Forest background
バイオインフォの森へようこそ

PP間隔

目次

定義と基礎

PP間隔とは心電図における連続するP波とP波の間隔で、心房の拍動周期(心房レート)を表します。洞結節が発する電気信号が心房を興奮させるたびにP波が出現し、その出現間隔がPP間隔です。これはRR間隔が心室レートを示すのに対し、より上流である洞結節の周期性を直接反映します。

PP間隔は時間(ミリ秒)で測られ、理論的には心拍数と反比例します。すなわち、心拍数[bpm]=60,000/PP間隔[ms]で近似できます。安静時に心拍数が60–100/分であれば、PP間隔はおよそ1000–600msの範囲に入ります。これにより、単純な計算で心拍数を推定できます。

PP間隔の規則性は洞調律の安定性を示し、規則的であれば洞結節のペースメーカ機能が保たれていると解釈されます。一方、不規則性が大きい場合は自律神経影響、呼吸性変動、洞房ブロックや上室性期外収縮など多様な要因を考えます。

臨床現場ではP波の検出がRR間隔より難しいことがあり、低振幅や雑音で見落とされることがあります。したがってPP間隔の評価では、P波の形態やリード選択、フィルタリングなどの前処理が重要となります。

参考文献

生理学と自律神経

PP間隔は洞結節の自発脱分極速度によって決まり、交感神経刺激で短縮し、副交感神経(迷走神経)優位で延長します。これにより運動、ストレス、発熱で短縮し、睡眠や安静、瞑想で延長する生理的な変動が生じます。

若年者では呼吸性洞性不整脈が目立ち、吸気でPP間隔は短縮、呼気で延長します。これは高い迷走神経トーンの表れで、一般に生理的で無害です。加齢とともに自律神経の可塑性が低下し、変動幅は減少する傾向があります。

ホルモンや体温、電解質、甲状腺機能などもPP間隔に影響します。甲状腺機能亢進では短縮し、低下では延長します。発熱では約1°Cあたり心拍数は10/分程度上昇し、対応してPP間隔が短くなります。

洞結節自体の病変(線維化、虚血、薬剤性抑制)ではPP間隔が過度に延長したり不安定になります。洞不全症候群では長い洞停止や洞房ブロックが生じ、PP間隔の倍数のポーズが観察されることがあります。

参考文献

臨床的意義

PP間隔の規則性評価は洞調律の確認と、洞房ブロック、洞停止、上室期外収縮の診断に役立ちます。洞房ブロックでは、ポーズの長さが直前のPP間隔のほぼ2倍(または整数倍)になる所見が特徴的です。

心房細動では同定可能なP波が消失するため、PP間隔は測れません。この場合はRR間隔の不規則性で評価します。心房粗動では鋸歯状のF波が出現し、PPではなく粗動周期(FF間隔)を評価します。

PP間隔の時系列解析(時間領域・周波数領域)は心拍変動解析の一部として自律神経の評価に応用できます。ただし通常はR波検出の頑健性からRR間隔が用いられることが多いです。

薬剤評価でもPP間隔は有用です。β遮断薬や非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリスはPP間隔を延長させ、交感神経刺激薬や甲状腺ホルモンは短縮させます。これらの変化は臨床効果と副作用の手掛かりになります。

参考文献

測定と解析法

紙の心電図ではノギスや目盛で連続するP波の開始点間を計測します。デジタル心電図ではアルゴリズムでP波開始点を検出し、拍ごとのPP間隔を配列として出力します。

P波は低振幅でノイズの影響を受けやすいため、バンドパスフィルタ、波形平均化、テンプレートマッチング、ウェーブレット解析などの前処理・検出法が用いられます。QRS検出に比べ誤検出率が高いため、複数リードの統合も有効です。

PP間隔の基本式は心拍数[bpm]=60,000/PP[ms]です。PP間隔のヒストグラムや変動係数、RMSSD、パワースペクトルなどを用いれば、自律神経バランスや周期性の評価が可能です。ただし標準化はRR解析に比べ限定的です。

ウェアラブルやホルター心電図では長時間のPP時系列が得られ、日内変動、睡眠・運動・食事の影響を可視化できます。アーチファクト除去、期外収縮の除外、欠測補完などの前処理が解析の要になります。

参考文献

遺伝・環境と変動要因

PP間隔は実質的に安静時心拍数の逆数であり、遺伝学研究から安静時心拍数の遺伝率は概ね30–50%と報告されています。残りは身体活動、体格、喫煙、カフェイン、ストレスなど環境要因が大きく寄与します。

大規模GWASでは交感・副交感調節や洞結節イオンチャネルに関連する遺伝子座が同定され、洞結節のペースメーカ機能に遺伝的背景があることが示されています。これらはPP間隔の個人差の一部を説明します。

双生児研究は心拍変動や安静時心拍の遺伝性を支持しつつ、共有・非共有環境の寄与も大きいと示します。生活習慣介入でPP間隔は十分に変えられる点が臨床的に重要です。

薬剤、甲状腺機能、発熱、トレーニング、睡眠不足、アルコールなど多因子がPP間隔を変化させます。評価時には測定条件(体位、呼吸、時間帯、カフェイン摂取)を標準化することが望まれます。

参考文献