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食品に添加される塩

目次

定義と用途

食品に添加される塩は主として塩化ナトリウムで、風味付け、保存性の向上、発酵制御、食感の付与など多目的に用いられます。加工食品では味の均一化や微生物増殖抑制のために重要な役割を果たし、パン、乳製品、肉加工品、スナック、惣菜など幅広いカテゴリーで用いられています。

調理用の食卓塩に加え、加工現場では粒度や純度、湿潤性を調整した工業用塩、ヨウ素や微量ミネラルを付加した強化塩、ナトリウム量を減らすために塩化カリウム等を一部置換した塩代替製品などが使われます。これらは機能性や健康配慮のバランスを取るために選択されます。

日本では食品表示基準により「食塩相当量」の表示が義務づけられ、消費者がナトリウム摂取量を把握しやすくなっています。これは原材料由来の自然塩分も含め、添加された塩の寄与も全体として評価する考え方で、減塩の行動変容を後押しします。

世界保健機関(WHO)は成人の塩摂取を1日5g未満(ナトリウム換算2000mg未満)と推奨していますが、実際の平均摂取量は多くの国でこの基準を超えています。食品産業での段階的なレシピ改良と、家庭での調理・選択の工夫が並行して求められます。

参考文献

健康影響と生理メカニズム

塩の主要成分であるナトリウムの過剰摂取は血圧上昇と強く関連し、脳卒中、心不全、虚血性心疾患、腎障害などのリスクを高めます。短期的にはむくみや口渇、長期的には無症候のまま高血圧が進行することが多く、気づかないうちに臓器障害が蓄積します。

生理学的には、ナトリウム過多が細胞外液量を増やし心拍出量を一時的に押し上げ、腎でのナトリウム再吸収亢進、交感神経系やホルモン系の変化、血管内皮機能障害と硬化を引き起こします。これらが組み合わさり、血圧の恒常的な上昇に寄与します。

個人差として「塩感受性」があり、同じ塩負荷でも血圧の反応が大きい人と小さい人がいます。高齢、慢性腎臓病、糖尿病、メタボリックシンドローム、アフリカ系遺伝背景などは塩感受性を高める要因として知られています。

臨床ガイドラインは減塩を第一選択の生活習慣介入と位置づけ、必要に応じてカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなどの降圧薬を併用します。減塩は薬物療法の効果増強や必要量の低減にもつながるため、治療全体の基盤となります。

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遺伝・環境要因とその比率

血圧そのものの遺伝率はおおむね30〜50%と報告され、残りは食事を含む環境要因に起因します。塩感受性も家族集積性が示されますが、寄与度は人種や年齢、併存症で変動し、単一の数値での表現は困難です。

関連遺伝子としては、腎臓のナトリウム輸送に関わるENaC(SCNN1B/1G)、WNK1/WNK4、SLC12A3、NEDD4L、また血管反応性や体液調節に関わるレニン・アンジオテンシン系やADD1多型などが挙げられます。

環境要因では、加工食品中心の食事、外食の頻度、カリウムの不足、アルコール過多、肥満、身体活動不足、睡眠不足などが複合的に影響します。特に加工食品は「見えない塩」の主要供給源で、総摂取の大半を占める国もあります。

実臨床では、遺伝と環境が相互作用するため、個別のリスク評価と行動変容支援が重要です。家庭血圧の自己測定と食事記録、栄養士の助言、段階的なレシピ改良により、遺伝的素因を持つ人でもリスクを大きく下げられます。

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摂取状況と疫学(世界と日本)

世界の平均的な塩摂取量は1日約10g前後で、WHO推奨(5g未満)の約2倍に達します。多くの国で国民の大多数が基準を超えており、心血管疾患の主要な修正可能リスクとして各国で対策が進んでいます。

日本では国民健康・栄養調査により平均食塩摂取量が継続的にモニタリングされ、近年はおおむね1日約10g前後と報告されています。男性が女性より多く、高齢層ほど高い傾向が見られます。

地域や食品文化により摂取源は異なり、日本では漬物、麺類のつゆ、加工肉、パン・惣菜の調味などが主な寄与源です。減塩しょうゆや低ナトリウム製品の普及、外食チェーンの段階的低減が進みつつあります。

疫学研究は、塩摂取量の低減が血圧と心血管イベントの減少に結びつくことを示し、政策・企業・個人の多層的介入の重要性を裏づけています。

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予防・介入・政策

個人レベルでは、食品表示の食塩相当量を確認し、加工食品や外食の頻度を控え、だし・酸味・香辛料で薄味に慣らすこと、野菜や果物によりカリウムを十分にとることが効果的です。腎疾患などがある場合は医療者に相談が必要です。

家庭血圧の定期測定と、可能なら尿中ナトリウム(24時間尿が標準)で摂取量を客観視すると、行動変容が持続しやすくなります。会社や自治体の健診、特定保健指導の活用も推奨されます。

集団対策としては、食品企業のレシピ改良、学校・職域・病院給食での基準設定、メニューや店頭での栄養情報提供、価格政策や公共調達の基準化などが効果を上げます。塩代替(K塩等)は有望ですが高カリウム血症リスクに留意が必要です。

大規模試験では、塩化カリウムを一部置換した塩代替の使用が脳卒中や主要心血管イベント、全死亡を有意に減らすことが示されています。多様な現場での実装には、監視と安全管理、ラベル表示の整備が不可欠です。

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