非閉塞性無精子症
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定義と概要
非閉塞性無精子症(NOA)は、精路の詰まりがないにもかかわらず、精巣での精子産生が不十分または停止しているために射出精液中に精子が検出されない状態を指します。男性不妊の重症型であり、原因検索と治療方針の決定には専門的評価が必要です。
一般男性の約1%が無精子症で、そのうち40%前後が閉塞性、60%前後が非閉塞性と報告されています。NOAは主に精巣の一次性機能不全に起因し、閉塞性と比べて自然妊娠の可能性が低く、補助生殖医療の利用が検討されます。
病理学的にはセルトリ細胞のみ症候群、成熟停止、低形成性の3パターンが代表的です。これらは同一精巣内でも領域により混在することがあり、診断と治療方針に影響します。
NOAは単一の疾患ではなく、遺伝学的異常、環境・後天的要因、内分泌異常などが重なった症候群的概念です。評価には問診、身体所見、精液検査、内分泌検査、画像検査、遺伝学的検査を体系的に組み合わせます。
参考文献
- EAU Guidelines on Sexual and Reproductive Health (Male infertility)
- AUA/ASRM Male Infertility Guideline
症状と見つかり方
NOA自体に特異的な自覚症状は乏しく、多くは妊活・不妊評価の精液検査で偶然に無精子症が見つかります。禁欲期間を守って少なくとも2回の検査で精子が認められないことを確認するのが原則です。
身体所見では小さい精巣や弾性低下、精巣上体の膨隆が乏しい所見などが参考になります。47,XXY(クラインフェルター症候群)では高身長、女性化乳房、体毛減少などが見られることがあります。
内分泌的には血清FSH高値、テストステロン低値~正常、インヒビンB低値が典型パターンです。ただし個人差が大きく、これらだけで精子採取可能性を断定することはできません。
既往歴の聴取は重要で、停留精巣、耳下腺炎(おたふく)精巣炎、精巣捻転、化学療法・放射線治療、外傷、アナボリックステロイドやテストステロン補充歴などはNOAの手掛かりになります。
参考文献
- WHO Laboratory Manual for the Examination and Processing of Human Semen, 6th ed.
- ASRM Committee Opinion: Evaluation of the Azoospermic Male
発生機序(病態)
NOAの本態は精巣レベルの造精機能不全です。生殖細胞の減少や欠如、減数分裂の障害、支持細胞や間質細胞の機能異常など、複数層での異常が組み合わさります。
病理像はセルトリ細胞のみ(生殖細胞の欠如)、成熟停止(特定段階での分化停止)、低形成(全体的な造精低下)に大別されます。遺伝子変異は減数分裂や染色体接合、DNA修復経路の異常に関与します。
視床下部—下垂体—精巣(HPT)軸の破綻も関与し得ますが、原発性精巣不全が中心です。抗酸化能の低下や精巣微小環境の炎症・線維化、血管障害なども造精に影響します。
同一個人内でも精巣組織のモザイク性があり、わずかな造精巣小葉に精子が残存することがあります。このため顕微鏡下精巣内精子回収術(micro-TESE)で限局的に精子が得られることがあります。
参考文献
- Nagirnaja et al. Monogenic causes of male infertility. Nat Rev Urol (2023)
- Schlegel PN. Testicular sperm extraction (TESE) and micro-TESE
原因:遺伝的要因
遺伝的要因はNOAの重要な一角で、全体の約20~30%に既知の遺伝学的異常が見つかると報告されています。代表的にはY染色体AZF領域のマイクロ欠失、性染色体異常、単一遺伝子変異があります。
Y染色体のAZFa/b/cのうち、AZFaやAZFb全域欠失では精子回収率が極めて低く、AZFc欠失では回収が可能なことが多いとされます。関連遺伝子にはDAZ、RBMY、USP9Yなどが含まれます。
性染色体異常では47,XXY(クラインフェルター症候群)がNOAの10~15%を占めます。単一遺伝子ではTEX11、NR5A1、DMRT1、SYCP3、M1AP、STAG3、FANCMなどが原因として確立しつつあります。
全エクソーム解析などの導入で、これまで原因不明だった症例の一部に病的変異が見いだされるようになりました。家族計画に関わる遺伝カウンセリングが推奨されます。
参考文献
- Krausz & Riera-Escamilla. Genetics of male infertility. Nat Rev Urol (2018)
- EAA/EMQN guidelines for Y-chromosome microdeletions
原因:環境・後天的要因
環境・後天的要因としては、停留精巣、耳下腺炎に伴う精巣炎、精巣捻転、外傷、精索静脈瘤、化学療法や骨盤放射線治療、重金属・農薬などの毒性曝露、喫煙・肥満・熱曝露などがあります。
化学療法(特にアルキル化剤)や放射線は造精機能へ強い毒性を持ち、長期の無精子症を引き起こし得ます。治療前の精子凍結保存は強く推奨されます。
テストステロン補充療法やアナボリックステロイドは内因性ゴナドトロピンを抑制し、精子産生を停止させます。中止で回復し得ますが、期間と年齢により不完全なことがあります。
これらの要因の寄与割合は集団や時代により異なりますが、後天的・環境的要因が関与する症例は全体の約20~30%とされ、なお40~50%は原因不明(特発性)に留まります。
参考文献
- EAU Guidelines on Male Infertility (risk factors, treatments)
- ASRM Committee Opinion: Risk factors and lifestyle and male fertility
診断と治療
診断は繰り返しの精液検査に続き、ホルモン(FSH/LH/テストステロン/プロラクチン/インヒビンB)、陰嚢エコー、遺伝学的検査(核型解析とY染色体マイクロ欠失)、必要に応じて精巣生検で行います。
治療は原因別です。性腺刺激ホルモン欠乏(続発性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症)ではhCG/FSHで多くが回復しますが、原発性NOAではホルモン療法の効果は限定的です。
妊娠を目指す場合、顕微鏡下精巣内精子回収術(micro-TESE)で得た精子を用いた顕微授精(ICSI)が標準です。回収率は背景により約30~60%で、AZFc欠失や低形成型で高い傾向があります。
併存する精索静脈瘤の修復、禁煙・減量などの生活改善、抗がん治療前の精子凍結、遺伝カウンセリングなどが包括的管理に含まれます。
参考文献

