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食道裂孔ヘルニア

目次

定義と種類

食道裂孔ヘルニアは、横隔膜の食道裂孔を通って胃の一部が胸腔側へ移動する病態を指します。もっとも一般的なのは滑脱型(タイプI)で、胃食道接合部ごと上方へずれるため逆流症状と関連します。無症候のことも少なくありませんが、慢性化すれば生活の質に影響します。

滑脱型に対し、傍食道型(タイプII〜IIIの要素を含む)は胃食道接合部は本来の位置に残りつつ、胃底部などの一部が裂孔から胸腔内へ入り込む型です。この型は絞扼や壊死のリスクがあり、無症状でも手術が推奨される場合があります。

分類はI〜IVに分けられ、IV型では胃以外の臓器(大腸や脾臓など)が脱出することもあります。大きさと位置の違いは症状や合併症の危険度、治療選択に直結するため、正確な評価が重要です。

本疾患は加齢とともに頻度が上がり、肥満や腹圧上昇を伴う状況で発生しやすくなります。逆流性食道炎(GERD)としばしば共存し、病態の相互作用が症状の持続や難治化に関与します。

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症状と合併症

典型的な症状は胸やけ、酸味の逆流、呑酸、胸部不快感、嚥下困難などで、特に食後や前かがみ姿勢、就寝時に増悪しやすいことが知られています。慢性咳嗽や嗄声、咽頭違和感など上気道症状として現れることもあります。

傍食道型では急性の胸痛、吐き気、嘔吐、嚥下不能などが起こりうち、胃の絞扼・壊死・穿孔に至る危険があります。これらは救急対応を要するため、早期の外科的評価が推奨されます。

慢性出血による鉄欠乏性貧血の一因として、胃粘膜が裂孔部で反復的に擦れて生じるCameron病変(びらん・潰瘍)がみられることがあります。めまい、動悸、労作時息切れなどで初めて気づかれることもあります。

一方で、相当数は無症候で健診の上部内視鏡や造影検査で偶然見つかります。症状の有無とヘルニアの大きさは必ずしも比例せず、個別の評価と対応が必要です。

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診断

診断には上部内視鏡検査が広く用いられ、胃食道接合部の位置と食道裂孔との距離、食道炎やBarrett食道の有無、Cameron病変の確認に有用です。病理は必要に応じて生検します。

バリウム造影(上部消化管造影)は解剖学的な関係の把握に優れ、特に傍食道型や大きなヘルニアの評価に有益です。動的な透視で食事や体位変化に伴う胃の移動を観察できます。

食道内圧検査やpH(もしくはインピーダンス-pH)検査は、術前評価や逆流関連症状の客観化に役立ちます。機能的嚥下障害やアカラシアなどの除外にも寄与します。

胸痛や呼吸苦を訴える患者では、急性冠症候群や肺塞栓などの鑑別も重要です。症状や所見に応じて心電図、心筋逸脱酵素、胸部画像などを併用し包括的に判断します。

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発生機序・危険因子

発生の中心には、横隔膜脚と食道をつなぐphrenoesophageal membraneの脆弱化や弛緩があり、胃食道接合部の固定力が低下します。これにより腹腔内圧の変動に伴って胃の一部が裂孔を通って胸腔側へ移動しやすくなります。

腹圧上昇を来す状況(肥満、妊娠、慢性咳嗽、重い物を持ち上げる作業、慢性便秘・いきみなど)は、ヘルニアの発症・進展に関与します。生活・職業要因の評価と是正が重要です。

加齢に伴う結合組織の変性や筋力低下はリスク上昇と関連します。結合組織疾患(例:マルファン症候群、エーラス・ダンロス症候群)では支持組織の脆弱化から発症しやすいと考えられています。

喫煙は食道括約筋機能や食道粘膜防御に悪影響を与え、GERDの悪化を介して症状の増悪に関与します。体重増加や姿勢、食事パターンの影響も合わさり、個々のリスクプロファイルは多因子的です。

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治療と予後

無症候や軽症の場合は生活習慣の調整(減量、就寝前飲食の回避、ベッド頭側挙上、脂肪・アルコール・カフェインの制限、禁煙など)と酸分泌抑制薬(PPI、H2ブロッカー)で多くが管理可能です。

重度の逆流、薬剤抵抗性、合併症(出血、狭窄、Barrett食道)や傍食道型・巨大ヘルニアでは、腹腔鏡下の裂孔縫縮と胃底部固定術(ニッセンまたはトゥーペ法など)が検討されます。

術前には内圧検査やpH検査で機能評価を行い、術式選択と合併症リスク低減に役立てます。術後は再発予防のため体重管理や腹圧上昇の回避が推奨されます。

長期予後は概して良好ですが、再発は一定程度みられます。早期の異常(嚥下困難、強い腹痛、吐血・黒色便など)があれば速やかな再受診が必要です。

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