終末糖化産物受容体(RAGE)血清濃度
目次
- 定義と背景:RAGEとsRAGE(可溶型RAGE)
- 測定法:sRAGE/esRAGEを定量する原理と前解析因子
- 生理的範囲と変動要因
- 疾患との関連と臨床的意義
- 遺伝要因の関与と候補遺伝子
- 臨床での解釈・活用の要点
定義と背景:RAGEとsRAGE(可溶型RAGE)
終末糖化産物受容体(Receptor for Advanced Glycation End-products; RAGE)は、AGEs(終末糖化産物)だけでなく、S100蛋白、HMGB1、アミロイドβなど多様なリガンドを認識するパターン認識受容体です。主に炎症や酸化ストレスの環境で発現が増え、細胞内ではNF-κB経路を活性化して炎症を自己増幅させる役割が知られています。
血中で測定される「RAGE血清濃度」は、多くの場合、膜貫通型RAGEから切断されて遊離した断片(cleaved RAGE; cRAGE)と、スプライシングにより分泌型として生成されるesRAGE(endogenous secretory RAGE)の総和である「可溶型RAGE(sRAGE)」を指します。したがって、臨床検査としてのRAGE測定は実質的にsRAGE(時にesRAGEを個別測定)を意味します。
sRAGEは、膜型RAGEと同じリガンド結合ドメインを持つため、血中でリガンドを中和する「デコイ受容体」として振る舞う可能性があります。一方で、疾患に伴う組織傷害や炎症でRAGEの発現や切断が増えるときに、結果として血中sRAGEが上昇することもあるため、単純に「高い=良い、低い=悪い」とは言い切れません。
RAGEの基礎的な生物学とsRAGEの測定は、糖尿病合併症、動脈硬化、腎疾患、肺傷害(ARDS)、神経変性疾患など幅広い領域で研究されており、バイオマーカー候補として注目されてきました。ただし、前処理条件やアッセイ差、腎機能などの共変量の影響が大きく、臨床での標準化はなお課題です。
参考文献
- The RAGE axis in chronic disease and aging (Circulation Research 2009)
- Gene: AGER (RAGE) – NCBI Gene
- Endogenous secretory RAGE (esRAGE) generation by alternative splicing (J Biol Chem 2003)
測定法:sRAGE/esRAGEを定量する原理と前解析因子
sRAGEの定量は、サンドイッチELISAが最も一般的です。捕捉抗体と検出抗体がRAGEのエクストラセルラー領域の異なるエピトープを認識し、酵素反応の発色(または化学発光)の強度から濃度を定量します。esRAGE専用ELISAは、スプライス特異的配列を標的とする抗体で測定します。
近年は電気化学発光免疫測定や多重測定プラットフォーム(例:MSD)も利用され、ダイナミックレンジや再現性の改善が進んでいます。ただし、アッセイ間で絶対値が大きく異なることがあり、同一個体の縦断追跡では同一法を用いることが推奨されます。
前解析因子として、採血材料(血清か血漿)、抗凝固薬の種類、採血から凍結までの時間、凍結融解回数が測定値に影響し得ます。血清とEDTA血漿で値が系統的に異なるという報告もあり、施設内での標準化が重要です。
RAGEは金属蛋白分解酵素(ADAM10/17など)による細胞外ドメインの切断でcRAGEを生じます。このため、炎症やせん断応力、薬剤によるシェディング制御が血中sRAGEに反映される可能性があります。測定値の解釈では、この生物学的生成機序にも留意が必要です。
参考文献
- Soluble RAGE as a biomarker in lung injury and ARDS (review)
- ADAM10-mediated shedding of RAGE (mechanistic insights)
- Assay considerations for sRAGE/esRAGE measurement (general review)
生理的範囲と変動要因
健常成人のsRAGEはおおむねサブng/mL〜数ng/mLの範囲で報告され、中央値は1 ng/mL前後(約1000 pg/mL)とする研究が多い一方、アッセイや母集団によって幅があります。esRAGEはsRAGEのサブセットで、一般に0.2〜0.6 ng/mL程度と報告されます。
年齢、性別、体格、腎機能、炎症状態、糖代謝状態、喫煙などが変動要因として知られます。腎機能低下ではクリアランス低下によりsRAGEが高値になりやすく、慢性炎症や急性肺傷害では上昇する一方、糖尿病や肥満では低値が報告されることがあります。
遺伝的要因も変動に寄与します。AGER遺伝子の多型やスプライシング制御、RAGEシェディングに関わる酵素群の遺伝的変異がsRAGE濃度の個人差に関係することが示唆されています。ただし、推定される寄与割合(遺伝率)は集団・解析法により幅が大きいのが現状です。
