2型双極性障害
目次
概要
2型双極性障害(Bipolar II disorder)は、軽躁状態( hypomania )と抑うつエピソードが反復する気分障害の一型です。双極性I型と異なり、精神病症状を伴うほどの重い躁状態は必須ではありませんが、抑うつはしばしば重く長期化し、生活や仕事、対人関係に大きな影響を及ぼします。診断は症状の経過と持続期間、機能障害の程度に基づき、他の疾患や薬物の影響を除外して行われます。
軽躁状態は気分の高揚や活動性の増加、睡眠欲求の低下、社交性や自信の増加などがある一方で、判断の甘さや衝動性により問題行動に至ることもあります。これらは数日から数週間続くことが多く、本人や周囲が「いつもより元気」と捉えて見過ごされることが少なくありません。
抑うつエピソードは、気分の落ち込み、意欲の低下、興味・喜びの喪失、睡眠や食欲の変化、希死念慮などを含みます。2型では抑うつが臨床像の中心で、自殺リスクの上昇や機能低下に直結しやすいため、適切な評価と治療が重要です。
治療は、薬物療法(気分安定薬や一部の非定型抗精神病薬など)と心理社会的療法(心理教育、認知行動療法、対人関係社会リズム療法など)の組み合わせが推奨されます。規則的な生活リズムの確立、アルコールや薬物の回避、ストレス対処などのセルフケアも再発予防に有効です。
参考文献
症状
2型双極性障害の軽躁状態は、通常4日以上持続する持続的な気分高揚や易刺激性、活動・目標指向行動の増加で特徴づけられます。睡眠時間が短くても疲れにくい、話が多弁になる、注意散漫、リスクの高い行為への関与(散財、性行動、危険運転など)がみられます。
抑うつエピソードは、少なくとも2週間以上続く抑うつ気分または興味・喜びの喪失を中核に、食欲や体重の変化、睡眠障害、精神運動性の変化、易疲労感、罪責感や価値のなさの感覚、集中困難、希死念慮などを伴います。
2型では抑うつの比重が大きく、医療機関には「うつ」として受診することが多いため、過去の軽躁徴候の聞き取り(本人・家族からの情報を含む)が診断上極めて重要です。誤って抗うつ薬単剤が投与されると、軽躁・躁転や急速交代化のリスクが高まる可能性があります。
併存疾患として不安症、物質使用障害、ADHD、摂食障害などが多く、経過や治療反応に影響します。また、概日リズムの乱れや季節性の変動、産後期に関連した増悪など、環境・生理的要因に反応しやすい特徴が報告されています。
参考文献
原因・遺伝
双極性障害は多因子性疾患であり、単一の原因では説明できません。家系・双生児研究から遺伝要因の寄与が大きいことが示され、双極スペクトラム全体の遺伝率は一般に50〜80%と推定されます。2型に特化した遺伝率はやや低めとする報告もありますが、依然として高い遺伝的素因が示唆されています。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、CACNA1CやANK3、TRANK1、ODZ4(TENM4)などの遺伝子座が関連しており、神経興奮性、シナプス可塑性、概日リズムに関連する経路が注目されています。ただし、効果量は小さく、個々の変異で診断や予測ができる段階ではありません。
環境要因として、幼少期逆境(虐待・ネグレクト)、思春期・若年成人期のストレスライフイベント、睡眠・概日リズムの乱れ、物質使用(アルコール・覚醒剤など)、産後期ホルモン変動などが発症・再発に関与することが示されています。
遺伝と環境は相互作用し、ストレス脆弱性モデルで理解されます。遺伝的素因が高い場合でも、適切なストレス管理、睡眠衛生、支援体制の構築により発症リスクや再発頻度を低減できる可能性があります。
参考文献
- PGC Bipolar Disorder GWAS (Nature Genetics 2021)
- Polderman et al. Meta-analysis of heritability (Nat Genet 2015)
診断と検査
確定診断は精神科医による詳細な病歴聴取、家族からの情報、精神状態の観察に基づき、DSM等の診断基準を満たすかを評価します。身体疾患(甲状腺機能異常など)や薬物・物質の影響を除外するための血液検査や問診も重要です。
早期発見に役立つ自己記入式スクリーニングとして、MDQ(Mood Disorder Questionnaire)やHCL-32(Hypomania Checklist-32)が広く用いられます。これらは診断確定ではなく、医師の評価につなげるための補助ツールです。
病型評価では、エピソードの頻度・持続・重症度、混合症状の有無、急速交代(年間4回以上)などの経過指標、併存疾患、機能障害の程度を総合的に把握します。自殺リスク評価は常に最優先です。
客観的バイオマーカーは確立していませんが、睡眠・活動量のモニタリング、生活リズムや気分日誌、デジタルツールによる早期兆候の把握は再発予防に有用とされています。
参考文献
治療と支援
急性期の抑うつにはクエチアピンやラモトリギン、維持療法にはリチウム、ラモトリギン、バルプロ酸、あるいは一部の非定型抗精神病薬が用いられます。抗うつ薬は原則として気分安定薬の併用下で慎重に使用され、単剤は避けられます。
心理社会的療法は再発予防の中核で、心理教育、認知行動療法(CBT)、対人関係社会リズム療法(IPSRT)、家族療法などが有効です。睡眠・覚醒リズムの安定化、ストレス対処、服薬アドヒアランスの向上が重要です。
日本では自立支援医療(精神通院医療)により通院医療費の自己負担が軽減されます。精神障害者保健福祉手帳や障害年金など、生活面の支援制度も活用できます。地域の保健所や精神保健福祉センターが相談窓口になります。
治療は長期的な経過に基づく個別化が必要で、副作用モニタリング(体重・代謝、甲状腺・腎機能、血中濃度など)を定期的に行います。リスク要因(物質使用、睡眠不足、過大なストレス)を避ける生活調整は再発抑制に寄与します。
参考文献

