髪の太さ
目次
髪の太さの概要
髪の太さとは、毛幹(頭皮から出ている髪の軸)の直径を指し、一般にマイクロメートル(μm)で表されます。髪の直径は毛包の大きさや毛乳頭の細胞数、皮質(コルテックス)と髄質(メデュラ)の構成比などの解剖学的要因により決まります。人種や個体差により広く分布し、東アジア系では平均が太め、欧州系で中等度、アフリカ系ではばらつきが大きいとされます。
体感される「髪のボリューム」は、髪の太さ(直径)と本数(密度)の積の効果で決まり、太いが本数が少ない場合と、細いが本数が多い場合で同じ見た目の量感になることもあります。太さは健康状態の一指標ではありますが、太ければ必ずしも健康、細ければ不健康という単純な図式には当てはまらず、遺伝と加齢、ホルモンや栄養、外的ダメージの複合で決まります。
測定は、光学顕微鏡やレーザー計測、走査型電子顕微鏡での直径測定、トリコスコピー(拡大鏡診察)やフォトトリコグラムなどの臨床的手法で行われます。集団レベルではポニーテール指数(束ねた髪の断面積)で全体の毛量を推定する方法も用いられます。これらの方法は毛幹の膨潤(湿度・化粧品)や損傷の影響を受けうるため、標準化が重要です。
髪の太さは毛周期の成長期における毛母細胞の増殖と分化の結果として形成されます。甲状腺機能異常やアンドロゲン感受性の変化、加齢に伴う毛包の縮小は直径を減少させる方向に働きます。一方で一時的な水分吸収やトリートメントによる膨潤で見かけの直径が増すことがありますが、恒久的変化ではありません。
参考文献
- DermNet NZ: Hair shaft disorders
- Wikipedia: Human hair (髪の太さの一般的範囲)
- NCBI Bookshelf: Androgenetic Alopecia (miniaturization)
髪の太さの遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
髪の形態形質(直径、カール、直毛・波状・縮毛など)は全般に遺伝の寄与が大きいことが、双生児研究やゲノムワイド関連研究(GWAS)で示されています。集団や指標により幅はありますが、ヘアモルフォロジーの遺伝率はおおむね70〜90%と報告され、環境要因は10〜30%程度と推定されます。
この「遺伝率」は、個人内の固定的な割合ではなく、ある集団・環境条件における形質の分散のうち遺伝に起因する割合を意味します。したがって、環境の多様性が大きい集団では環境の寄与が相対的に高く評価されることがあり、測定法や年齢構成によっても推定は変動します。
環境要因としては、年齢(加齢に伴う毛包縮小)、内分泌(アンドロゲン・甲状腺)、栄養(エネルギー・蛋白・鉄・亜鉛など)、薬剤(レチノイド、化学療法)、物理化学的ダメージ(熱、紫外線、漂白・パーマ)などが知られています。これらは毛幹の損耗や毛包の機能低下を通じ、直径を減少させることが多いです。
実務的な目安として、成人健常集団の髪の太さの個人差に関しては「遺伝70–85%、環境15–30%」程度と理解しておくと、生活習慣介入の期待可能性と、介入で変えにくい部分のバランスが把握しやすくなります。ただし疾患(例:甲状腺機能低下症、重度栄養障害)がある場合には環境(医学的)要因の寄与が一時的に支配的となりえます。
参考文献
- Adhikari et al. (2016) A GWAS of hair traits in Latin Americans
- NCBI Bookshelf: Androgenetic Alopecia
髪の太さの意味・解釈
髪の太さは、個人の見た目のボリューム感、触感、スタイリングの持続性に直結しますが、健康度の単独指標ではありません。太くてもキューティクル損傷が高度であれば艶・手触りは悪化し、細くても健康な毛幹であれば扱いやすいことがあります。
臨床的には、男性型・女性型脱毛症における「毛のミニチュア化(直径の段階的低下)」が重要な診断所見となります。トリコスコピーでは、同一頭皮内で太さのばらつき(異径性)が増えることや、一定割合以上の細毛の出現が重症度判定に用いられます。
集団比較では、民族や頭皮部位(前頭・頭頂・後頭)で平均直径が異なるため、同一個人内の経時変化や同一部位内の比較が解釈上望ましいです。美容現場では、ポニーテール指数や断面積を代理指標として商品効果を評価することがありますが、膨潤や残留被膜により短期的に増加することがある点に注意します。
予防・ケアの観点では、直径そのものを大幅に変えるのは難しい一方、損傷の抑制(熱・紫外線対策、化学処理の間隔調整)、適切な栄養と頭皮ケア、内分泌疾患の治療により、見かけの太さとボリュームを最適化することは可能です。
参考文献
髪の太さに関与する遺伝子および変異
最もよく知られるのはEDAR遺伝子のバリアント(rs3827760、V370A)で、東アジア系で頻度が高く、太い直毛傾向や汗腺数の増加など複合形質に関連します。マウスモデルと人の連関解析で、毛幹直径に対する効果が実証されています。
トリコヒアリン(TCHH)は髪の形状(特にカール)に強く関与し、毛幹の機械特性に影響します。PRSS53など角化関連遺伝子も毛幹形質に寄与し、ラテンアメリカ集団を対象としたGWASでは、EDAR、TCHH、PRSS53、IRF4等が髪や体毛の形質と関連しました。
エクトダーミナル・ディスプラジア関連のEDARADD、WNT10Aなどの遺伝子は、重症型では毛の形成不全を来しますが、一般集団における軽微な多型が毛幹直径に与える影響は中等度です。LPAR6やLIPHの変異はウールリーヘアや低毛症をもたらし、直径の低下や形状異常がみられます。
なお、単一遺伝子の多型で説明できる分散は限定的で、EDARの効果が顕著な集団でも表現型分散の一部に過ぎません。多遺伝子(ポリジェニック)な累積効果と環境相互作用が、最終的な直径分布を形作ります。
参考文献
- Fujimoto et al. (2008) EDAR variant and Asian hair thickness
- Kamberov et al. (2013) Modeling EDAR V370A in mice
- Adhikari et al. (2016) Hair traits GWAS in Latin Americans
- MedlinePlus Genetics: EDAR gene
髪の太さに関するその他の知識
加齢とともに毛包は小型化し、平均直径はゆるやかに低下します。甲状腺機能低下症、鉄欠乏、重度のカロリー・蛋白不足は細毛化に関与し、是正により部分的に可逆性がみられます。アンドロゲン感受性の高い前頭・頭頂部では、男性型脱毛症に伴い直径が経時的に低下します。
外的要因として、熱(高温ブロー・アイロン)、紫外線、漂白やパーマによる化学的損傷はキューティクルの欠損と皮質の露出を通じて毛幹が脆弱化し、断毛や摩耗で見かけの直径が減少します。逆に水分やカチオン性ポリマーによる一時的膨潤・被膜化で直径が増すことがありますが、洗浄で元に戻ります。
測定・評価では、部位、季節、洗髪後の経過時間、整髪料の有無を統一することが重要です。臨床では、フォトトリコグラムやデジタルダーモスコピーが再現性の高いモニタリング手段として普及しています。研究では、断面積やヤング率など物性評価とあわせて直径が解析されます。
民族差はありますが、個人差の幅も大きく、見た目の印象はカット(断面形状)、屈曲、密度、長さとの相互作用で決まります。したがって、太さの平均値だけでなく、同一スカルプ内の分布(異径性)や時間変化を捉えることが重要です。
参考文献

