Vermis Crus VIIIa 小脳の灰白質の容積
目次
用語の定義と解剖学的背景
Vermis Crus VIIIa は、小脳虫部(vermis)のうち、後方の第VIII葉(VIII lobule)の前半(a区画)に相当すると解釈される領域です。一般に「Crus(脚)」という呼称は小脳半球のCrus I/IIに用いられるため、文献やアトラスによっては虫部VIIIaを単に「vermis VIIIa」ないし「lobule VIIIa(vermis)」と表すことが多く、命名の揺れが存在します。
小脳灰白質の容積は、主にプルキンエ細胞や顆粒細胞など神経細胞体を含む皮質層の体積量を指し、神経回路の発達・萎縮・可塑性の間接指標として用いられます。虫部VIIIは体幹・近位筋制御や平衡機能に関与する感覚運動領域群に含まれ、機能的結合研究でもその位置づけが支持されています。
解剖学的には、虫部VIIIは虫部VII(小節・小葉VII)より尾側、虫部IX・X(小節を含む)より吻側に位置します。境界は肉眼解剖では不鮮明なこともあり、MRI上では標準空間への正規化とアトラス照合により区画が同定されます。
領域名の揺れは研究間の比較を難しくする要因であり、Diedrichsenらの小脳アトラスやSUIT(Spatially Unbiased Infratentorial Template)など、標準化された座標系と定義を用いることが推奨されます。
参考文献
- A probabilistic MR atlas of the human cerebellum (Diedrichsen et al.)
- The organization of the human cerebellum estimated by intrinsic functional connectivity (Buckner et al., 2011)
- Functional topography in the human cerebellum: A meta-analysis (Stoodley & Schmahmann, 2009)
測定と定量化の基本
灰白質容積はT1強調構造MRIから推定されます。高解像度(例:1mm等方)で全脳撮像し、バイアス補正・頭蓋外除去・組織分類(灰白質/白質/脳脊髄液)を行います。その後、標準空間へ正規化し、小脳特化テンプレートを用いて領域ごとに体積を集計します。
小脳は折り畳みが複雑でテント下構造に特有の変形があるため、SUITなど小脳専用の正規化・分割手法を用いると精度が向上します。アトラスベースのROI法、ボクセルベース形態解析(VBM)、表面ベース法のいずれも応用可能です。
CERESやACAPULCOのような自動小脳葉分割法は、学習ベースのラベルフュージョンや深層学習を用いて、半球葉と虫部葉(VIIIa/b 含む)を準自動で定量化できます。再現性は良好ですが、スキャナーや撮像条件に依存します。
数値は通常、全脳容積や頭蓋内容積(ICV)で補正し、年齢・性別を共変量とする回帰やZスコアで標準化します。小領域ほど測定誤差の影響が大きく、解釈には統計的信頼区間の確認が不可欠です。
参考文献
- SUIT: Spatially Unbiased Infratentorial Template
- Voxel-based morphometry—the methods (Ashburner & Friston, 2000)
- CERES: A new cerebellum lobule segmentation method (Romero et al., 2017)
遺伝・環境要因とその寄与
Vermis VIIIa固有の遺伝率は十分に確立していませんが、全小脳灰白質や小脳皮質体積の研究からは、中等度から高い遺伝的寄与が示唆されています。双生児研究では小脳全体の体積に対して0.5〜0.8程度の遺伝率が報告されてきました。
大規模集団(UK Biobank)に基づくSNP遺伝率(狭義の遺伝率)は小脳関係指標でおおむね0.2〜0.6程度とされ、全遺伝率の下限を示します。これは測定誤差や未観測の希少変異、環境要因の影響を受けます。
環境要因には発達期の栄養、運動習慣、毒性物質(例:慢性大量飲酒)、頭部外傷、炎症性・変性疾患などが含まれ、灰白質容積に影響し得ます。領域特異的な脆弱性については今後の研究課題です。
結論として、虫部VIIIaの灰白質容積は遺伝と環境の双方に規定され、比率はコホートや手法で変動します。評価時は研究デザイン(双生児か、SNP遺伝率か)と信頼区間を確認することが重要です。
参考文献
- BIG40: UK Biobank brain imaging genetics (heritability dashboards)
- Genetic influences on human brain structure: a review (Peper et al., 2007)
正常範囲と数値解釈
虫部VIIIaのような小領域では、固定的な「正常値」は存在せず、年齢・性別・ICV・撮像条件を考慮した参照分布に対する相対的位置(Zスコア、百分位)で理解するのが現実的です。
加齢に伴う全体的な灰白質減少がある一方、領域間の減少率は一様ではありません。小脳は比較的保たれるとの報告もありますが、運動や代謝、生活習慣の影響で個人差が広がります。
解釈では左右差よりも虫部と半球の機能差、近接領域との一貫性、臨床症候(体幹失調、歩行障害など)との対応づけが鍵になります。単独の数値変化は非特異的で、結論には複数指標の合意が必要です。
同一個人内の縦断変化は装置変更や解析バージョンでも影響を受けるため、再撮像やファントム補正、同一パイプラインでの再解析が推奨されます。
参考文献
- Brain charts for the human lifespan (normative modeling resource)
- SUIT user guidance (normalization and ROI extraction)
臨床的意義と応用
虫部VIIIは感覚運動ネットワークに属し、姿勢・歩行・体幹協調に関与します。機能的MRIやメタ解析で、VIII領域の運動課題関連活動が示されており、体幹失調などの症状と対応し得ます。
灰白質容積減少は神経変性や毒性(慢性飲酒など)に伴うことがあり、患者群研究で虫部や半球小脳の容積低下が報告されています。ただし疾患特異性は高くありません。
発達・精神神経領域では、虫部VI–VIIIを含む小脳変化が行動・認知との関連で研究されていますが、VIIIa単独の知見は限定的です。体積よりも結合性や機能指標が感度で勝る場合もあります。
臨床応用では、バイオマーカーとしての有用性を検証するため、効果量、再現性、前向き予測価値を評価し、他の脳・行動指標と統合することが重要です。
参考文献
- Functional topography in the human cerebellum (Stoodley & Schmahmann, 2009)
- Alcohol and the cerebellum/brain: review (Sullivan & Pfefferbaum, 2013)
研究・実務での注意点
アトラス間での命名や境界の違い(例:VIIIa/bの分割方法)は結果の可搬性に影響します。用いたアトラスと座標、閾値、補正方法(ICV、FDRなど)を明記することが再現性の前提です。
小領域の体積は分解能とスムージングの設定に敏感です。前処理(セグメンテーション、bias補正、正規化)を標準化し、品質管理(QC)を行うことで系統誤差を低減できます。
多施設データではスキャナーやソフトの違いがばらつきを生むため、ComBatなどのバッチ補正や階層モデルでの調整が推奨されます。
オープンデータ/ツール(UK Biobank、SUIT、CERES)は学習用に有用ですが、臨床判断には症候・既往・検査を統合した総合評価が不可欠です。
参考文献

