黄斑変性
目次
定義と疫学
黄斑変性(加齢黄斑変性、AMD)は網膜の中心部である黄斑が障害され、中心視力が低下する疾患です。読書や顔の認識、細かな作業に不可欠な視機能が侵され、先進国の高齢者における重度視覚障害の主要原因の一つです。
AMDは高齢化とともに増加し、世界全体では有病者は将来的に数億人規模に達すると推定されています。早期(ドライ)と後期(滲出型・地図状萎縮)の病型があり、後期は視力障害の主因になります。
人種差も知られ、欧米では後期AMDの頻度が高く、アジアでは滲出型の中でもポリープ状脈絡膜血管症(PCV)が比率として高い傾向があります。日本でも高齢化に伴い患者は増加しています。
AMDは生活の質や介護負担、転倒・抑うつなどの関連リスクを高め、社会経済的インパクトが大きい疾患です。早期発見と継続的治療により視機能の維持が可能な時代になってきています。
参考文献
- Age-related macular degeneration — The Lancet Review (2018)
- Global prevalence of AMD and projections to 2040
病態生理
AMDの初期にはブルッフ膜と網膜色素上皮(RPE)間に老廃物が蓄積し、黄白色のドラスンが形成されます。これがRPE機能障害や代謝異常を招き、光受容体の生存に影響します。
補体経路の過剰活性化、酸化ストレス、脂質代謝異常、加齢による組織硬化が相互に関与して病態を進展させます。遺伝因子と環境因子が交わる多因子疾患です。
後期には二つの主要表現型があります。滲出型(脈絡膜新生血管を伴う)では異常血管が生え出て出血・滲出が生じ、急速な視力低下を来します。地図状萎縮(乾性の進行形)ではRPEと光受容体が不可逆的に萎縮します。
アジアで頻度が高いPCVは分枝状血管網とポリープ状病変を特徴とし、光線力学療法と抗VEGFの併用が有効なことがあります。画像診断(OCT/OCTA、蛍光/ICG造影)が病型判定に必須です。
参考文献
- Age-related macular degeneration — The Lancet Review (2018)
- A large genome-wide association study of AMD (Fritsche 2016)
遺伝学
双生児研究からAMDの遺伝率は約45〜70%と推定され、遺伝素因の寄与が大きいことが示されています。ただし単一遺伝子疾患ではなく、多遺伝子・多因子性です。
主要関連遺伝子には補体制御のCFH、C3、CFB/C2、CFI、脂質代謝のAPOE、胆固醇転送のCETP、10q26領域のARMS2/HTRA1などが含まれます。
欧米で報告の多いCFH Y402Hに加え、東アジアではCFH I62VやARMS2 A69S、HTRA1プロモーター多型の寄与が大きいとされます。これらは補体活性やRPEのストレス応答に関与します。
近年のGWASとポリジェニックスコアは疾患リスク推定や病型差の理解を進めていますが、臨床応用には生活習慣や年齢など環境因子の統合が不可欠です。
参考文献
環境・生活習慣因子
喫煙は最も強固な修飾因子で、喫煙者は非喫煙者に比べAMDリスクが2〜3倍に上昇します。受動喫煙も無視できません。禁煙は一次・二次予防の要です。
高齢そのものが最大の非修飾リスクであり、加えて高血圧、肥満、心血管疾患、低い身体活動量などが進行と関連します。ブルーライト・紫外線曝露も議論があります。
緑黄色野菜や魚由来のω-3脂肪酸、地中海食パターンは進行抑制に関連。AREDS2サプリ(ルテイン/ゼアキサンチン+抗酸化・亜鉛)は中等度以降の進行抑制に有効ですが、発症予防ではありません。
アルコール多量摂取の回避、体重・血圧・脂質管理、日中の遮光、片眼ずつの見え方チェックが推奨されます。総合的な生活習慣介入が重要です。
参考文献
診断と治療
自覚症状は変視(線がゆがむ)、中心暗点、視力低下など。アムスラーチャートの自己チェックと定期検診で早期発見が可能です。
診断は眼底検査、光干渉断層計(OCT)やOCTA、蛍光眼底造影/ICG造影で病型と活動性を評価します。
治療の主軸は抗VEGF硝子体内注射(ラニビズマブ、アフリベルセプト、ブロルシズマブ、ファリシマブ等)で、treat-and-extend戦略により通院負担を軽減します。PCVでは光線力学療法併用が選択されます。
地図状萎縮に対する補体阻害薬(米国でのペグセタコプラン等)の台頭や視覚リハビリも重要です。日本でも治療選択肢は拡大しつつあります。
参考文献

