骨粗鬆症
目次
定義と疫学の概要
骨粗鬆症は、骨密度の低下と骨微細構造の劣化により骨強度が低下し、軽微な外力でも骨折しやすくなる病気です。診断には若年成人平均(YAM)やTスコアを用いる二重エネルギーX線吸収測定(DXA)が標準で、腰椎や大腿骨近位部で評価します。骨折の既往がある場合は骨密度が正常に近くても臨床的に骨粗鬆症と扱われることがあります。
世界的にみると推定2億人以上が骨粗鬆症の影響を受け、50歳以上では女性の約3人に1人、男性の約5人に1人が生涯で脆弱性骨折を経験すると報告されています。骨折は寝たきりや死亡リスクの上昇に直結し、医療・介護費用の増加や生活の質の低下を招くため、公衆衛生上の重要課題です。
日本でも患者数は多く、推定で約1,300万人前後とされています。高齢化の進行に伴い大腿骨近位部骨折数は増加傾向で、地域医療や介護のリソースに影響します。女性に多い疾患ですが、男性の骨粗鬆症は見逃されやすく、骨折後の死亡率上昇が女性より大きいことが問題視されています。
骨粗鬆症の評価は骨密度だけでなく、年齢、性別、既往骨折、ステロイド内服、喫煙、飲酒、関節リウマチなどの臨床リスクも総合的に考慮します。これらを組み合わせて10年骨折リスクを推定するFRAXなどのツールが臨床で広く使われ、治療開始の判断材料となります。
参考文献
症状と合併症
骨粗鬆症自体は痛みなどの自覚症状に乏しく、「骨折して初めて気づく」ことが多い病気です。背骨(椎体)の圧迫骨折は知らないうちに起こることもあり、急な背部痛や身長の低下、姿勢の前かがみ(円背)として表れることがあります。手首や上腕骨、股関節の骨折も典型的です。
脆弱性骨折は日常生活に大きな影響を与えます。特に股関節骨折は手術や長期のリハビリを要し、要介護化や施設入所、死亡率の上昇に結びつきます。椎体骨折の反復は慢性腰背部痛、円背の進行、呼吸機能の低下、胃食道逆流など全身への波及をもたらします。
一度骨折すると「骨折の連鎖(フラクチャー・カスケード)」が起きやすく、次の骨折リスクが短期間で急増します。したがって最初の骨折後の二次骨折予防は特に重要で、薬物療法と生活改善、転倒予防介入を組み合わせることが推奨されます。
骨粗鬆症に伴う精神心理的影響も無視できません。疼痛や活動制限による抑うつ、不安、社会的孤立、自己効力感の低下が生じ、リハビリや治療アドヒアランスへの悪影響となるため、包括的支援が求められます。
参考文献
- National Osteoporosis Foundation: What is Osteoporosis?
- International Osteoporosis Foundation: Broken bones, broken lives
発生機序(骨代謝の破綻)
骨は破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成が絶えず入れ替わる「骨リモデリング」により強度を保っています。加齢やエストロゲン低下、炎症、糖化ストレス、栄養不足などで骨吸収が優位になると、骨量と骨質が低下して脆弱化します。微小構造の劣化は骨密度だけでは捉えにくい骨強度低下の一因です。
RANK/RANKL/OPG系は破骨細胞の分化・活性化を司り、RANKLの過剰は骨吸収亢進を招きます。Wnt/βカテニン経路は骨芽細胞分化を促進し、拮抗因子スクレロスチン(SOST)の増加は骨形成を抑制します。これら経路のバランス変化が骨粗鬆症の根幹にあります。
閉経後骨粗鬆症ではエストロゲン低下がRANKLの発現上昇と炎症性サイトカイン増加を引き起こし、破骨細胞活性が亢進します。老年性骨粗鬆症では幹細胞の分化能低下、酸化ストレス、骨内微小血管障害などが骨形成低下に関与します。
副甲状腺機能亢進症、クッシング症候群、甲状腺機能亢進症、消化器疾患による栄養吸収不良、慢性腎臓病、長期ステロイド内服など二次性要因も骨代謝を乱します。病態に応じた原因検索と治療選択が重要です。
参考文献
- Endocrine Society Guideline 2019: Pharmacological Management of Osteoporosis
- IOF: Pathophysiology of osteoporosis
遺伝的・環境的要因
骨密度(BMD)には強い遺伝的寄与があり、双生児・家族研究ではBMDの遺伝率が50〜85%と報告されています。GWASではLRP5、WNT16、SOST、ESR1、RANK/RANKL/OPG系など多数の関連遺伝子座が同定され、骨形成・吸収経路との関連が裏付けられています。
一方で、骨折リスク自体はBMD以外の因子(転倒、筋力、視力、環境)にも大きく依存するため、遺伝の影響は相対的に小さくなります。生活習慣や併存疾患、薬剤、ビタミンD状態、体重、喫煙・飲酒、身体活動、日光曝露などの環境要因の修正でリスクを相当程度下げられます。
喫煙は骨吸収促進とエストロゲン代謝に悪影響を与え、飲酒は摂取量が増えるほど転倒と骨折リスクを押し上げます。低栄養、低体重は骨量低下の独立因子であり、適正なカルシウムとビタミンD摂取、十分なタンパク質、レジスタンス・バランス運動が保護的に働きます。
環境整備による転倒予防(段差解消、手すり、適切な照明・履物)、薬剤見直し(鎮静薬、降圧薬等)、視力・聴力の補正、貧血や起立性低血圧の管理なども骨折予防に直結します。個人要因と環境要因の両輪で対策することが実効的です。
参考文献
- Ralston & Uitterlinden. Genetics of osteoporosis. Endocr Rev. 2010
- Morris et al. An atlas of genetic influences in osteoporosis. Nat Genet. 2019
- e-ヘルスネット:喫煙と骨粗鬆症
予防と治療
骨折予防の基本は、栄養、運動、日光、生活習慣の見直し、転倒対策です。カルシウムとビタミンDの十分な摂取、適切なタンパク質、週2〜3回の筋力トレーニングと日常的な歩行・バランス訓練が推奨されます。禁煙、飲酒は節度ある量にとどめることが重要です。
薬物治療は骨折リスクが高い人に適応があります。第一選択にはビスホスホネート(アレンドロネート、リセドロネート、ゾレドロン酸)やデノスマブが用いられ、選択は年齢、腎機能、服薬遵守、併存症などで最適化します。
高リスクや複数骨折例では骨形成促進薬(テリパラチド、アバロパラチド)や抗スクレロスチン抗体(ロモソズマブ)を用いたアナボリック戦略が有効です。投与期間や順序(アナボリック先行→抗吸収維持)も骨折予防効果に影響します。
骨密度検査(DXA)やFRAXによる10年骨折リスク評価、血液検査での二次性要因の除外、転倒リスク評価を定期的に行い、治療効果と副作用をモニタリングします。アドヒアランス向上のための服薬指導と多職種連携が鍵です。
参考文献

