1型双極性障害
目次
概要
1型双極性障害は、気分が著しく高揚する躁病エピソードを少なくとも1回経験する精神疾患で、抑うつエピソードを併発することも多いのが特徴です。躁状態では気分の高揚だけでなく、易怒性、活動性の過剰、判断力低下が目立ち、社会・職業機能に重大な障害を来します。抑うつ期には興味や喜びの喪失、希死念慮、睡眠や食欲の変化などが起こり得ます。
疾患は慢性かつ再発性で、エピソードの合間にも軽微な症状や機能低下が残ることがあります。平均発症年齢は思春期後半から若年成人期で、早期に適切な治療を開始し、長期的な再発予防戦略を立てることが重要です。治療は薬物療法と心理社会的療法の併用が推奨されます。
1型双極性障害は遺伝要因の関与が大きい多因子疾患です。双生児研究で高い遺伝率が示され、ゲノムワイド関連解析では複数の関連遺伝子座が同定されています。ただし単一の遺伝子で説明できるわけではなく、多数の共通変異・一部の稀な変異の累積効果と環境要因が絡み合います。
治療しない場合、事故や債務、対人トラブル、自殺などのリスクが高まります。一方で、リチウムなどの気分安定薬は再発予防と自殺リスク低減に有効で、睡眠・生活リズムの是正や家族教育を含む包括的ケアにより、長期転帰を大きく改善し得ます。
参考文献
症状と経過
躁病エピソードでは、異常な気分高揚または易怒性が1週間以上持続し、誇大型思考、睡眠欲求の低下、多弁、観念奔逸、注意散漫、目標指向行動の増加、危険行動などがみられます。精神病性症状(誇大型妄想など)を伴うこともあります。これらは本人の意思や努力では抑えがたい強度に達し、学業や仕事、人間関係に甚大な影響を及ぼします。
抑うつエピソードでは、抑うつ気分または興味・喜びの喪失が2週間以上続き、食欲・体重や睡眠の変化、精神運動制止または焦燥、疲労感、罪責感や無価値感、思考力低下、死についての反復思考などが出現します。双極性障害の抑うつは反復しやすく、自殺リスクが高い点が臨床上の要点です。
混合状態では、同時に躁症状と抑うつ症状が混在し、苦痛が強く、衝動性や自殺リスクがさらに高まります。年間に4回以上のエピソードを繰り返す急速交代型を呈する場合もあり、治療計画をより厳密に調整する必要があります。
経過は個人差が大きく、完全寛解と再発を繰り返す人から、持続的な残遺症状を抱える人まで様々です。トリガーとして睡眠不足、薬物使用、強いストレス、季節変動などが知られており、これらを避ける生活上の工夫が再発予防に有用です。
参考文献
原因と危険因子
発症のメカニズムは多層的で、神経伝達(特にドーパミン系・セロトニン系)の調節異常、シナプス可塑性、カルシウムシグナリング、炎症反応、ミトコンドリア機能、概日リズム(体内時計)の破綻などが関与すると考えられています。脳回路レベルでは前頭葉‐辺縁系ネットワークの機能接続性の異常が報告されています。
遺伝的要因は強く、家族歴は重要なリスク因子です。双生児研究では遺伝率が約60〜85%と推定され、GWASではCACNA1C、ANK3、TRANK1、ODZ4(TENM4)などの遺伝子座が再現性高く関連します。SNPレベルで説明できる遺伝分散は一部に留まり、ポリジェニックな背景が示唆されます。
環境要因として、幼少期の逆境・トラウマ、ストレスフルなライフイベント、睡眠・概日リズムの乱れ、精神刺激薬やアルコールの使用、産後期などが挙げられます。これらはリスク増加だけでなく、エピソードのトリガーとしても重要です。
遺伝と環境は相互作用し、同じストレスでも遺伝的感受性によって反応が異なります。したがって単純な割合での分解は困難であり、個別のリスク評価と予防策の設計が重要です。
参考文献
- Nature Reviews Disease Primers: Bipolar disorder (2020)
- Nature Genetics: GWAS of Bipolar Disorder (2021)
診断と評価
診断は臨床面接に基づき、躁病エピソードの既往が決定的な鍵となります。DSM-5/ICD-10/11の基準を用いて、症状の期間と強度、機能障害の程度、精神病性症状の有無を評価します。抑うつのみで受診する患者も多いため、既往や家族歴、軽躁の徴候を丁寧に探索することが重要です。
補助的に、ムード障害質問票(MDQ)などのスクリーニングツールが有用な場合がありますが、診断を確定する検査ではありません。甲状腺機能異常、物質使用、神経疾患などの鑑別のため基本的な血液検査や画像検査が行われることがあります。
誤診を避けるため、抗うつ薬単剤治療の既往で躁転があったか、睡眠・活動性の変化、季節性、家族歴などの情報を系統的に確認します。うつ病として治療されている期間が長引くと予後に不利なため、早期に双極性の可能性を見抜くことが大切です。
自殺リスク評価は常に行い、必要に応じて安全確保の介入や入院治療を検討します。家族や職場・学校からの情報提供は、症状の把握と再発予防計画の策定に役立ちます。
参考文献
治療と再発予防
急性躁病にはリチウム、バルプロ酸、第二世代抗精神病薬(クエチアピン、オランザピン、リスペリドン、アリピプラゾール等)が推奨されます。重症例や精神病性症状、妄想・興奮が強い場合は併用療法や電気けいれん療法(ECT)を検討します。副作用のモニタリングと身体合併症への注意が不可欠です。
抑うつ期には、気分安定薬(例:リチウム、ラモトリギン)や一部の第二世代抗精神病薬が用いられます。抗うつ薬は躁転リスクに留意し、単剤での使用は避け、必要時は気分安定薬と慎重に併用します。維持療法ではリチウムが再発予防と自殺リスク低減にエビデンスが強いとされます。
心理社会的療法として、心理教育、家族焦点療法、認知行動療法、対人関係・社会リズム療法が有効です。規則的な睡眠・食事・活動のリズムを整えること、物質使用を避けること、ストレス管理、早期警戒サインの共有などが再発予防に直結します。
長期管理では、治療アドヒアランス支援、合併症(甲状腺機能、代謝、体重、妊娠・授乳期の対応)の計画、職場・学校・家族との連携が重要です。日本では自立支援医療などの制度利用により、通院・薬剤費の負担軽減が可能です。
参考文献

