PQ間隔
目次
定義と生理学的背景
PQ間隔(国際的にはPR interval)は、心電図でP波開始点からQRS複合の開始点までの時間で、心房から房室結節、His-Purkinje系を経て心室へ興奮が伝わる総時間を表します。房室結節での電気遅延が主に寄与し、心房収縮が心室充満に先行する時間的余裕を作ります。
この遅延は生理的に重要で、心房からの駆出血が心室拡張末期容量を補う「心房キック」を可能にします。自律神経の影響を強く受け、迷走神経優位では延長し、交感神経優位では短縮します。
PQ間隔は年齢、体格、心拍数の影響も受けます。加齢や心臓線維化の進行で延長傾向となり、若年者や心拍数が高い状況では短く見えることがあります。訓練された持久系アスリートでは迷走神経緊張により軽度延長することがあります。
臨床では「PR間隔」という用語が英語圏で一般的ですが、日本語文献ではPQ間隔と表記されます。計測上はどの誘導でも可能ですが、P波が明瞭なII誘導やV5での判読が推奨されます。
参考文献
- AHA/ACCF/HRS Recommendations for the Standardization and Interpretation of the Electrocardiogram (Part III)
- Physiology, Atrioventricular Node - StatPearls
- PR interval – ECG Library (LITFL)
正常値と測定法
成人のPQ間隔の正常範囲は概ね120〜200ミリ秒です。小児では年齢とともに延長し、体格や心拍数の影響を受けます。測定は紙速25mm/秒で小マス1mm=40ms、大マス5mm=200msとして読み取ります。
計測はP波の立ち上がり(ベースラインからの初動)から、QRSの最初の偏位点(QまたはRの開始)までを直線的に測ります。デルタ波がある場合は、QRS開始の判定が難しく、解釈に注意が必要です。
自動解析ではオンセット検出アルゴリズムが用いられますが、P波は振幅が小さく雑音の影響を受けやすいため、目視確認の併用が推奨されます。リード間でばらつきがある場合は最も明瞭な誘導を採用します。
心拍数が高いとPQ間隔は短縮し、房室結節の頻度依存性(rate-dependent)により変動します。このため、比較や経時評価では同等の状態・心拍で測ることが望ましいです。
参考文献
- AHA/ACCF/HRS Recommendations for the ECG: Part III (Measurement standards)
- PR interval – ECG Library (LITFL)
- ECGpedia – PR interval
異常所見と臨床的意義
PQ間隔が200msを超えると第1度房室ブロックと定義されます。多くは無症状ですが、著明な延長(例: 300ms超)では運動耐容能低下や擬似ペースメーカー症候群様症状を呈することがあります。
一方、120ms未満の短縮は心拍数増加や若年の生理的変動でもみられますが、デルタ波を伴えばWPW症候群などの副伝導路による早期興奮を考えます。臨床症状や既往と合わせた総合判断が重要です。
長いPQ間隔は、将来の心房細動、ペースメーカ植込み、全死亡リスクと関連することが報告されていますが、個々人でのリスクは多因子的です。無症状の軽度延長は経過観察となることが多いです。
薬剤(β遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジゴキシンなど)、電解質異常、虚血や心筋炎、浸潤疾患も延長の原因です。原因検索と薬剤調整が初期対応として重要です。
参考文献
- Cheng et al. Long-term Outcomes in Individuals With Prolonged PR Interval (JAMA 2009)
- 2018 ACC/AHA/HRS Guideline on the Evaluation and Management of Patients With Bradycardia and Cardiac Conduction Delay
- PR interval – ECG Library (LITFL)
遺伝的要因と環境的要因
家族研究や双生児研究から、PQ(PR)間隔は中等度の遺伝性を持つ量的形質とされ、概ね30〜50%の遺伝率が報告されています。一方で自律神経調節や年齢、併用薬など環境要因の影響も大きいです。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、SCN5A/SCN10A、TBX5、CAV1/2など心筋の電気伝導に関与する多数の座位が同定され、房室伝導時間の生物学的基盤が裏付けられました。
ただし、SNPで説明される分散(SNP-based heritability)は家族ベースの遺伝率より低く、遺伝と環境の相互作用も想定されます。そのため個人のPQ間隔は多因子的に決まります。
環境要因として、迷走神経緊張、運動トレーニング、電解質異常、甲状腺機能、虚血や炎症、薬剤などが知られ、短期的な変動から慢性の線維化まで影響タイムスケールは多様です。
参考文献
- Pfeufer et al. Genome-wide association study of PR interval (Nat Genet 2010)
- Nielsen et al. Genome-wide studies of cardiac conduction traits
- PR interval – ECG Library (LITFL)
測定上の注意と実務
P波が低電位の患者や基線揺れが強い場合、P波開始点の同定が難しくなります。紙記録では拡大鏡やノギス、デジタルではキャリパー機能を用い、複数拍で平均化して評価します。
デルタ波がある例では、QRS開始点が曖昧になり、PR短縮の解釈に落とし穴があります。WPW疑いでは副伝導路の位置推定や不整脈リスク評価も並行して行います。
房室解離や接合部調律ではPとQRSの関係が崩れ、PQ間隔の概念が当てはまらない拍も混在します。拍ごとの対応関係を確認し、適切な拍を選んで測定します。
シリアル比較では、同じ誘導設定、紙速、増幅、体位、呼吸条件にできるだけ揃えると再現性が高まります。自動解析値は便利ですが、必ず目視で妥当性を確認します。
参考文献

