A/G比
目次
- A/G比の概要
- A/G比の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
- A/G比を調べる意味
- A/G比の数値の解釈
- A/G比の正常値の範囲
- A/G比が異常値の場合の対処
- A/G比を定量する方法とその理論
- A/G比のヒトにおける生物学的な役割
- A/G比に関するその他の知識
A/G比の概要
A/G比(Albumin/Globulin ratio)は、血清や血漿中の主要なタンパク分画であるアルブミン(A)と、アルブミン以外の総称であるグロブリン(G)の比率を指す検査指標です。通常は、総タンパク(TP)とアルブミンを測定し、グロブリンはTP−アルブミンとして算出、A/G=アルブミン÷グロブリンで求められます。一般検査(生化学:総タンパク、アルブミン)の自動報告項目に含まれることが多く、肝機能、栄養状態、免疫系の状態を広く反映する補助指標として臨床で使われています。
アルブミンは肝臓で合成され、膠質浸透圧の維持、脂肪酸・ホルモン・薬剤などの運搬、酸化ストレスの緩衝など多彩な機能を担います。一方グロブリンは、免疫グロブリン(IgG/IgA/IgMなど)や補体、運搬タンパク、炎症や急性期反応に関与するタンパク群を含み、感染・炎症・腫瘍・自己免疫などの影響を強く受けます。したがってA/G比は、肝合成機能と免疫/炎症活性の相対的なバランスの指標と捉えられます。
A/G比は単独で診断を確定するものではなく、総タンパク、アルブミン、肝胆道系酵素(AST/ALT/ALP/γ-GTP)、腎機能、C反応性蛋白(CRP)、血清蛋白電気泳動(SPEP)など他の検査と組み合わせて評価されます。特にSPEPはグロブリン分画(α1/α2/β/γ)やM蛋白の有無を可視化でき、A/G比が異常な背景の特定に有用です。
A/G比は脱水や希釈、採血姿勢、駆血時間、測定法のバイアス(アルブミン定量の色素法差)などの前分析・分析要因でも変動します。医療現場では同一検査室・同一法での経時的なトレンドを重視し、臨床症状・診察所見と合わせて解釈することが重要です。
参考文献
- MedlinePlus: Total Protein and Albumin/Globulin (A/G) Ratio
- Testing.com: Total Protein, Albumin, Globulin (A/G Ratio)
- StatPearls: Serum Protein Electrophoresis
A/G比の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
A/G比そのものの遺伝率(遺伝的寄与の割合)を直接推定した研究は限られますが、構成要素である血清アルブミンや免疫グロブリンには中等度の遺伝的影響が報告されています。大規模バイオバンクや双生児研究では、アルブミンの狭義遺伝率は概ね20〜40%程度、免疫グロブリンや関連グロブリン分画は30〜60%程度とされる報告があります。
一方で、A/G比は感染・炎症、肝疾患、腎疾患、栄養状態、薬剤影響など環境・生活・疾患要因の影響を強く受けます。実臨床で観察される変動は、短中期的には環境/疾患要因が優勢となることが多く、総体としては環境寄与が60〜80%程度、遺伝寄与が20〜40%程度と概括されることが一般的です(推定レンジ)。
ただし、これらの割合は対象集団、年齢、測定法、共変量の調整、急性期の影響の除外などで変動します。特に感染症流行や慢性炎症性疾患の有病率が高い集団では、グロブリン増加を介してA/G比が環境要因により大きく低下しやすくなります。
遺伝率は“個人の運命”を規定する値ではなく、集団内のばらつきのうちどれだけが遺伝的要因で説明されるかを示す統計量です。臨床解釈では、生活・疾患・治療介入によりA/G比は十分に変化し得る点を前提として用います。
参考文献
- Nature Genetics: Genome-wide association analyses of biomarkers in UK Biobank
- Visscher et al. Heritability in the genomics era (Nat Rev Genet)
- StatPearls: Hypoalbuminemia
A/G比を調べる意味
