食の好み(炭酸飲料)
目次
定義と概要
炭酸飲料の嗜好とは、二酸化炭素による発泡感・酸味・甘味・香り・温度などの複合的刺激に対する好みのことを指します。これは疾患ではなく、個人差の大きい正常な感覚・行動特性です。ただし高糖分・高カフェインの製品が多いため、健康との関連が議論されます。
嗜好は固定的ではなく、発達段階、経験、文化、可用性、社会的学習によって変化します。幼少期の味覚学習や家庭・学校・広告環境が将来の選好や摂取パターンを形成することが知られています。
炭酸の「刺激感」は味覚だけでなく三叉神経の化学受容も関与します。これにより爽快感や「ピリッとする」感覚が生じ、気泡の食感や温度(冷たさ)と相まって嗜好に影響を与えます。
疫学的には、炭酸飲料嗜好は甘味嗜好やカフェイン嗜好と共通の要因を部分的に共有します。遺伝要因と環境要因の相互作用(G×E)により、同じ遺伝背景でも環境が違えば嗜好は異なり得ます。
参考文献
- WHO guideline: Policies to protect children from the harmful impact of food marketing
- Mennella JA. Ontogeny of taste and flavor preferences
感覚生理(発生機序)
炭酸ガス(CO2)は口腔内で炭酸に変わり、酸味受容細胞(PKD2L1陽性)の中で膜結合型炭酸脱水酵素(CA4)がCO2をプロトン生成に変換し、酸感受性イオンチャネル(ASIC)を介して活動します。これが「炭酸の味」やピリピリ感の基盤です。
三叉神経系も関与し、TRPA1や酸刺激に反応する自由神経終末が刺激感・痛覚様感覚をもたらします。味覚(鼓索神経)と体性感覚(三叉神経)が統合され、独特の快刺激として知覚されます。
炭酸は溶液のpHや甘味の知覚にも影響します。一般に炭酸は甘味をやや弱め、香りの立ち方や冷感(温度)と相互作用して総合的なおいしさが決まります。
個人差は受容体発現や酵素活性の差、口腔環境(唾液、温度、痛覚過敏)、学習歴によって生じます。
参考文献
- Chandrashekar et al. The taste of carbonation. Science (2009)
- Sour taste physiology and PKD2L1 cells
遺伝的要因
双生児研究では、甘味嗜好・甘味飲料摂取には中程度の遺伝率(しばしば20〜50%程度)が示され、炭酸飲料嗜好もこの範囲に収まると報告されています。環境の影響も同程度またはそれ以上に大きいのが一般的です。
TAS1R2/TAS1R3(甘味受容体)遺伝子の多型は糖の甘味感受性と好みに影響し、甘味の強い炭酸飲料の選好に波及する可能性があります。
TAS2R38(苦味受容体)多型は苦味感受性(PTC/PROP)差と関連し、苦味に敏感な人は特定の苦味を伴う飲料(例:トニックウォーター、ダーク系コーラ風味)を避けやすいとされます。
CA4/CA6(炭酸脱水酵素)や酸感受性チャネル(ASIC)の機能差も炭酸感受性の個人差に関与し得ると考えられていますが、一般集団での効果サイズは大きくありません。
参考文献
- Keskitalo et al. Genetic and environmental contributions to food use and preferences
- Kim & Drayna. Genetics of human taste perception. Nat Rev Genet (2005)
環境的要因
可用性(家庭・学校・職場の自販機や在庫)、価格、マーケティング、ソーシャルノームが摂取と嗜好の形成に強い影響を及ぼします。子どもは広告への感受性が高く、長期の嗜好形成に影響します。
幼少期の曝露と学習が重要で、甘味や炭酸の頻回曝露は受容と好みを高めます。家庭内のモデリング(保護者の飲用習慣)も強力な規定因子です。
文化・地域差や政策(砂糖税、学校での販売制限)は市場全体の摂取量を左右し、個人の嗜好に二次的影響を与えます。
生理学的要因として、カフェインの強化効果、運動後の爽快感、温度嗜好、甘味への生得的嗜好が重なって選好が増強されます。
参考文献
- WHO: Reducing the impact of marketing of foods and non-alcoholic beverages to children
- Mennella JA. Flavor programming and early exposure
健康との関わりと介入
嗜好そのものは病気ではありませんが、高糖分の炭酸飲料の過剰摂取は肥満、2型糖尿病、歯のう蝕、非アルコール性脂肪肝のリスク上昇と関連します。したがって嗜好管理が健康増進の観点で重要です。
環境介入(可用性低減、価格政策、広告規制)、選択肢設計(小容量、無糖・微糖の提示)、栄養教育は摂取量を減らします。
個人レベルでは、段階的希釈、ゼロ/微糖への置換、冷水や炭酸水への切替、食後の摂取限定、家庭内の在庫管理が効果的です。
行動変容は報酬系と学習の再プログラムであり、数週間の一貫した実践で味覚順応と嗜好の変化が起こりやすくなります。
参考文献

