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鼻咽頭癌

目次

定義と疫学の基礎

鼻咽頭癌(びいんとうがん)は、鼻の奥と咽頭の境目である上咽頭に発生する悪性腫瘍で、世界的には東南アジアや南中国に高頻度でみられ、日本では比較的稀な癌です。病理学的には非角化型が多く、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)との関連が強いことが特徴です。

世界の年間新規患者は約13万人と推計され、男性に多く、発症年齢は地域により差があり、流行地域では20代後半と40–50代の二峰性、非流行地域では中高年に多い単峰性の分布を示します。発生率の地域差は遺伝素因と環境要因の相互作用を反映していると考えられます。

日本では人口10万人あたりの罹患は数例程度とされ、頭頸部癌の中でも割合は小さいですが、頸部リンパ節腫脹など他疾患と紛らわしい初発症状のため発見が遅れやすく、適切な情報提供と受診行動が重要です。

EBVの普遍的感染にもかかわらず一部の人にのみ癌が発生することから、宿主の免疫応答(HLA領域など)や食生活(塩蔵魚などのニトロソ化合物曝露)、喫煙・職業曝露などが重なってリスクが上がる多因子疾患と理解されています。

参考文献

主な症状と診断の流れ

代表的な症状は、片側の耳詰まりや滲出性中耳炎による難聴、血の混じる鼻水や鼻閉、頸部リンパ節の腫れ(しこり)、頭痛、複視や顔面のしびれなど脳神経症状です。風邪や副鼻腔炎と紛らわしく、症状が持続・反復する場合は耳鼻咽喉科での精査が推奨されます。

診断は、鼻咽腔内視鏡で原発巣を観察し生検で病理確定するのが基本です。腫瘍の広がり評価には造影CTやMRI、遠隔転移の検索にPET/CTが用いられます。血中EBV DNA検査は流行地域でのスクリーニングや治療後のモニタリングに有用性が示されています。

病期はTNM分類に基づき決定され、病期に応じて放射線治療単独、化学放射線療法、導入化学療法併用などが選択されます。早期例でもリンパ節転移を伴うことが多いため、頸部の評価が治療計画で重要です。

自己判断で市販薬に頼り症状を長引かせると進行してしまうことがあります。片側の難聴や耳管狭窄症状が長引く、原因不明の頸部しこりが続くといった場合は、早めの専門医受診が早期発見につながります。

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病因と発生機序

鼻咽頭癌の中心的な病因はEBVの潜伏感染で、腫瘍細胞内でウイルスが潜伏遺伝子(EBNA1やLMP1/2など)を発現し、細胞増殖シグナルの活性化、免疫逃避、アポトーシス抑制をもたらします。これに宿主遺伝要因や環境曝露が重なることで腫瘍化が進行します。

腫瘍ではゲノムのコピー数異常やプロモーター高メチル化などエピゲノム変化が頻発し、腫瘍抑制遺伝子のサイレンシング、DNA修復機構の破綻が蓄積します。これらはEBV関連タンパクの作用と相乗して発生・進展に寄与します。

免疫微小環境の改変も重要で、PD-L1の過剰発現やT細胞浸潤の機能不全がみられます。これが免疫チェックポイント阻害薬の感受性の一因と考えられ、再発・転移例を中心に臨床研究が進んでいます。

食塩漬け魚に含まれるニトロソ化合物や喫煙による発癌物質はDNA損傷を引き起こし、EBV感染細胞の変異蓄積を促進すると考えられます。職業性曝露(木粉塵やホルムアルデヒド)もリスク上昇との関連が報告されています。

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治療の考え方

局所進行例の標準は強度変調放射線治療(IMRT)を基盤にした同時併用シスプラチン療法で、局所制御と生存の改善が確立しています。リスクに応じて導入化学療法(ゲムシタビン+シスプラチン等)の併用が選択されます。

早期例(T1-2N0)では放射線単独で高い治療成績が得られ、頸部リンパ節の予防照射が行われることが一般的です。小児・若年例では長期有害事象の最小化に配慮した計画が重要です。

再発・転移例の一次治療はゲムシタビン+シスプラチンが国際的標準の一つで、二次以降にタキサン系などが用いられます。免疫チェックポイント阻害薬は海外で承認が進む一方、国や地域によって適応状況が異なるため確認が必要です。

支持療法として嚥下・栄養管理、口腔ケア、聴力や甲状腺機能のフォローなどが欠かせません。治療後のEBV DNAモニタリングは再発リスク層別化に役立つ可能性が報告されています。

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予防・早期発見と生活支援

一般集団への確立した検診はありませんが、流行地域では血漿EBV DNAのスクリーニングが再現性のある有用性を示しました。日本では高リスク者や症状持続例の早期受診が現実的な早期発見策です。

一次予防として、塩蔵魚など高ニトロソ化合物食品の大量摂取を避ける、禁煙・受動喫煙回避、職業曝露対策が推奨されます。バランスのよい食事と口腔・鼻咽腔の健康管理も大切です。

医療費面では公的医療保険と高額療養費制度が自己負担を軽減します。先進医療(陽子線・重粒子線など)の適用可否や費用は施設に確認が必要です。自治体のがん相談支援センターの活用も有益です。

治療後は晩期合併症(唾液分泌低下、嚥下障害、甲状腺機能低下、聴力低下など)に注意し、定期フォローでの早期介入がQOL維持に重要です。リハビリや栄養・心理的支援をチームで受けることが推奨されます。

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