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B型肝炎ウイルス性肝細胞癌

目次

概要

B型肝炎ウイルス(HBV)性肝細胞癌(HCC)は、HBVの持続感染により肝細胞が長期にわたり炎症と再生を繰り返す中で生じる代表的な原発性肝癌です。世界のHCCの約半数はHBVが関与するとされ、東アジアとサブサハラ・アフリカで負担が特に大きいのが特徴です。HBVはDNAウイルスであり、宿主ゲノムへの組込み(インテグレーション)を介して発癌に寄与する点が、RNAウイルスであるHCVと異なる重要な相違点です。

HBV関連HCCは肝硬変を背景に発生することが多い一方で、肝硬変を経ずに発生することも稀ではありません。さらにウイルス量が高い、HBe抗原陽性である、感染年齢が若い、男性であるなどの背景があると発癌リスクが上昇します。ウイルス抑制療法によりリスクは低下しますが、完全には消失しないため、長期的なサーベイランスが推奨されます。

近年は小児期の定期接種や母子感染予防により新規感染が減少し、HBV関連HCCの発生負担も長期的には低下が期待されます。一方で、すでに慢性HBV感染となっている成人では依然としてHCCのリスクが残るため、抗ウイルス療法の継続と画像・腫瘍マーカーによる定期的な早期発見が鍵となります。

治療は病期に応じて、外科切除、局所アブレーション、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、全身治療(分子標的薬・免疫療法)、肝移植などの選択肢があります。HBV関連例では、がん治療と並行して酸アナログ製剤によるウイルス抑制を行い、治療関連の再活性化を防ぎ、再発リスクの低減を図ることが国際的な標準です。

参考文献

発生機序

HBVは逆転写を経るDNAウイルスで、感染後にcovalently closed circular DNA(cccDNA)として核内に持続し、さらにウイルスDNA断片が宿主ゲノムに組み込まれることがあります。組込みは特定遺伝子近傍(TERTなど)に起きると遺伝子発現の攪乱やゲノム不安定性を通じて腫瘍形成を促します。

HBVのX蛋白(HBx)は転写制御や細胞周期、DNA修復経路、p53シグナルなど多様な経路に影響し、腫瘍促進的に働くことが基礎・臨床研究で示されています。HBxは単独では十分条件ではないものの、慢性炎症や酸化ストレス、細胞再生と相まって多段階発癌を加速させます。

慢性炎症に伴う肝細胞壊死と再生の反復は、遺伝子変異の蓄積やエピジェネティックな異常につながります。長期のウイルス複製はこの過程を補強し、高ウイルス量がHCC発生の量反応関係を示すこと(REVEAL-HBV研究など)も発生機序の疫学的裏付けです。

また、HBV遺伝子型(例:東アジアで優勢なgenotype C)は、genotype Bと比べてHCCリスクが高いことが報告されています。これはプレコア/ベーシックコアプロモーター変異などウイルス側要因が複製能や炎症持続性に影響するためと考えられています。

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環境・臨床的リスク因子

HBV関連HCCの発症リスクは、血中HBV DNA高値、HBe抗原陽性、ALT上昇、肝線維化・肝硬変の進行によって上昇します。核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノホビル系)によるウイルス複製抑制は、これらのリスクを低減し、HCC発生や再発の抑制に寄与します。

共同感染(HDV、HCV、HIV)や大量飲酒、アフラトキシン曝露、喫煙、糖尿病・肥満・NAFLDなどの代謝因子もHCCリスクを上乗せします。特にアフラトキシンとHBVの相互作用はTP53の特徴的変異(R249S)を介して相加的にリスクを高めます。

男性であること、高齢、家族歴は疫学的リスクですが、予防可能性の観点ではウイルス量の抑制、飲酒・喫煙の是正、体重管理、共同感染の治療・予防が重要です。妊娠期の母子感染予防と新生児ワクチンは将来世代のHCC負担を大きく減らします。

