグナルや炎症応答に影響する脂質メディエーターであり、鎖長の違い(C16

、C18
)が生理作用に違いをもたらすことが示唆されています。

食事由来のステアリン酸は他の飽和脂肪酸と比べ、血中LDLコレステロールに与える影響が相対的に小さい、または中性であるとするメタ解析が存在します。しかし、循環中のステアリン酸の高値が疾患リスクとどう関係するかは、測定分画や共存する代謝状態に依存して複雑です。

参考文献

規定因子(遺伝と環境)

血中ステアリン酸濃度を規定する要因は大きく遺伝的要因と環境的要因(食事、生活習慣、疾患、薬物など)に分けられます。遺伝学的には脂肪酸の伸長や不飽和化を担う酵素(ELOVL6、SCD1など)や脂質代謝経路の多型が組成に影響します。

GWASでは、循環脂肪酸の種類ごとに関連遺伝子座が報告されており、特に不飽和脂肪酸ではFADSクラスターの寄与が大きい一方、飽和脂肪酸ではSCDやELOVL関連のシグナルが指摘されています。ただし、単独のSNPが説明する分散は小さく、多因子性です。

環境要因としては、食事中の脂肪酸組成、炭水化物過剰によるde novo脂肪酸合成、体重やインスリン抵抗性、飲酒、喫煙、身体活動などが挙げられます。分画によっては直近の食事の影響が強い(血漿トリグリセリド)か、過去数週間〜数ヶ月の平均を反映する(赤血球膜)かで、環境要因の影響時間も異なります。

双生児・家族研究では、脂肪酸組成の遺伝率は脂肪酸の種類と分画によりおよそ20〜60%と幅があり、残りを環境要因が占めると推定されます。ステアリン酸(18

)についても中程度の遺伝率が示唆されますが、集団や測定法による差異が大きいため、厳密な推定には同一手法での検証が必要です。

参考文献

臨床的意義

疫学研究では、循環中の個々の飽和脂肪酸と疾病リスクの関連が検討されており、16:0や18

、奇数鎖飽和脂肪酸(15
、17
)は逆相関といった結果が報告されています。ただし分画や補正因子により関連の強さは異なります。

脂質代謝異常、肝疾患、栄養評価、脂肪酸代謝酵素の機能推定(例:SCD活性指標としての18

/18
)などで、血中ステアリン酸を含む脂肪酸プロファイルが用いられることがあります。単独の数値よりもプロファイル全体や比率の解釈が重要です。

臨床での意思決定では、ステアリン酸の「高低」だけでなく、BMI、インスリン感受性、トリグリセリド、肝機能、摂食状況などの文脈を合わせて評価すべきです。特に非空腹時や直近の食事の影響を受けやすい分画では前処理条件の標準化が求められます。

栄養介入では、飽和脂肪酸の置き換え(多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸への置換)や精製炭水化物の抑制が、全体の脂肪酸組成と代謝指標の改善に寄与することが示されています。ステアリン酸単独ではなく、食事パターン全体が重要です。

参考文献

測定法の基礎

標準的な定量は、有機溶媒での脂質抽出(Folch法またはBligh & Dyer法)に続き、脂肪酸をメチル化してFAMEとし、ガスクロマトグラフィー(GC-FIDまたはGC-MS)で分離・定量します。内部標準として重水素標識脂肪酸などを用いることで、回収率や感度のばらつきを補正します。

GCでは、炭素鎖長や不飽和度に応じて保持時間が異なるため、標準品ミックスで保持時間を同定し、ピーク面積からモル分率や濃度を算出します。FIDは炭素数に比例した応答を示すため、定量性に優れます。LC-MSを用いると、NEFAやリン脂質分子種レベルの情報も取得できます。

前処理では、分画の選択(血漿全体、リン脂質、赤血球膜など)と断食時間の統一が重要です。赤血球膜は回転が遅く、過去数か月の平均的な状態を反映しやすい一方、血漿トリグリセリドは直近の食事に敏感です。

検査結果の解釈では、実測の単位(mol%、μmol/L)、分画、分析誤差、季節変動、個体内変動などを考慮する必要があります。施設間差が大きいことがあるため、縦断的フォローでは同一施設・同一法での測定が推奨されます。

参考文献

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