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小麦依存性運動誘発アナフィラキシー

目次

定義と臨床的特徴

小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)は、小麦を摂取した後に運動やアスピリンなどの“共存因子”が加わることで初めてアナフィラキシーが誘発される特殊な食物アレルギーです。単独で小麦を食べる、あるいは単独で運動するだけでは症状が出ない点が特徴で、症状は蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下など多彩です。

成人発症が多く、日本を含む東アジアで比較的多く報告されています。原因アレルゲンとしては小麦タンパクの中でもω-5グリアジン(Tri a 19)や高分子量グルテニンが主要とされ、特異的IgE抗体の測定が診断に有用です。

症状は小麦摂取後1〜4時間で運動が重なると出現することが多く、アルコールや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、月経、感染症、睡眠不足などもしばしば症状を増悪させます。

一次予防は“共存因子が関与する時間帯に小麦を避ける”こと、二次予防はエピネフリン自己注射製剤の携帯と迅速な対応教育が中心です。

参考文献

疫学と負担

WDEIAは全アナフィラキシーの中では稀な疾患ですが、運動誘発アナフィラキシーの原因としては重要です。日本では成人例の報告が多く、学校や職場の体育活動、趣味の運動時に発症することがあります。

明確な有病率は地域差と診断基準の違いにより推定が難しいとされています。医療機関への受診記録ベースの研究では、食物依存性運動誘発アナフィラキシー全体がアナフィラキシーの一部を占めることが示されていますが、厳密な人口ベースの推計は不足しています。

性差については研究によりまちまちで、男性優位とする報告も女性優位とする報告もあります。年齢は思春期以降〜中年に多い傾向ですが、小児例も存在します。

患者負担としては、日常の運動や外食の制限、救急受診のリスク、エピネフリン自己注射の携帯・更新費用などが挙げられます。

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病態生理

WDEIAは基本的にIgE介在性の即時型アレルギーで、肥満細胞・好塩基球からのメディエーター放出が全身症状を引き起こします。主要アレルゲンであるω-5グリアジンに対する特異的IgEがしばしば検出されます。

運動やNSAIDs、アルコールなどの共存因子は、腸管透過性の上昇、胃内容排出・消化の変化、皮膚や筋肉への血流変化、pHや浸透圧の変化などを介して、アレルゲンの吸収量や体内動態を変化させ発症閾値を低下させます。

組織トランスグルタミナーゼによるグリアジンの架橋化や、高分子複合体形成がIgE架橋効率を高めうることも示唆されています。

結果として、通常は症状を起こさない摂取量でも運動などが重なると臨床的に顕著なアナフィラキシーが発現します。

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診断

診断は病歴(小麦摂取と運動・NSAIDs・アルコールなどの共存因子の時間的関係)と、特異的IgE検査(特にω-5グリアジン、場合により高分子量グルテニン)を組み合わせて行います。皮膚プリックテストや小麦特異的IgEは陽性でも非特異的なことがあるため、成分特異的IgEが有用です。

確定診断が難しい場合は、入院下で小麦負荷と運動負荷(あるいはアスピリン併用)を組み合わせた誘発試験が実施されることがありますが、重篤な反応リスクがあるため設備の整った施設でのみ行います。

鑑別には、単純な運動誘発蕁麻疹・コリン性蕁麻疹、単純な小麦アレルギー、アルコールやNSAIDs単独による反応、蕁麻疹の他疾患が含まれます。

バイオマーカーとしての好塩基球活性化試験は一部施設で研究的に用いられますが、標準検査ではありません。

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治療と予防

急性期はエピネフリン筋注が第一選択で、救急要請と気道・循環の支持が必要です。抗ヒスタミン薬や全身ステロイドは補助的で、生命予後を改善する第一次治療ではありません。

長期管理では、運動前後一定時間の小麦回避(例:運動前4〜6時間、運動後1〜4時間の回避)と、共存因子(NSAIDs、アルコール、感染、睡眠不足、月経など)の管理が基本です。

エピネフリン自己注射の処方・携帯と、本人・周囲の対応教育が重要です。オマリズマブ等の生物学的製剤は症例報告レベルで有効例があるものの、適応外でエビデンスは限定的です。

小麦に対する特異的免疫療法はWDEIAでは確立しておらず、日常診療で推奨されません。

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