髄膜腫
目次
定義と概要
髄膜腫は、脳と脊髄を覆う髄膜のうち、くも膜顆粒(くも膜帽細胞)に由来する腫瘍で、多くは良性に分類されます。WHO 中枢神経系腫瘍分類ではグレード1(良性)、グレード2(異型)、グレード3(悪性)が設定され、組織像や分子所見で診断されます。頭蓋内や脊髄硬膜に広く発生しうるため、局在により症状や治療選択が異なります。
成人の原発性脳腫瘍の中で最も患者数が多い腫瘍の一つで、女性に多いことが特徴です。発見時は無症候の偶発例も少なくありませんが、腫瘍が大きくなると周囲組織を圧迫し、局在に応じた神経症状を生じます。増殖は概して緩徐ですが、異型・悪性例は再発や浸潤性が問題になります。
画像診断では、硬膜付着を伴う境界明瞭な腫瘤として描出され、造影MRIで強く均一に増強されることが典型です。しばしば硬膜尾徴候や骨肥厚を伴います。確定診断は病理組織学的評価で行い、近年はドライバー遺伝子やメチロームを含む分子病理が予後層別化に活用され始めています。
治療は観察、手術、放射線治療(定位放射線手術を含む)を組み合わせます。小さく無症候であれば経過観察が可能な例も多く、症候性や増大傾向があれば外科的全摘出が第一選択です。摘出不能・残存や再発例では分割照射や定位照射が有効で、薬物療法は現時点で確立していませんが臨床試験が進行しています。
参考文献
- WHO Classification of Tumours Editorial Board. Central nervous system tumours (5th ed., 2021)
- EANO guideline on the diagnosis and management of meningiomas (2021)
- Nassiri F, et al. Meningioma. Nat Rev Dis Primers (2021)
症状と自然史
症状は腫瘍の位置と大きさに依存します。前頭葉では性格変化や実行機能低下、側頭葉ではけいれん、頭蓋底では複視や顔面しびれ、脊髄では歩行障害やしびれなどが見られます。頭痛は圧迫や髄液循環障害で生じ、緩徐進行性であるため見過ごされることもあります。
偶発的に見つかる小型髄膜腫は、長期間ほとんど変化しないものから、年率数ミリの増大を示すものまで様々です。高齢者や石灰化・低信号所見を伴う場合は増大が緩やかなことが多く、若年者や浮腫を伴う場合は増大傾向が強いとされます。
WHOグレード1の多くは局所性で転移は稀ですが、グレード2・3は再発率が高く、骨や硬膜への浸潤性が増します。再発パターンは摘出度と分子背景に左右され、放射線治療の追加で制御率が改善します。
けいれんの管理、ステロイドによる浮腫軽減、リハビリテーションなど支持療法は生活の質改善に重要です。ホルモン受容体の関与が示唆され、妊娠や高用量プロゲスチン使用で増大する例が報告されますが、全体として個別性が高く専門的評価が必要です。
参考文献
- EANO guideline on the diagnosis and management of meningiomas (2021)
- CBTRUS Statistical Report (US), 2014–2018
遺伝学と分子病理
髄膜腫の約半数でNF2遺伝子の不活化がみられ、22番染色体欠失に伴うメリン機能喪失が細胞接着やシグナル経路を撹乱します。残りの多くではTRAF7、KLF4(K409Q)、AKT1(E17K)、SMO、PIK3CA、POLR2Aなどのドライバー変異が相互排他的に出現し、解剖学的局在や組織型と関連します。
TERTプロモーター変異やCDKN2A/B欠失は悪性度と再発リスクの上昇に関連し、WHO 2021分類ではこれらの分子異常が高グレード決定に寄与します。DNAメチル化プロファイルは従来の組織分類よりも予後予測に優れることが示され、臨床実装が進みつつあります。
家族性素因としてはNF2関連腫瘍症候群が知られ、若年発症や多発・両側性で現れます。まれにSMARCE1変異の家族性クリアセル髄膜腫、SMARCB1関連の硬膜腫瘍群が報告されていますが、一般集団における遺伝的寄与割合を定量するエビデンスは限られています。
分子標的治療の候補として、SMO変異症例に対するHedgehog経路阻害薬、AKT1/PI3K変異症例に対するPI3K/AKT/mTOR阻害薬などが研究中です。免疫微小環境の解析から、免疫チェックポイント阻害薬の可能性も探られていますが、現時点で標準治療とは位置づけられていません。
参考文献
診断と検査
第一選択の画像は造影MRIで、均一増強、硬膜尾徴候、周囲の血管や神経との関係把握に優れます。CTは石灰化や骨反応(高密度、過骨症)の評価に有用です。脊椎では髄内・髄外の鑑別を含めたMRIが重要となります。
鑑別診断には血管周皮腫、転移性腫瘍、神経鞘腫、膠芽腫の硬膜播種などが含まれます。MRスペクトロスコピーや灌流、拡散強調画像は補助情報を提供しますが、確定には病理が必要です。
病理では上皮様・線維性・移行型などの亜型があり、核分裂像、壊死、脳実質浸潤の有無などを総合してグレード判定します。免疫染色ではEMA、SSTR2A陽性が典型で、Ki-67指数は増殖活性の指標になります。
分子検査は再発リスク層別化や臨床試験選択に有用です。TERTプロモーター、CDKN2A/B、NF2、AKT1、SMO、KLF4、PIK3CAなどの異常が治療戦略や予後説明に影響しうるため、専門施設での包括的評価が推奨されます。
参考文献
治療と予後
治療選択は症状、腫瘍サイズ・位置、増大速度、患者背景で決まります。無症候で小型のものは定期MRIで経過観察が可能で、成長や症候化があれば介入します。手術は可能であれば全摘出が目標で、神経機能温存とのバランスが重要です。
Simpson分類は摘出度と再発率の関係を示す古典的指標で、付着硬膜と骨の処理まで含めた完全摘出で再発率が低下します。ただし頭蓋底などで過大な機能障害のリスクがある場合は、機能温存と補助放射線治療の併用が推奨されます。
放射線治療は残存・再発や高リスク例に有効で、分割照射と定位放射線手術(ガンマナイフ、サイバーナイフ等)が選択肢です。腫瘍体積、近接神経・血管から線量・分割法を決定します。長期制御率は良好で、特に小型・明瞭境界例で高い奏効が得られます。
薬物療法は標準治療が確立しておらず、再発難治例で臨床試験が検討されます。ベバシズマブやエベロリムス、ソマトスタチンアナログ、免疫チェックポイント阻害薬等の研究が進んでいます。全体の予後はグレードと摘出度、分子異常で層別化され、グレード1では長期生存が期待できます。
参考文献

