QT間隔
目次
定義と生理学的背景
QT間隔は心電図(ECG)上でQRS開始からT波終末までの時間で、心室の脱分極開始から再分極完了までの総電気活動を表します。これは心拍数や自律神経緊張、体温、電解質などに影響され、同一人でも条件により変動します。
心室の活動電位はNa+流入による立ち上がり、Ca2+流入とK+流出のバランスで維持されるプラトー、そしてK+流出優位の再分極で構成されます。QT間隔は主としてこの活動電位持続時間の集団的表現であり、チャネル機能の微小な変化が全体の長さに反映されます。
心電図ではT波終末の同定が難しいことがあり、U波が重なる、T波が二峰性である、基線が揺れるといった状況では測定誤差が生じ得ます。臨床では複数誘導を比較し、最も明瞭な誘導(II、V5など)で読み取るのが一般的です。
QTは心拍数に依存するため補正QT(QTc)が用いられますが、補正式にも限界があります。極端な頻脈・徐脈、伝導異常、ペースメーカ下などではQTcの解釈に注意が必要で、背景病態と併せた総合判断が求められます。
参考文献
遺伝・環境要因と遺伝率
一般集団におけるQT間隔のばらつきには遺伝と環境の双方が関与します。家系・双生児研究やゲノムワイド関連解析から、QTの遺伝率は概ね30〜40%程度と推定され、残りは薬剤、電解質、心拍数、自律神経など環境要因の影響が大きいと考えられます。
一方、先天性Long QT症候群(LQTS)はKCNQ1、KCNH2、SCN5Aなどのイオンチャネル遺伝子変異によりQTが著明に延長する稀な疾患で、遺伝要因が主要因です。しかし表現型は交感神経刺激や電解質により修飾され、環境要因も発症リスクに寄与します。
一般集団のQT長短には多数の一般的多型が小さな効果量で寄与し、累積してQTcを変動させます。これらの多型は薬剤誘発性QT延長やTdPの感受性にも関係していることが示唆されています。
したがって、個々人のQTは「遺伝の素地×環境トリガー」の積で決まり、薬剤投与や電解質異常の場面では特に個体差への配慮が必要です。
参考文献
- NEJM: Common variants influence QT interval (2009)
- Nature Genetics: 35 loci for QT interval (2014)
- PMCID: Congenital LQTS review (Schwartz et al.)
測定と補正(QTc)の理論
測定は紙速25mm/s、感度10mm/mVを前提に、QRS開始からT波終末(接線法)までをミリ秒で測ります。複数拍を平均し、期外収縮後の拍や明らかなアーチファクトは除外することが推奨されます。
心拍数補正にはBazett(QT/√RR)、Fridericia(QT/∛RR)、Framingham(線形)などが広く用いられます。Bazettは頻脈で過補正、徐脈で過小補正になりやすく、FridericiaやFraminghamの方が実地で安定的とされます。
T波終末の定義には目視(接線法)、自動アルゴリズムなどがありますが、U波重畳や低振幅T波では再現性が低下します。ガイドラインでは自動計測に頼り過ぎず、臨床文脈での見直しが勧められます。
薬剤のQT安全性評価ではICH E14に基づく“Thorough QT/QTc”試験が行われ、平均QTc変化10ms超が規制上のシグナルと扱われます。これは人集団での平均効果を検出する枠組みであり、個体差の評価は臨床現場で補う必要があります。
参考文献
臨床的意義とリスク層別化
QT延長はトルサード・ド・ポワント(TdP)と呼ばれる多形性心室頻拍のリスクを高め、失神や突然死の原因となります。特にQTc≥500msはリスクが顕著に上昇します。
後天性QT延長の原因には低K、低Mg、低Ca、薬剤(抗不整脈、マクロライド、フルオロキノロン、抗精神病薬など)、虚血、徐脈、低体温が挙げられます。薬剤相互作用や腎不全も増悪因子です。
一方、短QTはまれですが、心房細動や致死性不整脈の素因となることがあります。男性でQTc<350ms、女性で<360msが疑い所見とされます。
リスク層別化では症状、家族歴、QTcの長さ、トリガー、遺伝学的所見を総合し、先天性LQTSではベータ遮断薬、ハイリスク例ではICDが検討されます。
参考文献
管理・治療と予防
QT延長が見つかった場合は、まず原因検索と可逆因子の是正を行います。具体的にはQT延長薬の中止・置換、低K/低Mg/低Caの補正、徐脈是正、虚血の評価などです。
TdPが発生した場合は静注硫酸マグネシウム、カテコラミン依存の徐脈なら一時ペーシングやイソプロテレノールを用いることがあります。持続する不安定VT/VFには除細動が必要です。
先天性LQTSでは非選択的ベータ遮断薬(ナドロール、プロプラノロール等)が一次予防の基礎で、反復失神例や遺伝子型・表現型が高リスクの患者ではICDや左側心臓交感神経切除が検討されます。
予防の観点では、ハイリスク薬の新規投与前・投与中のECG、電解質の定期チェック、薬剤相互作用の確認(CredibleMeds活用)、発熱や脱水時の注意喚起が重要です。
参考文献

