非常に強い近視
目次
定義と臨床的意義
非常に強い近視は一般に球面等価−6.00ジオプトリー以下、または眼軸長26.5mm以上と定義されることが多く、屈折異常としての近視の中でも失明原因となり得る合併症リスクが高い群を指す。単なる見えにくさにとどまらず、網膜や脈絡膜、視神経の構造変化を伴う点が臨床上重要である。
強度近視の中でも、萎縮性変化や後部ぶどう腫、近視性脈絡膜新生血管などの変性所見を伴うものは病的近視と呼ばれ、視機能低下が不可逆的になりやすい。したがって早期からの進行抑制と、合併症のスクリーニングが重視される。
定義は研究やガイドラインにより若干異なるが、屈折度数基準と眼軸長基準はいずれもリスク層別化に有用である。眼軸長は光学的生体計測で非侵襲に測定でき、進行評価にも使えるため、臨床での導入が進む。
視機能への影響は矯正で改善できる屈折成分と、黄斑萎縮やCNVなど構造異常に由来する不可逆成分に分けて考える必要がある。後者は抗VEGF療法や低視力リハビリテーションなど、屈折矯正とは異なる介入が求められる。
参考文献
疫学と公衆衛生
世界的に近視は増加しており、2050年には人口の約半数が近視、約1割が強度近視になると推定される。東アジアの若年層では既に強度近視の割合が高く、教育水準や都市化と関連して急速な増加が報告されている。
日本でも学童の裸眼視力低下は年々増加しており、若年成人の強度近視割合の上昇が懸念される。高齢層では病的近視に伴う黄斑変性や網膜剥離が主要な視覚障害原因の一つであり、社会的負担は無視できない。
性差は地域差と年齢階層により変動するが、学齢期以降で軽微な女性優位が報告される研究もある。一方、環境曝露の違い(屋外活動時間や近業量)による影響が大きく、世代間で有病率勾配が顕著である。
公衆衛生的には、屋外活動時間の確保や学校・地域でのスクリーニング、進行抑制介入の普及が鍵となる。早期からの対策により、将来の病的近視と失明関連合併症の負担を軽減できる可能性が高い。
参考文献
病因・発生機序
強度近視の中心的機序は眼軸長の過剰な伸長であり、強膜リモデリングと後極部の幾何学的変化が屈折異常と組織脆弱性をもたらす。視覚入力に基づく網膜のデフォーカスシグナルが脈絡膜・強膜へ伝わる生体機械学的・生化学的経路が示唆されている。
近業による周辺網膜の相対的遠視性デフォーカス、屋外光曝露低下に伴うドーパミンシグナル低下などが、成長期の眼球における軸性伸長を促進すると考えられる。動物実験とヒト疫学の両面から支持されている。
遺伝的素因は環境感受性を規定し、コラーゲン代謝や細胞外基質、網膜神経伝達に関わる遺伝子群が同定されている。多因子性であり、一般集団では多数の共通バリアントの累積効果が主、家系性強度近視では稀少バリアントの寄与も無視できない。
成長期を過ぎた後も病的近視では後部ぶどう腫や脈絡膜菲薄化が進行し得る。これは単なる屈折の進行とは独立した変性過程であり、継続的な眼底監視と合併症対応が必要となる。
参考文献
- Morgan IG, Ohno-Matsui K, Saw S-M. Myopia. Lancet 2012
- International Myopia Institute (IMI) White Papers 2019
症状と合併症
遠方視力低下が主症状だが、強度近視では厚い矯正レンズやコンタクトが必要になり、裸眼での日常生活に支障をきたしやすい。強い度数差や周辺収差に起因する視覚的不快も生じ得る。
網膜剥離、格子状変性、後部硝子体剥離に伴う飛蚊症や光視症、近視性黄斑症(萎縮・裂孔・CNV)、緑内障や核白内障のリスク上昇など、視機能を脅かす合併症が累積的に増える。
近視性CNVは急激な視力低下と変視を来し得るが、抗VEGF療法により短期成績は改善している。一方で萎縮性黄斑は現在のところ可逆的治療が乏しく、進行予防とロービジョンケアが重要である。
症状が軽微でも定期的な眼底検査とOCTが推奨される。自覚症状(飛蚊症の急増、光が走る、カーテン状の視野欠損、変視)は緊急受診のサインとして周知が必要だ。
参考文献
- AAO: High Myopia and Pathologic Myopia
- Ohno-Matsui et al. Pathologic Myopia (Prog Retin Eye Res 2015)
診断・治療と進行抑制
診断には矯正視力、調節麻痺下屈折検査、眼軸長測定、眼底検査やOCTが用いられる。眼軸と屈折だけでなく、黄斑や視神経乳頭の構造評価が長期予後の把握に不可欠だ。
屈折矯正として眼鏡・コンタクト・フェイキックIOLや角膜屈折矯正手術があるが、角膜形状や角膜厚、度数の上限から適応には注意が必要。病的近視の構造変化は屈折矯正では解決しない。
学童期の進行抑制には低濃度アトロピン、オルソケラトロジー、多焦点ソフトコンタクト、DIMS眼鏡などの有効性が示されている。屋外活動の増加は発症予防に寄与するエビデンスが強い。
近視性CNVには抗VEGF、網膜裂孔にはレーザー光凝固、網膜剥離には硝子体手術など、合併症ごとに標準治療が確立している。低視力例には補助具やリハビリを含む包括的支援が重要である。
参考文献

