髪質(直毛・くせ毛)
目次
髪質(直毛・くせ毛)の概要
髪質は毛幹の形状と毛包の構造、ケラチンの結合状態など生物学的要因の相互作用で決まります。直毛は毛幹断面が比較的円形で、毛包が直線的であることが多く、くせ毛は断面が楕円形で毛包が湾曲しやすい傾向が知られています。
ケラチン間のジスルフィド結合や水素結合の分布・密度は毛の曲がりや硬さに影響します。湿度や水分で一時的に形が変わるのは、可逆的な水素結合が再配置されるためです。一方、パーマや縮毛矯正が長く形を保つのは、ジスルフィド結合を化学的に切断・再形成するからです。
直毛とくせ毛は連続的なスペクトラムで、波状毛や強い縮毛など多様性があります。民族差として、東アジアでは直毛が多く、欧州や中南米では波状〜巻毛が多い傾向が報告されていますが、集団内の個体差も大きく一概には言えません。
髪質は疾患ではなく正常な形質の一つです。機能的には頭皮保護や紫外線・摩擦からの防御に寄与します。心理社会的な側面では自己像や文化的美意識に関わるため、整髪のニーズが生じますが、医療的には通常治療対象ではなく、ヘアケアや美容施術の領域で語られることが多いです。
参考文献
遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
双子研究や大規模ゲノム研究から、髪のカール度に対する遺伝の寄与は高く、広義遺伝率は概ね70〜90%と推定されます。すなわち形質の大部分は遺伝的変異で説明され、環境の寄与は10〜30%程度と見積もられます。
ただし遺伝率は集団・年代・測定法に依存する統計量であり、個人の将来を厳密に予測する数値ではありません。自己申告によるカール度の尺度や評価者のばらつきで推定値は上下します。
環境要因としては、湿度や水分、熱処理、化学処理(パーマ・縮毛矯正・カラー)によるケラチン結合変化、機械的損傷、栄養・ホルモン状態、加齢などが挙げられます。これらは恒常的変化から可逆的な変化までさまざまです。
大規模GWASは髪質に関与する多数の遺伝子座を明らかにし、集団差も説明していますが、環境・文化的整髪習慣の影響も無視できません。したがって比率は範囲で示すのが妥当で、実地ではヘアケアと生活環境の調整が有効です。
参考文献
- Adhikari et al., A GWAS in Latin Americans identifies novel loci for facial and scalp hair features. Nat Commun (2016)
- Cleveland Clinic: Hair Anatomy, Function & Growth
髪質(直毛・くせ毛)の意味・解釈
髪質は健康・疾患の有無を直接決定するものではなく、正常範囲の多型です。直毛・くせ毛それぞれに長所があり、スタイリングの自由度やボリューム感、まとまりやすさなどが異なるだけです。
社会文化的には、美意識や職場文化、ジェンダー規範によって評価が変わり、個人の自己肯定感に影響することがあります。医学的説明により、生得的な多様性であることを理解する助けとなります。
毛幹の形や毛包の湾曲は、遺伝子発現と発生学的形態形成の結果であり、病的変化ではありません。病的な縮毛や脆毛を伴う遺伝性疾患(例:羊毛様毛症)は別概念です。
解釈の実務的側面として、髪質に応じた適切な洗浄頻度、コンディショナーやオイルの使い方、熱保護、カット技法の選択が重要です。これにより扱いやすさとヘアヘルスの両立が可能になります。
参考文献
関与する遺伝子および変異
EDAR(Ectodysplasin A Receptor)の東アジア特異的変異(V370Aなど)は、毛の太さや直毛傾向と関連し、汗腺や歯形態にも多面的効果を持つことが示されています。モデル動物で機能的因果性が検証されています。
TCHH(トリコヒアリン)は毛皮質・メデュラの構築に関わり、欧州系での直毛・くせ毛に関連する共通バリアントが報告されています。毛の機械的性質を通じて曲率に影響する可能性があります。
PRSS53は東アジア・南アジアで髪の形に関連する座位として同定され、毛包の角化や外毛根鞘のダイナミクスに関わると考えられています。KRT71、PADI3、TGM3など毛幹形成の遺伝子も髪の形態に関連します。
これらの遺伝子はそれぞれ効果量が小さく、多因子・多遺伝子の足し合わせで髪質が規定されます。集団差は過去の自然選択や漂流の影響を反映しており、個体レベルではさまざまな組み合わせが存在します。
参考文献
- MedlinePlus Genetics: EDAR gene
- Kamberov et al., Modeling Recent Human Evolution in Mice by Expression of a Selected EDAR Variant. Cell (2013)
- MedlinePlus Genetics: TCHH gene
- Adhikari et al., Nat Commun (2016)
その他の知識(加齢・ホルモン・ケア)
加齢に伴い毛幹の直径や含水率、キューティクルの状態が変化し、若年期に直毛だった人が波状毛になるなどの変化が見られることがあります。ホルモン変動(思春期、妊娠、更年期)で一時的に髪の扱いが変わることもあります。
環境水分(湿度)で水素結合が組み替わり、うねりやフリズが増えます。熱整髪は一時的に形を整える一方で、過度な熱はタンパク変性やキューティクル損傷を招くため、熱保護剤と適切な温度管理が推奨されます。
化学パーマや縮毛矯正はジスルフィド結合を還元・再架橋して形状を変えます。施術後は疎水性低下や孔隙増加による乾燥・切れ毛リスクが上がるため、コンディショニングやタンパク補修の併用が有用です。
製品安全の観点では、ホルムアルデヒド等を放出する一部のストレート剤に注意が必要です。信頼できる成分表示と美容師の専門知識を活用し、頭皮トラブルがあれば皮膚科に相談してください。
参考文献

