CXCモチーフケモカイン1(CXCL1)血清濃度
目次
CXCL1血清濃度の基本概要
CXCL1はCXCケモカイン群に属する炎症性サイトカインで、主に好中球を誘引する作用を持ち、受容体CXCR2を介して機能します。血清中のCXCL1は感染、外傷、自己免疫疾患、腫瘍など多様な炎症刺激で上昇し、急性期の免疫応答や創傷治癒、血管新生に関与します。健常者では低濃度で推移することが多く、測定系の感度や試料の種類により検出の有無や値が大きく左右されます。
CXCL1はヒトではGRO-αとも呼ばれ、上皮細胞、線維芽細胞、マクロファージ、内皮細胞など多くの細胞からNF-κB経路の活性化により誘導されます。CXCL8(IL-8)と同様に好中球の遊走を促す主要なケモカインで、組織局所での感染防御に寄与しますが、過剰な産生は組織障害や慢性炎症の一因となりえます。
血清中のCXCL1は、基礎状態(安静・無症状)と刺激状態(感染・炎症・運動・ストレス)でダイナミックに変動します。また、採血条件(血清か血漿か、抗凝固剤の種類、凍結融解回数、室温放置時間)に大きく依存し、前分析要因の管理が不可欠です。
臨床研究では、CXCL1高値が関節リウマチ、COPD、乾癬、炎症性腸疾患、さまざまな固形癌の進行度や予後と相関する報告が蓄積しています。ただし疾患横断的に非特異的に上昇しうるため、単独での診断マーカーというより、病態把握や治療反応性の補助指標として用いられることが多いのが現状です。
参考文献
遺伝要因と環境要因
CXCL1血清濃度の個人差には遺伝的・環境的双方の要因が関与します。大規模な血漿プロテオームのゲノム関連解析では、ケモカイン濃度に強いトランスpQTLとして赤血球膜受容体ACKR1(Duffy抗原)が同定され、CXCL1を含む複数のCXC/CCケモカインの循環濃度に影響することが示されています。
これらのpQTLは集団内の分散の相当部分を説明しうる一方、急性・慢性の炎症、感染、喫煙、肥満、加齢、内分泌状態などの環境・生活要因の寄与も大きく、特に急性炎症時には環境要因が変動の大部分を占めます。
双生児・家系研究および多遺伝子スコア解析から、安静時のサイトカイン/ケモカインの遺伝率はおおむね15〜50%の幅に分布し、CXCL1と同群のケモカインでも類似の水準が報告されています。ただし測定プラットフォームや集団構成により推定は変動します。
要約すれば、健常時の集団ベースでは遺伝20〜40%、環境60〜80%程度と見積もられることが多く、ACKR1や近傍シス領域のバリアントが追加的な割合を説明しうる一方、病態時には環境要因の比重が急増するという理解が妥当です。
参考文献
- Sun et al. Genomic atlas of the human plasma proteome (Nature 2018)
- Suhre et al. A GWAS of the human plasma proteome (Nature 2017)
測定意義と臨床での位置づけ
CXCL1を測定する主な意義は、炎症の活動性評価、疾患フェノタイプの層別化、治療反応性のフォロー、予後推定の補助にあります。例えば、自己免疫や慢性炎症性疾患では、他の炎症マーカーとともに上昇し疾患活動性と相関することが知られています。
腫瘍学では、腫瘍微小環境におけるCXCL1産生が好中球や骨髄系抑制細胞の動員、血管新生、上皮-間葉転換を促し、進行や転移に寄与することから、循環レベルも予後や治療反応性の指標候補とみなされています。ただし単独では特異性が低く、パネル化が望まれます。
感染症や手術・外傷後の免疫反応の時間経過を追う上でも、CXCL1のピークや減衰は有用な手掛かりとなり得ます。特に好中球動員が前景に立つ細菌感染で上昇が顕著ですが、ウイルス感染や無菌性炎症でも上昇するため総合判断が必要です。
基礎研究・創薬では、CXCL1/CXCR2軸の阻害が炎症・疼痛・がんでの治療標的として検討されており、循環レベル測定は薬力学(PD)マーカーとしての価値もあります。
参考文献
- Frontiers review: The role of CXCL1 in the tumor microenvironment
- Zlotnik & Yoshie. Chemokines in immunity (CSH Perspectives)
測定法とデータ解釈の実務
CXCL1の定量にはサンドイッチELISA、ビーズベース多項目免疫測定(Luminex/xMAP)、電気化学発光(MSD)、プロキシミティ延長アッセイ(Olink)、アプタマー法(SomaScan)、質量分析ベースのターゲットプロテオミクスなどが用いられます。各プラットフォームで測定原理・ダイナミックレンジ・単位が異なり、相互比較には標準化が必要です。
ELISAでは捕捉抗体と検出抗体が異なるエピトープを認識し、サンドイッチ形成を酵素反応で可視化します。xMAPは内在色コードビーズに抗体を固定化し多重測定を可能にします。MSDは電気化学発光で広いダイナミックレンジと感度を実現します。
OlinkはDNAタグ付き抗体の近接時に延長反応を起こしqPCR/NGSで定量する相対法、SomaScanはアプタマーの結合強度を利用した高スループット相対定量です。値の単位やスケール(絶対濃度pg/mLか相対NPX/RFUか)を理解することが不可欠です。
前分析要因として、血清は凝固過程で血小板や白血球からケモカインが放出されるため、血漿より値が高くなりがちです。抗凝固剤の種類(EDTA/ヘパリン/クエン酸)、遠心・凍結条件、保存期間も有意な影響を及ぼすため、プロトコルの統一が必要です。
参考文献
- R&D Systems: Human CXCL1/GROα Quantikine ELISA Kit
- Luminex xMAP technology overview
- Olink technology
- Bio-Rad bulletin on cytokine assay preanalytics
正常範囲・異常時の対応と生物学的役割
CXCL1の『正常値』はプラットフォームと検査室で大きく異なり、絶対的な国際標準は確立していません。多くのELISAで健常者血清は検出限界近傍〜数十pg/mL、研究によっては100pg/mL前後が報告されますが、採血・測定条件の差が大きい点に注意が必要です。
解釈にあたっては、検査室が定める基準範囲と同時測定の炎症マーカー(CRP、白血球分画、他サイトカイン)を併読し、症状・画像・診察所見と統合して判断します。単独高値での疾患確定は推奨されず、経時変化の追跡がより有用です。
異常高値が持続する場合は、感染源の検索、自己免疫・炎症性疾患の活動性評価、悪性腫瘍のスクリーニングや既知腫瘍の病勢評価など、臨床状況に応じた精査を行います。薬剤(G-CSFなど)や喫煙・肥満など可変要因の見直しも重要です。
生物学的には、CXCL1はCXCR2陽性好中球の遊走・活性化、血管新生の促進、線維化や痛覚過敏にも関与します。がんでは腫瘍微小環境での免疫抑制や転移ニッチ形成に寄与するため、CXCR2阻害薬などの標的療法が臨床試験で検討されています。
参考文献

