Forest background
バイオインフォの森へようこそ

ST2タンパク質(ST2)血清濃度

目次

ST2とは何か:基本概念と生物学的背景

ST2はIL1RL1遺伝子にコードされ、IL-33の受容体として働く分子で、膜型のST2Lと可溶型のsST2という主要アイソフォームがあります。sST2は血中に分泌され、IL-33を捕捉する“デコイ受容体”として機能し、免疫応答や組織修復のシグナルを調節します。

心臓や血管、肺、免疫細胞など多様な組織でST2/IL-33軸は発現し、機械的ストレスや炎症刺激でsST2産生が促進されます。心筋や線維芽細胞での伸展刺激はsST2を増やし、心筋リモデリングと関連します。

IL-33がST2Lに結合するとTh2系サイトカインの誘導や組織保護的な反応が起きますが、sST2が過剰だとIL-33の効果が減弱し、炎症や繊維化のバランスが変化します。

このような生物学的特性から、sST2は心不全、肺疾患、自己免疫、感染症など多彩な病態で上昇しうる、全身性ストレスとリモデリングの統合的マーカーと見なされています。

参考文献

臨床的意義:心不全を中心とした予後予測

sST2は慢性・急性心不全で予後予測性が高く、入院や死亡リスクの層別化に有用と多数の研究で示されています。BNP/NT-proBNPや高感度トロポニンと併用すると、独立情報を加えることができます。

sST2は腎機能、肥満、年齢の影響を受けにくい特性があり、他バイオマーカーの弱点を補います。治療反応のモニタリングにも応用可能で、経時的低下は転帰改善と関連します。

ガイドラインや専門学会のステートメントでも、sST2はハイリスク同定や治療最適化の補助指標として位置づけられています。ただし単独で診断に用いるより、臨床所見との統合評価が推奨されます。

心不全以外にも、肺線維症、COPD急性増悪、敗血症、重症COVID-19などで上昇し、疾患重症度やアウトカムと相関する報告が増えています。

参考文献

測定法:免疫測定の基本と実装

sST2は主にサンドイッチ型免疫測定法(ELISAや自動化イムノアッセイ)で定量されます。2つのモノクローナル抗体がsST2を挟み込み、酵素や化学発光でシグナルを検出します。

検量線は既知濃度の標準品で作成し、未知試料のシグナル強度から濃度を算出します。重要な性能項目は感度、直線性、回収率、再現性、マトリックス効果の確認です。

代表的なキットとしてPresage ST2アッセイが知られ、医療機関の臨床検査室や研究室で広く用いられています。機器ごとに測定系が異なるため、検査室間差補正や外部精度管理が必要です。

前処理(溶血・溶脂・高ビリルビン血清の影響)や保存条件、凍結融解の回数など前分析要因は結果に影響しうるため、採血から測定までの標準化が重要です。

参考文献

基準値・カットオフと臨床解釈

健常集団のsST2は一般に低値で、中心傾向は10~30 ng/mL程度と報告されます。慢性心不全では35 ng/mLがしばしばリスク層別化のカットオフとして用いられます。

35 ng/mL未満は比較的低リスク、35 ng/mL以上はイベントリスク上昇と関連します。急性期ではより高い値を取りうるため、経時推移や他バイオマーカーとの組合せ解釈が重要です。

sST2は年齢や腎機能の影響が小さいものの、炎症や感染、肺病変など非心臓要因でも上がるため、臨床状況を踏まえた鑑別が不可欠です。

シリアル測定での変化率は有用で、治療後の有意な低下は予後改善と関連する一方、上昇持続はハイリスクのシグナルになり得ます。

参考文献

遺伝的・環境的要因と研究動向

sST2はIL1RL1遺伝子多型の影響を受け、ゲノム関連解析で同座位のバリアントが血中濃度と関連することが示されています。ただし説明される分散は限定的です。

双生児・家族研究や大規模コホートから、全体の遺伝率は中等度(概ね30~40%)と推定され、残りは生活習慣、炎症状態、疾患負荷など環境・生理要因が占めると考えられます。

喫煙、肥満、急性炎症や感染、肺疾患、心臓の機械的ストレスはsST2上昇に寄与します。一方、運動療法や体液管理、心不全治療の最適化で低下することがあります。

今後は多民族集団でのGWAS、因果推論(メンデル無作為化)や機械学習を用いた多因子モデルで、個別化医療への応用が期待されます。

参考文献