C型肝炎誘発肝硬変
目次
定義と概要
C型肝炎誘発肝硬変とは、C型肝炎ウイルス(HCV)への長期感染により、肝臓に慢性炎症と線維化が持続して最終的に肝硬変へ至った状態を指します。肝硬変は肝の構造が不可逆的に改変され、再生結節と線維性隔壁が形成される病態で、門脈圧亢進や肝不全、肝細胞癌のリスク上昇を伴います。HCVは直接的な細胞障害よりも免疫応答や代謝ストレスを介して肝障害を進行させるのが特徴です。
本用語は原因(エチオロジー)としてHCVが明確な肝硬変を強調します。臨床では代償性肝硬変と非代償性肝硬変に区別され、黄疸、腹水、肝性脳症、静脈瘤出血などの合併症の有無が重症度評価に重要です。非代償化は生命予後を大きく左右し、治療選択にも影響します。
C型肝炎は世界で依然として重要な公衆衛生問題であり、DAA(直接作用型抗ウイルス薬)の登場でウイルス排除(SVR)は高率に得られるようになりました。しかし肝硬変へ進行した症例では、SVR後も肝臓関連イベントの残余リスクがあり、長期のサーベイランスが推奨されます。
日本では高齢者層にHCV既感染者が相対的に多い歴史的背景があり、肝細胞癌の主要原因の一つを占めてきました。近年は治療普及で新規発生は減少傾向ですが、既に進行した線維化の管理と合併症予防が臨床の焦点です。
参考文献
- WHO Hepatitis C Fact Sheet
- CDC Hepatitis C FAQs for Health Professionals
- EASL Clinical Practice Guidelines: Decompensated cirrhosis
疫学と負担
世界では数千万人がHCVに慢性感染し、毎年新規感染も続いています。慢性C型肝炎患者のうち約15〜30%が20年程度で肝硬変へ進展するとされ、進行の速度は年齢、性別、飲酒、代謝異常などの共存因子により大きく異なります。肝硬変は肝関連死亡と肝細胞癌の主要原因で、医療制度への負担も大きいです。
日本では輸血や医療行為が現在ほど安全でなかった時代の曝露が高齢層に残り、地域差も存在します。抗HCV抗体陽性率は若年層で低下している一方、既感染高齢者の線維化管理が課題です。DAA治療の普及によりHCVによる肝関連死亡は減少しつつありますが、サーベイランスが必要な母集団は残ります。
HCV誘発肝硬変の正確な罹患率を国際比較することは容易ではありません。理由は、診断法のばらつき、医療アクセス差、非侵襲的線維化評価の普及度などが異なるためです。そのため、HCVの有病率と線維化進展の既知の割合を組み合わせた推定が用いられます。
グローバルな肝炎排除戦略により、検査と治療の拡大が各国で進んでいます。これにより長期的にはHCV関連肝硬変の発生が減少する見込みですが、既存患者の合併症予防や肝癌サーベイランスが近中期の医療提供体制における重要課題です。
参考文献
- Global hepatitis report 2024 (WHO)
- Japan Hepatitis Information Center: Statistics
- CDC Hepatitis C FAQs for Health Professionals
病態生理
HCVは持続感染により肝細胞に反復する傷害と炎症を生じ、サイトカイン、酸化ストレス、代謝変化を介して肝星細胞を活性化させます。活性化した肝星細胞は細胞外基質(コラーゲンなど)を過剰産生し、線維化が進行します。線維化は小葉構造を歪め、血行動態の変化を通じて門脈圧亢進をもたらします。
線維化は均一に進行するわけではなく、進行と退縮が動的に繰り返されます。ウイルス排除により線維化は一部退縮し得ますが、肝硬変に達した後は構造改変が不可逆的で、合併症リスクが残ります。炎症と線維化の微小環境は発癌の土壌となり、HCV排除後も肝細胞癌のリスクが完全にはゼロになりません。
ウイルス因子(ジェノタイプなど)よりも宿主因子が線維化速度に影響します。飲酒、肥満・インスリン抵抗性、併存感染(HBV/HIV)などが促進因子で、男性、感染時高年齢も進展速度と関連します。遺伝的背景(PNPLA3、TM6SF2、MBOAT7、IFNL3/4 など)の影響も報告されています。
門脈圧亢進は脾腫、血小板減少、食道胃静脈瘤形成、腹水など臨床的表現型につながります。肝予備能の低下は黄疸、凝固異常、腎機能障害などの全身的影響を引き起こし、合併症管理が生命予後を規定します。
参考文献
- StatPearls: Liver Cirrhosis (NCBI Bookshelf)
- EASL Clinical Practice Guidelines: Decompensated cirrhosis
診断と検査
HCV感染の診断は、抗HCV抗体検査でスクリーニングし、陽性の場合はHCV RNA(核酸増幅検査)で現感染を確認します。慢性肝疾患としての重症度評価のため、肝機能検査とともに線維化の段階評価が重要です。
線維化評価には非侵襲的なバイオマーカー(FIB-4、APRI)や超音波エラストグラフィ(Transient Elastography/FibroScan)が用いられます。これらは肝生検を不要とする場合も多く、スクリーニングとフォローに有用です。
肝硬変が疑われる場合、上部消化管内視鏡で静脈瘤の有無を評価し、腹部超音波で腹水や脾腫を確認します。肝細胞癌のサーベイランスは一般に6か月ごとの腹部超音波(±AFP測定)が推奨されます。
非代償性肝硬変では、腎機能、ナトリウム、凝固能などを含む包括的な評価が必要で、合併症の早期発見と管理が予後改善に寄与します。感染症スクリーニング(HBV、HIV)やワクチン接種状況の確認も推奨されます。
参考文献
- WHO 2022 guideline on hepatitis C virus infection: testing, care and treatment
- EASL CPG: Non-invasive tests for evaluation of liver disease severity (2021)
- EASL-EORTC HCC management guideline (surveillance)
治療と予後
HCVそのものの治療はDAAにより短期間で高率のSVRが得られ、代償性肝硬変でも多くの症例で根治が可能です。非代償性肝硬変ではプロテアーゼ阻害薬を含まないレジメンが選択され、リバビリン併用の検討や治療期間延長が行われます。治療選択はジェノタイプや腎機能、合併症で変わります。
SVR達成は肝硬変の合併症リスクと肝関連死亡を有意に減少させますが、リスクはゼロにはなりません。したがって、SVR後も肝細胞癌サーベイランスや静脈瘤評価などの継続が必要です。
肝硬変の合併症管理としては、非選択的β遮断薬や内視鏡的結紮術による静脈瘤出血予防、利尿薬による腹水管理、アルブミン投与、肝性脳症に対するラクツロースやリファキシミンなどが標準です。難治例ではTIPSや肝移植が検討されます。
予後はChild-PughやMELDスコアで評価され、非代償化イベントの有無が重要です。生活習慣改善(禁酒、減量、糖代謝の最適化)と併存感染の治療が転帰を改善します。
参考文献

