左右の内くるぶし間の水平距離
目次
定義と測定の基本
左右の内くるぶし間の水平距離(IMD)は、両足を自然にまっすぐ揃えて立位をとったとき、内果(内くるぶし)間の最短水平距離を指します。膝が内側に寄るX脚(外反膝、genu valgum)ではIMDが拡大し、逆にO脚(内反膝、genu varum)では膝間距離(intercondylar distance)が拡大します。簡便で被曝のないベッドサイド計測として小児整形外科で広く用いられています。
測定は、踵を揃え膝蓋骨を正面に向けた自然立位で、患者の筋緊張を最小限にし、両内果間の最短距離をメジャーで測ります。成長発達段階や体格、回旋アライメントの影響を受けるため、再現性を高めるには同一条件での反復測定や写真記録が推奨されます。
正常発達では、生後まもなくは軽度のO脚から始まり、2〜3歳で中立〜軽度X脚、3〜4歳でX脚が最大となり、その後7〜8歳頃までに成人に近いアライメントに戻ります。したがって、年齢別の正常範囲を理解したうえでIMDを解釈することが重要です。
臨床的には、7歳以降でIMDがおおむね8 cmを超える場合や、左右差が顕著、痛み・跛行・進行性変形がある場合には、単純X線を含む精査や専門医紹介が推奨されます。IMD単独では骨配列の全体像を示さないため、脛骨機械軸や大腿脛骨角など他の評価と併用します。
参考文献
- RCH: Normal lower limb alignment and variants
- Orthobullets: Genu Valgum (Pediatrics)
- Cleveland Clinic: Genu Valgum (Knock Knees)
臨床的意義とX脚評価
IMDはX脚の重症度を外来で素早く把握する指標で、身長や体重、年齢と合わせることで病的か生理的かの鑑別に寄与します。特に小児では経時的なIMDの推移が自然改善か進行かを判断する助けとなります。
成人や思春期以降でIMDが大きい場合、膝外側コンパートメント負荷の増大、膝蓋骨亜脱臼傾向、足部過回内など運動連鎖の破綻を伴うことがあり、スポーツ障害や変形性関節症リスクと関連する可能性があります。
ただし、IMDは体幹や股関節の回旋位置に影響を受けやすく、測定誤差を招きます。可能であれば膝蓋骨前方向位を確認し、両上前腸骨棘が前方に向くよう骨盤を整えたうえで測定します。必要に応じて脛骨機械軸角度や大腿脛骨角をX線で補完します。
評価は数値だけでなく機能を重視します。痛み、疲労のしやすさ、走跳動作、転倒の有無、歩容(内股歩き・反張膝など)を総合的にみることで、介入の必要性や理学療法の目標を明確にできます。
参考文献
発生機序と関連因子
X脚増悪とIMD拡大の機序は、成長期における骨端線の成長バランスの崩れと、荷重線の外側偏位に伴う力学的負荷の不均衡が中心です。外側への機械的軸偏位は外側成長板の圧迫を増し、ヒューテル・ヴォルクマンの法則により成長が抑制され、さらなる外反を助長します。
内的因子には靭帯弛緩性、股・膝・足部のねじれ配列、骨系統疾患があり、外的因子には肥満、反復する外反ストレス、ビタミンD欠乏性くる病や骨軟化症、外傷後成長板障害などが挙げられます。
栄養性くる病では、低カルシウム/低リン環境とビタミンD不足が骨石灰化を妨げ、荷重により成長板が変形しX脚やO脚を生じます。この場合、IMDは病勢の指標になり得ますが、血液検査とX線評価が不可欠です。
思春期以降の持続的なX脚は、膝蓋大腿関節の不安定性や外側コンパートメントの軟骨負荷増大を介して痛みや早期変性の素地になり得るため、骨切り術や成長誘導術を含む構造的介入を検討します。
参考文献
疫学・発達と年齢差
生後〜1歳代は生理的O脚が一般的で、2〜3歳にかけて中立〜軽度X脚へ移行し、3〜4歳で最大の外反(IMD最大)を示すのが典型的です。7〜8歳までに成人様の軽度外反〜中立に戻るのが通常の発達軌跡です。
性差として、女児の方がやや外反が強い傾向が報告されていますが、個体差が大きく、正常範囲内の変動として解釈されることが多いです。
病的外反(病的に大きいIMD)の有病率は地域・栄養状態・基礎疾患の有無に左右され、明確な世界的・国別推計は限られています。栄養性くる病の地域流行がある環境では病的外反の頻度が相対的に高くなります。
臨床では、年齢相応の生理的変化と病的所見(痛み、左右差、進行、低身長、全身所見)を区別することが重要で、縦断的なIMD計測と写真記録が判断に役立ちます。
参考文献
- Salenius & Vankka: The development of the tibiofemoral angle in children
- RCH: Normal lower limb alignment and variants
治療・介入と予後
多くの小児のIMD拡大は生理的で、経過観察と家庭でのフォロー(定期測定・記録)が基本です。肥満や筋力低下がある場合は生活指導と理学療法が有用です。ビタミンD欠乏が疑われれば、採血で確認し適切な補充療法を行います。
病的外反が疑われる場合、成長期には骨端成長を利用した一側骨端抑制(ガイデッドグロース)が低侵襲で効果的です。骨成熟後は遠位大腿骨や近位脛骨の矯正骨切り術を検討します。これらはIMDだけでなく機械的軸全体を矯正します。
疼痛管理や動作最適化には、股・膝・足部のアライメントを包括的に捉えた理学療法、足底板の活用が補助的に役立つことがあります。ただし構造的変形が主因なら手術的矯正が根本治療です。
予後は原因と重症度に依存します。生理的外反は自然改善が期待でき、病的外反でも適切な時期の介入で機能改善が見込めます。長期的には膝蓋大腿痛や外側コンパートメントの変性リスク低減を目指します。
参考文献
- Cleveland Clinic: Genu Valgum (Knock Knees)
- Orthobullets: Genu Valgum (Pediatrics)
- NHS: Rickets and osteomalacia
日本の医療制度と費用補助
日本では、X脚矯正手術や入院・検査費用は公的医療保険の対象で、自己負担は年齢や所得に応じて1〜3割です。一定額を超えた場合は高額療養費制度により払い戻しが受けられ、経済的負担を軽減できます。
小児では多くの自治体で子ども医療費助成があり、外来・入院の自己負担が大幅に軽減または無料になる地域もあります。具体的な対象年齢や所得制限は自治体ごとに異なるため、居住地の制度を確認することが重要です。
成長誘導術や矯正骨切り術の総費用は病院や術式、入院日数で幅がありますが、公的保険適用下では自己負担は数万〜十数万円程度に収まることが一般的です(高額療養費適用前後で変動)。
術前後の理学療法、装具、通院交通費などの付随費用も考慮に入れるべきです。学齢期の療育・就学支援や学校生活の合理的配慮は、主治医の診断書をもとに学校と相談して整備します。
参考文献

