C型肝炎ウイルス性肝細胞癌
目次
定義と概要
C型肝炎ウイルス性肝細胞癌(HCV関連HCC)は、C型肝炎ウイルス(HCV)の長期感染により肝臓に慢性炎症と線維化が進み、その結果として生じる原発性肝がんの主要な一型です。HCVはRNAウイルスであり、感染後数十年を経て肝硬変に至る過程でがん化のリスクが顕著に高まります。
HCV関連HCCは、直接的なウイルスタンパクの作用(コアやNS5Aなどが細胞増殖やアポトーシス経路に影響)と、慢性炎症・再生の繰り返しによる間接的な機序の両方で発生します。特に肝硬変の存在は最大の危険因子で、HCCの多くは硬変肝に発生します。
日本ではかつてHCCの原因としてHCVが多数を占めましたが、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及により新規HCV感染は減少し、HCV由来HCCも漸減しています。それでも高度線維化や肝硬変を有する人ではSVR達成後も一定の発がんリスクが残ります。
臨床的には早期は無症状のことが多く、進行に伴い右上腹部痛、体重減少、黄疸、腹水などが出現します。早期発見のため、HCV感染者(特にF3–F4)では6か月ごとの画像・腫瘍マーカーによるサーベイランスが推奨されます。
参考文献
疫学と負担
世界の肝がんは年間約90万例が新規発生し、死亡数もほぼ同規模と高い致死率を示します。病因は地域差が大きく、東アジアやアフリカではHBV、欧米や日本ではHCVや非ウイルス性(NASH、アルコール)が主要因となっています。
HCV関連HCCの発生は、感染から20~30年の長期経過後に多く見られます。日本ではHCV対策の進展でHCV由来HCCの比率は低下傾向ですが、高齢化と非ウイルス性要因の増加により全体の負担は依然大きいです。
性差では男性に多く、年齢は高齢層での発生が目立ちます。これはホルモン、生活習慣、ウイルス持続感染期間など複合要因が関与すると考えられます。
サーベイランスの実施により早期発見率が上がり、切除やアブレーションの根治機会が増加します。一方、サーベイランス未実施群では進行例が多く予後不良です。
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発生機序
HCVは宿主ゲノムに恒常的に組み込まれないRNAウイルスですが、慢性炎症や酸化ストレス、肝細胞の繰り返す壊死・再生により遺伝子変異が蓄積し、最終的に多段階発がんへ至ります。
HCVコア蛋白やNS5Aは、p53やRB、Wnt/β-カテニン、NF-κBなどのシグナル経路に干渉し、細胞増殖や生存シグナルを促進することが報告されています。これにより前がん病変から結節性病変、HCCへの進展が加速されます。
HCV関連HCCでは、TERTプロモーター、TP53、CTNNB1などのドライバー変異が高頻度に認められます。エピジェネティックな異常(DNAメチル化、ヒストン修飾)も腫瘍形成に寄与します。
肝硬変は発がんの温床であり、線維化微小環境、免疫抑制、血流異常が腫瘍の成立を助長します。これらの直接・間接要因が相互に作用しHCCが成立します。
参考文献
- Villanueva A. Hepatocellular Carcinoma. N Engl J Med 2019
- Zucman-Rossi et al. Genetic Landscape of HCC
リスク因子(遺伝・環境)
環境・臨床因子として、肝硬変、長期のHCV持続感染、高齢、男性、アルコール多飲、糖尿病・肥満、喫煙、他の肝毒性曝露(アフラトキシン等)が挙げられます。日本ではアフラトキシンは稀ですが、代わりに代謝性肝疾患の増加が注目されます。
宿主遺伝要因として、PNPLA3(I148M)、TM6SF2(E167K)、MBOAT7、HSD17B13などの多型が肝脂肪化や線維化、HCCリスクに影響することが報告されています。HCV特異的にHLA領域の多型が持続感染や病態進展に関与する知見もあります。
これらの遺伝要因はリスク修飾因子であり、単独でHCCを決定するものではありません。生活習慣やウイルス制御状況との相互作用が重要で、予測モデルでは複合的に評価されます。
遺伝と環境の寄与割合を一律に%で示す確立した指標はありません。個体差が大きく、地域・背景疾患・年齢により寄与は変動します。
参考文献
診断・治療と予後
サーベイランスは超音波を6か月ごとに行い、必要に応じてAFP、PIVKA-II、AFP-L3を併用します。疑い例では造影CT/MRIで典型的な動脈相濃染・門脈相洗い出し所見を確認します。
治療は病期・肝機能で選択され、切除、ラジオ波/マイクロ波アブレーション、肝移植、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、全身療法が主です。全身療法はアテゾリズマブ+ベバシズマブ、デュルバルマブ+トレメリムマブ、レンバチニブ、ソラフェニブ等が標準に位置づけられます。
DAAによりHCVを排除(SVR)すると発がんリスクは大幅に低下しますが、特にF3–F4ではゼロにはなりません。SVR後もリスクに応じたサーベイランス継続が推奨されます。
予後は早期発見と適切治療で大きく改善します。切除・アブレーションでの根治例では5年生存率が高まりますが、進行例では全身療法の進歩が生存の延伸に寄与しています。
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