IX左側小脳の灰白質の容積
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概要
IX左側小脳は小脳後葉の下部に位置し、機能解剖学では前庭・眼球運動系と認知系の結節点として知られます。灰白質の容積は、この領域の神経細胞体や樹状突起を中心とした組織量を反映し、加齢や疾患、個体差の影響を受けます。
この領域は機能的MRIでデフォルトモードネットワークと結びつくことが報告され、内省や自発的思考と関連づけられます。同時に、前庭小脳に近接するため、平衡機能や眼球運動の制御にも関与しうると考えられています。
左右のIX葉は一般に大きな左右差を示しませんが、個人の頭蓋内容量、性別、年齢によって絶対容積は変わります。そのため、容積の評価では共変量での補正や標準化が重要です。
灰白質容積は病的萎縮や発達の遅れを捉える指標として有用で、画像バイオマーカーとしての期待が高まっています。ただし、測定は撮像条件やアルゴリズムに依存し、品質管理が前提となります。
参考文献
- SUIT: A spatially unbiased atlas template of the cerebellum
- The organization of the human cerebellum estimated by intrinsic functional connectivity
- Resting-state functional connectivity of the human cerebellum
遺伝と環境
双生児MRI研究のメタ解析では、脳の灰白質容積は中等度から高い遺伝率を示し、多くの領域で60〜80%が遺伝要因で説明されます。小脳全体の容積も比較的高い遺伝率が報告されています。
一方で、環境要因(教育、運動、栄養、疾患罹患など)も20〜40%程度の分散に寄与し、特に微細な領域差には経験依存的な可塑性が関与します。
IX左側小脳のような葉小区の遺伝率は研究により幅があり、サンプルや解析法で異なります。概ね遺伝6〜8割、環境2〜4割という見積もりが実務上の目安になります。
大規模ゲノム研究は、小脳容積が多数の遺伝子の小さな効果の集合(多遺伝子性)で規定されることを示しており、生活環境との相互作用も重視されています。
参考文献
- Heritability of brain structures across MRI studies: a meta-analysis
- Genetic architecture of subcortical brain structures in 38,851 individuals
測定法
標準的にはT1強調3D MRIから組織分類を行い、灰白質・白質・脳脊髄液を分離します。次に小脳特化のテンプレート(SUITやCERESなど)に正規化し、葉ごとに分割します。
体積の算出は、当該領域に含まれるボクセル数にボクセル体積を乗じて求めます。個人間比較では頭蓋内容量での補正や、年齢・性別の共変量調整が推奨されます。
ボクセルベース形態計測(VBM)は、平滑化した灰白質確率マップを統計比較する方法で、群間差の検出に適しています。一方、個別容積はアトラスベースのロイ分割から直接得られます。
近年は深層学習を用いた自動分割(ACAPULCO、CERESなど)が普及し、再現性と処理速度が向上していますが、撮像条件の違いによる系統誤差には留意が必要です。
参考文献
- Voxel-based morphometry—the methods
- SUIT toolbox
- CERES: a new cerebellum lobule segmentation method
- FreeSurfer
解釈
容積の解釈は絶対値ではなく、年齢・性別・頭蓋内容量で調整した標準化スコア(zスコアや百分位)で行うのが実用的です。左右差は通常小さく、大きな非対称は要精査となります。
加齢に伴う灰白質の緩徐な減少は生理的変化であり、IX葉でも一定の低下がみられます。したがって年齢相応かどうかを判定することが重要です。
撮像アーチファクトや分割エラーは見かけ上の異常値を生むため、QC(品質管理)で信号ノイズや頭動、偏り補正の適切さを確認します。
臨床的意義は症状と照らして判断します。平衡障害、眼振、認知・感情の変化などが併存する場合、当該領域の萎縮は所見として重みを持ちます。
参考文献
臨床的意義
IX葉はデフォルトモードネットワークとの結合が示され、内省や社会的認知の側面と関係する可能性があります。また前庭系との連携から姿勢・眼球運動にも関与します。
この領域の萎縮は、小脳失調、変性疾患、自己免疫性脳炎、発達障害や気分障害の一部で報告され、症状の解釈に寄与します。
ただし特異度は限定的で、単独の数値で診断はできません。神経学的診察、他の脳領域の評価、縦断追跡と組み合わせる必要があります。
治療は基礎疾患の是正が中心で、運動療法、前庭リハビリ、認知機能リハビリが補助的に用いられます。画像所見の変化は介入の効果指標となり得ます。
参考文献

