マトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7)血清濃度
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定義と概要
マトリックスメタロプロテアーゼ-7(MMP-7、別名マトリライシン1)は、亜鉛依存性のプロテアーゼで、上皮細胞を主な産生源とし、細胞外マトリックスや複数の膜タンパク質を分解・切断する酵素群の一つです。血清中のMMP-7濃度は、組織での発現・分泌量と血中への移行・クリアランスのバランスで決まり、炎症や線維化、腫瘍の進展など多様な生理・病理過程を反映しうる指標として研究されています。特に肺線維症や胆道系・消化器がんなどで上昇が報告され、疾患活動性や予後に関連する可能性が示唆されています。
MMP-7はコラゲナーゼやゼラチナーゼとは基質選択性が異なり、プロテオグリカン、ラミニン、フィブロネクチンなどの基質に加え、E-カドヘリン、プロ-TNF-α、αディフェンシンなどの生理的基質も切断します。これにより、上皮バリアの再構築、炎症性シグナルの活性化、自然免疫の調節といった多面的な作用を発揮します。血清濃度は組織での転写制御や分泌制御、そして腎・肝でのクリアランスの影響も受けます。
臨床研究では、特に特発性肺線維症(IPF)で血清MMP-7の上昇が再現性高く報告されています。MMP-7は他のサイトカインや線維化マーカーと組み合わせることで、疾患の重症度や進行を予測する補助指標になり得ると考えられています。ただし単独での診断用途には限界があり、疾患特異性は高くありません。
一方で、測定系(測定キット、標準物質、前処理、検体種類)が結果に大きく影響しうるため、施設間での比較や「普遍的な基準値」の提示には注意が必要です。研究や診療で運用する際は、同一法・同一ロットでの縦断追跡や、施設独自の参考範囲の整備が推奨されます。
参考文献
- UniProt: MMP7 (P09237) entry
- NCBI Gene: MMP7
- Nature Reviews Disease Primers: Idiopathic pulmonary fibrosis (biomarkers mention MMP-7)
測定と解釈の基本
血清MMP-7は主にサンドイッチELISAや多重測定プラットフォーム(ビーズベース、Luminexなど)で定量されます。サンドイッチELISAでは、抗原特異的な捕捉抗体でプレート上にMMP-7を固定し、別の検出抗体で特異的に認識してシグナルを増幅します。既知濃度の標準品から得られる検量線に試料のシグナルを当てはめることで濃度を算出します。
測定値は前分析要因の影響を強く受けます。採血管の種類(血清か血漿、ヘパリン/EDTA)、遠心条件、凍結融解回数、保存温度・期間、溶血や脂血の有無などが変動要因です。可能な限り手技を標準化し、同一個人の縦断評価では同じ条件を維持することが重要です。
数値の解釈では、測定系ごとの校正や抗体のエピトープ差により絶対値が異なる点に留意します。ある研究の「基準値」やカットオフは別のキットでは適合しないことがあるため、結果は自施設の参照範囲と臨床状況を合わせて解釈する必要があります。
また、血清中には活性型と前駆体(プロフォーム)、あるいは阻害因子(TIMP)との複合体が混在しており、どの分子種を測っているのかは試薬系に依存します。活性を直接評価するゼymography等は血清では感度や特異性に制限があるため、臨床では免疫学的定量が主流です。
参考文献
生物学的役割
MMP-7は上皮での創傷治癒や粘膜防御に関与し、細胞外マトリックスの再構築を通じて組織リモデリングを促進します。E-カドヘリンの切断により細胞接着を調節し、上皮-間葉転換(EMT)に関わるシグナルにも影響を及ぼすことが示されています。
また、プロ-TNF-αの切断による炎症応答の活性化、好中球由来αディフェンシンの成熟化を介した自然免疫の強化など、免疫系の微調整においても機能します。これらは感染防御や炎症制御に有益に働く一方で、過剰な活性は慢性炎症や線維化に寄与し得ます。
肺では、上皮傷害と再生の過程でMMP-7が誘導され、線維芽細胞の活性化やマトリックス蓄積と連動することが報告されています。IPFにおける血清MMP-7の上昇は、病変部位での上皮ストレスと修復反応の反映と解釈されています。
腫瘍生物学でも、MMP-7は基底膜成分の分解や成長因子の放出を介して浸潤・転移を助長し、一部のがんで予後不良と関連します。したがって血清MMP-7は腫瘍の存在・活動性を間接的に示す可能性がありますが、疾患特異性は限定的です。
参考文献
- Review: Matrix metalloproteinase-7 in cancer
- UniProt 機能解説(MMP7)
- Nature Reviews Disease Primers: Idiopathic pulmonary fibrosis
臨床応用と疾患関連
IPFでは、血清MMP-7は診断補助・重症度評価・予後予測の候補バイオマーカーとして繰り返し報告されています。複数のコホートで、健常対照に比べ有意に高値で、呼吸機能低下や死亡リスクと関連することが示されています。ただしスクリーニング検査としての単独使用は推奨されません。
胆道がん、膵がん、大腸がん、胃がんなどの固形腫瘍でも上昇例が報告され、腫瘍負荷や進行度と相関することがあります。炎症性腸疾患、慢性腎疾患、肝疾患、心血管疾患の一部でも変動するため、解釈には臨床文脈が不可欠です。
縦断的にMMP-7を追跡することで、病勢の変化や治療反応を捉える補助情報となり得ます。特に抗線維化薬治療のIPF患者で、MMP-7の動向がアウトカムと関連する可能性が検討されていますが、標準化された用法は確立途上です。
施設間差、測定法差、共存症の影響を考慮した前向き研究が今後の課題であり、パネル化(複数バイオマーカーの組合せ)による精度向上が期待されています。
参考文献
- Nature Reviews Disease Primers: Idiopathic pulmonary fibrosis
- Systematic reviews on blood biomarkers in IPF (example)
参考範囲・遺伝環境要因・ばらつき
血清MMP-7の「正常値」は普遍的に確立されておらず、キットや母集団に依存します。健常成人で数ng/mLオーダーとする報告が多いものの、施設の参照範囲を用い、同一法での経時変化を重視するのが実践的です。腎機能、年齢、喫煙、慢性炎症などで上昇し得ます。
遺伝学的には、MMP7遺伝子近傍のcis-pQTLやプロモーター多型(例:-181A>G)が発現量に影響することが示されています。一方、炎症シグナル、サイトカイン、環境曝露(喫煙・感染)、代謝状態などの環境要因も強く規定します。
循環タンパク質の遺伝率はタンパク質ごとに幅があり、pQTL研究では遺伝的要因が総分散の一部(概ね数十%まで)を説明し得ることが示されています。MMP-7固有の厳密な割合推定は限定的ですが、暫定的には遺伝20–40%、環境60–80%程度が妥当な範囲と考えられます(集団・測定法で変動)。
このようなばらつきを踏まえ、個々の結果は臨床症状、画像、他のバイオマーカーと統合して判断し、単独指標として過度に依存しないことが重要です。
参考文献