サーベイランス(超音波と腫瘍マーカーを6か月ごと、ハイリスクではより短間隔)は早期発見に有効で、治癒的治療に結びつく可能性を高めます。HBVキャリアは肝硬変の有無にかかわらず適応となることが多く、ガイドラインに基づく実施が推奨されます。

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遺伝的要因(宿主・腫瘍)

宿主の感受性に関しては、GWAS等でKIF1B、HLA領域(HLA-DQ/DP)、STAT4、PNPLA3などがHBV関連HCCのリスクや保護に関与する可能性が報告されています。ただし効果量は一般に小さく、個人の絶対リスクを大きく左右する決定的マーカーは確立していません。

腫瘍側の体細胞変異としては、TERTプロモーター、TP53、CTNNB1などが頻出で、HBV DNAのインテグレーションがTERT近傍に起こる例も知られています。これらは腫瘍の生物学的特徴や予後、治療反応性に影響しうる領域で、分子プロファイリング研究が進んでいます。

一部地域でのアフラトキシン曝露とHBVの相互作用はTP53のR249S変異を特徴付け、分子疫学的に環境と遺伝の交点を示します。とはいえ、家系に基づく明確な「遺伝率」の推定は困難で、全体に占める遺伝要因の割合を%で示すコンセンサスは現時点でありません。

臨床的には、宿主遺伝子検査は一般診療で routine ではなく、ウイルス抑制やサーベイランスなど修正可能な因子への介入が優先されます。一方、腫瘍遺伝子解析は治療選択や臨床試験適格性の判断に役立つ可能性があります。

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疫学(世界・日本)

世界では原発性肝癌の新規症例は年間約90万例と推計され、その大半がHCCです。HBVは全HCCの約半数に関与し、東アジア・サブサハラ・アフリカでの寄与が際立ちます。ワクチン普及と抗ウイルス療法により長期的な減少が期待されますが、人口動態の変化も影響します。

日本では歴史的にHCV関連HCCが多数を占めてきましたが、近年はC型の減少とともに、非B非C(NAFLD/ALDなど)とHBVの相対的割合が変化しています。HBV関連は新規HCCの一部(概ね1~2割)を占めると報告されますが、地域や集団により差があります。

男女差では男性の罹患が女性より高く、年齢とともに罹患率は上昇します。HBV関連HCCはHCV関連より発症年齢がやや若い傾向が報告される一方、サーベイランスと抗ウイルス療法により診断時ステージの早期化が見られる施設もあります。

疫学データの参照には、IARCのGLOBOCAN、国立がん研究センターのがん統計、各学会の全国調査が有用です。時間とともに推移するため、最新の統計年次を確認することが重要です。

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予防・サーベイランス・治療の要点

一次予防の柱はHBVワクチンの定期接種と母子感染予防です。針刺し・血液曝露の安全対策、献血スクリーニング、性的感染対策も重要です。慢性HBV感染者では核酸アナログ製剤でウイルス複製を抑制し、肝線維化進展とHCCリスクを下げます。

二次予防として、HBVキャリアに対する6か月ごとの超音波±AFP(日本ではPIVKA-II併用)によるサーベイランスが推奨されます。肝硬変や超高リスクでは3~4か月間隔や高精細画像の活用が検討されます。早期発見は根治治療率の向上に直結します。

治療は病期に応じた集学的アプローチが基本です。切除・アブレーション・肝移植が根治的選択で、進行例ではTACEや全身治療(アテゾリズマブ+ベバシズマブ、ドュルバルマブ+トレメリムマブ、レンバチニブ、ソラフェニブ、二次治療のレゴラフェニブ、ラムシルマブ、カボザンチニブなど)が用いられます。

HBV関連症例では、がん治療前からの抗ウイルス薬導入で再活性化を予防し、治療中もHBV DNAをモニタリングします。日本では高額療養費制度や肝炎医療費助成など、医療費負担軽減策の活用が重要です。

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