A/G比は、肝臓の合成機能低下(アルブミン低下)、免疫活性化や炎症(グロブリン増加)、蛋白喪失(腎症や腸管からの喪失)などの全身状態を簡便にスクリーニングするために役立ちます。単独の疾患特異性は高くありませんが、異常の方向性から鑑別診断の出発点を与えます。
例えばA/G比の低下は、肝硬変や重度肝炎、慢性炎症、自己免疫疾患、多発性骨髄腫などの免疫グロブリン増加状態、ネフローゼ症候群などで見られます。逆にA/G比の上昇は、低ガンマグロブリン血症や一部の先天性/二次性免疫不全、長期ステロイド使用による免疫抑制、希釈の少ない脱水などで起こり得ます。
健康診断の異常や、むくみ、倦怠感、反復感染、体重変動などの症状がある場合の背景評価としてA/G比は有用で、次に行うべき検査(SPEP、免疫固定、CRP、肝腎機能、尿蛋白など)を選ぶ手掛かりになります。
経時的フォローでは、治療介入(炎症の制御、栄養改善、肝腎疾患の治療)に伴う比率の改善/悪化を定性的に追跡することができます。必ず他の検査・臨床像と併せ、総合的に判断します。
参考文献
- MedlinePlus: Total Protein and A/G Ratio
- Testing.com: A/G Ratio
- ARUP Consult: Serum Protein Electrophoresis
A/G比の数値の解釈
A/G比低下(<おおむね1.0〜1.2未満)は、アルブミン低下(肝合成低下、栄養不良、腎・腸からの喪失、炎症時の陰性急性期反応)またはグロブリン増加(炎症、自己免疫、慢性感染、形質細胞腫瘍)を示唆します。SPEPでγ分画の広基性上昇(多クローン性)かMピーク(単クローン性)かを区別することが重要です。
A/G比上昇(>おおむね2.2)は、グロブリン低下(低γグロブリン血症、免疫不全、蛋白喪失性疾患の初期、医原性免疫抑制)や相対的なアルブミン高値(脱水)を示唆します。免疫グロブリン定量(IgG/IgA/IgM)やワクチン応答の評価が手掛かりとなります。
数値の絶対値だけでなく、総タンパク・アルブミン・CRP・肝腎機能・末梢血などの包括的所見との整合性が不可欠です。例えばCRP高値でA/G低下なら炎症寄与が強く、CRP正常でA/G低下なら蛋白喪失や肝合成低下の寄与が疑われます。
測定法のバイアスや採血条件も考慮します。アルブミンのBCG法は炎症時に高めに出る傾向、BCP法は肝疾患での精度が良好など法差が存在します。経時的に同一法で追うことが望まれます。
参考文献
- Testing.com: A/G Ratio – Interpretation
- StatPearls: Serum Protein Electrophoresis
- StatPearls: Hypoalbuminemia
A/G比の正常値の範囲
成人のA/G比の基準範囲は検査室や測定法により異なりますが、おおむね1.2〜2.2の範囲が用いられます。一部の施設では1.0〜2.1などの設定もあり、報告書に示された施設基準値に従って解釈します。
年齢や生理的状態でも差が生じます。小児では免疫系の成熟過程により分画が異なり、妊娠では循環血漿量増加に伴う希釈でアルブミンが低めとなりA/G比がやや低下します。高齢者では慢性炎症や栄養状態の影響を受けやすく、幅広い値をとり得ます。
一過性の脱水では相対的にアルブミン・総タンパクが高く出てA/G比が高めに見えることがあります。逆に点滴や多量飲水後の希釈で低めに見えることもあるため、採血条件を一定にすることが望ましいです。
A/G比はあくまで補助指標であり、基準範囲内でも臨床的に異常があり得ます。疑わしい症状や他検査異常があれば追加評価が必要です。
参考文献
A/G比が異常値の場合の対処
まずは再検(採血条件を整え、十分な水分状態、過度の駆血を避ける、同一法での測定)を行い、偽異常の可能性を減らします。同時に総タンパク、アルブミン、CRP、肝機能、腎機能、尿蛋白など基本セットを確認します。
A/G低下では、炎症徴候があれば感染・自己免疫の評価(CRP、血沈、自己抗体、画像)を、蛋白喪失が疑われれば尿蛋白/アルブミン、便α1-アンチトリプシン(蛋白漏出)などを検討します。SPEP/免疫固定は単クローン性ガンマパチーの除外に有用です。
A/G上昇では、低γグロブリン血症の評価としてIgG/IgA/IgM定量、ワクチン抗体反応、反復感染の臨床歴の聴取が重要です。脱水が疑われる場合は水分補正と再検で是正されることが多いです。
