P持続時間
目次
概要
P持続時間とは、12誘導心電図におけるP波(心房の脱分極を示す電位)の開始点から終了点までの継続時間をミリ秒で表したものです。心房内と心房間の伝導の遅れを反映し、解剖学的な心房拡大や線維化、電気生理学的な伝導異常の指標として用いられます。
一般に成人ではP持続時間は80〜110 msが多く、上限は120 msとされます。120 ms以上の延長は心房間ブロック(特に前位・上位間伝導遅延)や左房負荷を示唆し、心房細動のリスク上昇と関連づけられます。短縮はまれですが、測定誤差や洞頻脈、希に異常自動能などが背景にあることがあります。
P持続時間は単独でも臨床情報を与えますが、P波形態(ノッチ、二峰性、V1での終末陰性成分=PTFV1)やP波分散(多誘導での最長と最短の差)と組み合わせることで、心房病変の定性的・定量的評価が可能になります。
この指標は非侵襲的で再現性が高く、外来や健診で広く取得できるため、リスク層別化や経時的フォローに有用です。特に高血圧、睡眠時無呼吸、弁膜症、心不全など心房リモデリングを来す疾患の管理に役立ちます。
参考文献
測定法と理論
標準心電図は紙速25 mm/s、感度10 mm/mVで記録され、横軸1小マスは0.04秒(40 ms)に相当します。P持続時間は各誘導でP波の最初の偏位から最終点までを測り、12誘導のうち最長値を採用するのが一般的です。手計測ではデジタルノギスや拡大表示が推奨されます。
自動解析ではフィデューシャルポイント検出(閾値法、微分法、ウェーブレット変換など)を用い、ノイズ低減やベースライン補正のアルゴリズムが精度を左右します。QRSやTと比べ振幅が小さいP波では信号対雑音比の確保が重要です。
シグナル平均心電図(SAECG)を用いると、複数心拍を加算平均してP波を増幅し、フィルタードP波持続時間を測定できます。これにより微小な伝導遅延の検出感度が向上し、心房細動の予測能が改善すると報告されています。
測定誤差の主因には電極位置ずれ、筋電図混入、ベースラインドリフト、洞性不整脈による拍動間変動があり、複数拍での平均化と複数誘導での確認が推奨されます。
参考文献
正常範囲と臨床解釈
成人のP持続時間は概ね80〜110 ms、上限120 msが指標です。年齢とともに延長傾向があり、高血圧や肥満、睡眠時無呼吸、糖尿病など心房リモデリング因子の存在でさらに延びることがあります。
120 ms以上の延長は心房間ブロック(特に進行型ではIIで二峰性、V1で終末陰性が強い)や左房拡大を示唆します。PTFV1の増大やP波分散の増加を伴うと、心房細動・脳卒中リスクが高いことが複数研究で示されています。
一方で短いP持続時間は一般的に臨床的意義が乏しいですが、洞頻拍や電極配置の影響、稀に心房起源の異常自動能を反映しうるため、臨床文脈での解釈が必要です。
解釈時には心拍数、薬剤(抗不整脈薬、交感神経作動薬など)、電解質異常、甲状腺機能、心内圧負荷の影響も考慮し、必要に応じて心エコーで構造評価を行います。
参考文献
遺伝要因と環境要因
双生児研究とゲノム関連解析から、P波関連指標(P持続時間やPTFV1)は中等度の遺伝性を示し、一般に遺伝率は約20〜40%の範囲と推定されます。残りは環境要因や測定誤差により説明されます。
環境因子としては血圧、体格、睡眠時無呼吸、アルコール摂取、持久的運動の負荷、心不全・弁膜症などが重要で、これらは心房のリモデリング(拡大、線維化)を介してP持続時間を延長させます。
ゲノム的にはPITX2近傍など心房発生・電気伝導関連遺伝子座がP波表現型と関連し、同時に心房細動の遺伝的素因とも重なります。多遺伝子スコアは将来の心房細動リスク層別化への応用が検討されています。
ただし個人レベルの予測では環境介入可能因子の寄与が大きく、生活習慣や基礎疾患管理がP持続時間・臨床アウトカムの双方に実践的な効果をもたらします。
参考文献
- The genetic basis of the electrocardiogram – Nat Commun 2018
- ECGWaves – P-wave and atrial abnormalities
臨床応用と対処
P持続時間延長は心房細動、心不全入院、脳卒中のリスクマーカーとして用いられます。健診で延長を認めた場合は、血圧・睡眠時無呼吸・甲状腺・電解質の評価や心エコーでの左房径評価が推奨されます。
進行性の心房間ブロック所見(P≥120 ms+IIの二峰性、V1の終末陰性増大)では、心房細動のサーベイランスとしてホルターや携帯型心電デバイスが有用です。抗凝固適応の判断は実際のAF検出と脳卒中リスクスコアに基づきます。
原因疾患の最適治療(降圧、体重減量、CPAP、弁膜症や心不全の治療)がP持続時間と予後の双方を改善します。薬剤性の影響が疑われる場合は主治医と代替薬を検討します。
測定の再現性を高めるため、電極配置の確認、複数拍の平均化、複数誘導での最長値採用を徹底することが重要です。
参考文献