これらの要因は相互作用します。例えば、糖尿病でsRAGEが低いという疫学所見は、同時に腎機能や炎症マーカーを調整すると減弱することがあります。したがって、単一の要因で解釈するのではなく、共変量を含めた多変量的な見方が重要です。
参考文献
- Plasma sRAGE and atherosclerosis in type 2 diabetes (ATVB)
- sRAGE in community-dwelling older adults
- sRAGE in chronic kidney disease
疾患との関連と臨床的意義
糖尿病・動脈硬化領域では、sRAGE(とくにesRAGE)の低値が動脈硬化性疾患や合併症のリスクと関連する報告が多く、デコイ受容体仮説と整合します。ただし、逆に急性炎症や組織傷害(ARDS、敗血症など)では高値が予後不良のマーカーとなることがあり、病態依存で方向が逆転します。
慢性腎臓病では、腎クリアランス低下によりsRAGEが上昇する傾向があり、腎機能の指標と共に解釈する必要があります。アルツハイマー病など神経変性疾患では、RAGE–アミロイドβ軸が病態に関与する可能性が提唱され、sRAGEは病態の反映や治療標的の補助指標として研究されています。
呼吸器領域では、sRAGEは肺胞上皮(とくにtype I pneumocyte)傷害の指標として注目され、ARDSの重症度や予後と相関することが報告されています。集中治療領域でのバイオマーカーとしての実装研究が進んでいます。
一方で、sRAGEは疾患特異性が高いマーカーではありません。多くの炎症性・代謝性病態で変動し、アッセイ差や共変量の影響も大きいため、単独で診断やリスク層別化に用いるより、他の臨床情報やバイオマーカーと組み合わせて解釈するのが現実的です。
参考文献
- The RAGE axis in chronic disease and aging (Circulation Research 2009)
- Soluble RAGE in ARDS (review with clinical data)
- esRAGE and atherosclerosis in diabetes (Diabetes Care/ATVB reports)
遺伝要因の関与と候補遺伝子
RAGEをコードするAGER遺伝子の多型は、RAGEの発現量やリガンド親和性、スプライシング効率に影響し得ます。代表的な多型としてG82Sが知られ、機能変化や疾患関連が報告されています。これらはsRAGEの基礎値や応答性にも影響する可能性があります。
sRAGEの生成に関わるシェディング酵素(ADAM10/17)やスプライシング関連因子の遺伝的差異も、個体差の一部を説明し得ます。候補遺伝子アプローチや家系・集団研究での関連が示唆されていますが、推定される効果量は中等度で、環境要因との交互作用も大きいと考えられています。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、sRAGE濃度に関連する座位が複数報告され、RAGE経路以外の遺伝子も関与することが示唆されています。これらの知見は、sRAGEが単一遺伝子で規定されるよりも、多遺伝子・多因子性の量的形質であることを支持します。
ただし、sRAGEの遺伝率(全変動のうち遺伝要因で説明される割合)は研究ごとに幅があり、定量的合意には至っていません。測定法の違い、母集団差、共変量の調整方法が推定値に大きく影響するため、解釈には慎重さが必要です。
参考文献
- Gene: AGER (RAGE) – NCBI Gene
- Functional polymorphisms of RAGE and disease associations
- Overview of genetic determinants of circulating sRAGE
臨床での解釈・活用の要点
sRAGEは「病態の強さ」と「デコイ機能」の両方を反映し得るため、同じ値でも文脈により意味が異なります。慢性代謝性疾患では低値がリスクの指標になることがある一方、急性臓器傷害では高値が重症度を示すことがあります。
検査解釈では、同時の腎機能(eGFR)、炎症マーカー(CRPなど)、糖代謝指標(HbA1c)、体格(BMI)、喫煙歴、年齢・性別を可能な限り併せて確認し、必要なら多変量の枠組みで評価します。
施設・アッセイごとに基準範囲が異なるため、絶対値だけでの施設間比較は避け、縦断的なモニタリングや、同一法で測定された参照群との比較を重視します。結果に影響し得る前解析因子(採血・保存条件)にも注意します。
現時点で、sRAGEを単独で用いたスクリーニングや治療方針決定は一般化していません。研究目的や補助的リスク評価として位置づけ、臨床判断は総合的に行うことが推奨されます。
参考文献