治療は原因に応じて、炎症・感染の治療、栄養介入、肝・腎疾患の専門治療、血液腫瘍の専門治療、免疫不全の管理など多岐にわたります。自己判断せず、医療機関での評価を受けましょう。
参考文献
- ARUP Consult: Serum Protein Electrophoresis – Clinical indications
- StatPearls: Hypoalbuminemia – Management
- Testing.com: A/G Ratio – Follow-up tests
A/G比を定量する方法とその理論
総タンパクは主にビウレット法で定量され、銅イオンがペプチド結合と錯体を形成して540 nm付近で比色測定されます。アルブミンはブロモクレゾールグリーン(BCG)またはブロモクレゾールパープル(BCP)法で染色し比色定量されます。グロブリンは計算値(TP−アルブミン)で、A/G=アルブミン÷(TP−アルブミン)として算出します。
SPEPは帯電とサイズの違いを利用し、アルブミンからγ分画までのパターンを可視化する分離法です。M成分の検出や多クローン性高γグロブリン血症の識別に優れ、A/G比異常の背景理解に有用です。免疫固定電気泳動は特定の重鎖/軽鎖を識別します。
測定法には限界があります。BCG法はαグロブリンなどと非特異結合しやすく高めに出る傾向、BCP法は肝疾患や透析患者での精度が良いとされます。脂質干渉、溶血、黄疸指数など前分析要因も結果に影響します。
近年は免疫比濁法や質量分析を用いた精密なタンパク定量も利用されますが、日常診療では比色法と計算によるA/G比が一般的です。施設間差を踏まえ、同一法での経時比較が推奨されます。
参考文献
- Clinical Methods (NCBI Bookshelf): Serum Albumin and Globulin
- ARUP Consult: Serum Protein Electrophoresis – Methodology
- Testing.com: Total Protein and Albumin Methods
A/G比のヒトにおける生物学的な役割
A/G比は単独の生体機能ではなく、アルブミンとグロブリンという機能の異なるタンパク群の相対比を要約した指標です。アルブミンは膠質浸透圧の主要担体で、血管内の水分保持に寄与し、低アルブミンは浮腫や胸腹水の一因となります。
アルブミンは遊離脂肪酸、ビリルビン、甲状腺ホルモン、薬剤など多様な分子の担体であり、血中の酸化還元バッファとしても機能します。これに対しグロブリン群は、免疫グロブリンを中心に、病原体中和、オプソニン化、補体活性化など免疫防御に関与します。
A/G比が低いということは、相対的に免疫グロブリンや急性期反応タンパクが優位、またはアルブミンが不利な状態であり、体内で炎症や免疫応答が亢進している、あるいは肝合成能が低下しているサインになり得ます。
逆にA/G比が高い状況は、免疫グロブリンの不足や脱水などを示唆し、感染防御能やワクチン反応に影響し得ます。したがってA/G比は、生体の恒常性維持に関わる“合成・運搬・浸透圧”と“免疫・炎症”のバランスの端的な鏡といえます。
参考文献
- StatPearls: Biochemistry, Albumin
- StatPearls: Hypergammaglobulinemia
- MedlinePlus: Total Protein and A/G Ratio
A/G比に関するその他の知識
プレアナリティカルな注意点として、長時間の駆血、座位から臥位への体位変化、急速輸液や大量飲水、強い運動直後などはタンパク濃度に影響します。同一条件での採血と、異常時の再検が推奨されます。
薬剤では、エストロゲン製剤がトランスサイレチン/トランスフェリンなど一部の結合タンパクに影響すること、グルココルチコイドが免疫抑制を介してグロブリンに影響することが知られ、A/G比解釈の文脈情報になります。
栄養では、蛋白摂取不足や吸収不良、肝疾患に伴うサルコペニアはアルブミン低下の背景となりますが、急性炎症下ではアルブミンは陰性急性期反応として低下するため、純粋な栄養指標としての解釈には注意が必要です。
A/G比は包括的な健康評価の一部であり、基礎疾患の管理(肝炎の治療、腎症のコントロール、ワクチン接種と感染予防、適切な栄養と運動)が結果的に比率の望ましい範囲維持に寄与します。定期的な健診で推移を確認しましょう。
参考文献

