非リウマチ性大動脈弁疾患
目次
定義と概要
非リウマチ性大動脈弁疾患とは、リウマチ熱を原因としない大動脈弁の障害を総称したもので、代表は加齢性(変性・石灰化)大動脈弁狭窄症と二尖(先天性)大動脈弁関連疾患です。細菌性心内膜炎後の弁障害なども含まれますが、臨床的には加齢性石灰化による狭窄や閉鎖不全が大部分を占めます。
加齢性の大動脈弁病変は、動脈硬化と似た機序で弁尖に脂質沈着や微小石灰化が起こり、長年の炎症と骨形成様の反応で硬く厚くなるのが特徴です。初期の大動脈弁硬化(スクリローシス)から進行し、弁口面積が狭くなると狭窄症と定義されます。
二尖大動脈弁は出生時から弁尖が二枚の形態をとる先天的素因で、人口の約1〜2%にみられます。若年〜中年での弁の早期変性・石灰化や大動脈拡張を引き起こしやすく、非リウマチ性大動脈弁疾患の重要な背景です。
臨床的には、進行すると息切れ、胸痛、失神などの症状や心不全を来します。治療の中心は外科的置換術(SAVR)か経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)で、薬物のみで自然経過を変える確立した方法はありません。
参考文献
- 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease
- 2021 ESC/EACTS Guidelines for the management of valvular heart disease
原因と病態生理
加齢性石灰化大動脈弁狭窄は、脂質(特にリポタンパク(a))の弁への沈着、慢性炎症、そして骨芽細胞様分化を伴う異所性骨化という、動脈硬化と重なる生物学的過程で進行します。
機械的ストレスも重要です。高い収縮圧・乱流が弁尖に加わると微小損傷が生じ、修復過程で石灰化が促進されます。二尖弁では解剖学的に応力集中が起こりやすく、若年から進行しやすいことが知られています。
遺伝的素因としては、LPA遺伝子多型と高リポタンパク(a)血症が石灰化や狭窄の発症・進行と強く関連します。NOTCH1、GATA5、SMAD6などの弁形成関連遺伝子の変異は二尖弁や早発性弁石灰化に関与します。
高血圧、喫煙、糖代謝異常、慢性腎臓病、放射線治療歴などの環境因子も、炎症・石灰化・線維化を通じて病変進行に寄与します。血中LDLやLp(a)の高さはリスク増大と関連します。
参考文献
- Genetic Associations with Valvular Calcification and Aortic Stenosis (NEJM 2013)
- Helgadottir et al. A risk variant at 1p21.2 in PALMD affects calcific aortic valve disease (Nat Genet 2018)
症状と合併症
軽症では無症状のことが多い一方、中等度〜重症になると労作時の息切れ(呼吸困難)、胸の圧迫感や痛み(狭心症様)、立ちくらみや失神が典型的症状です。
心拍出量が低下すると倦怠感や運動耐容能の低下が目立ち、進行例では心不全による夜間呼吸困難や浮腫が出現します。大動脈弁閉鎖不全が主体のときは拍動性の増強、動悸、拡張期雑音がみられます。
合併症には心不全、致死性不整脈、突然死、脳梗塞や末梢塞栓(心房細動や弁の石灰化片由来)などがあります。二尖弁では上行大動脈拡張・解離リスクも上昇します。
無症状でも重症に至ると急速にイベントが増えるため、定期的な心エコーでの重症度評価と、症状や心機能の変化の早期把握が重要です。
参考文献
- Otto CM. Calcific Aortic Stenosis—Disease Beyond the Valve (NEJM 2002)
- 2021 ESC/EACTS Valvular Heart Disease Guidelines
診断の進め方
身体診察では、胸骨右縁第2肋間の収縮期駆出性雑音、遅れて触れる頸動脈拍動(遅小脈)などが所見となりますが、確定診断と重症度評価は心エコーが基本です。
経胸壁心エコーで弁口面積、最大・平均圧較差、流速、左室肥大や収縮能を総合評価します。低流量・低圧較差の形態ではドブタミン負荷やCT石灰化スコアが補助となります。
CTは弁石灰化の定量化や大動脈の評価に有用で、TAVRの計画にも不可欠です。MRIは大動脈径や心筋線維化の評価に用いられます。血液検査ではBNPなどが心不全の把握に役立ちます。
二尖弁や家族歴がある場合、第一度近親者へのスクリーニング心エコーが推奨されます。心雑音や症状がある人は早めの循環器受診が重要です。
参考文献
治療戦略
現在、病変進行を確実に抑える薬物療法は確立していません。スタチンやエゼチミブ、PCSK9阻害薬でも進行抑制効果は一貫して示されていません。症状やリスク因子の管理は重要ですが、根治は弁置換です。
重症で症状あり、または左室機能低下などがあれば大動脈弁置換術(外科的SAVRまたは経カテーテルTAVR)が適応です。年齢、合併症、解剖学に応じてハートチームで術式を選択します。
TAVRは高齢やハイリスク例で標準治療となり、中等度リスクでも適応が拡大しています。一方、若年例や二尖弁・大動脈拡張例ではSAVRが選ばれることがあります。
周術期・遠隔期の抗血栓療法や感染性心内膜炎予防、血圧・脂質管理、心臓リハビリテーションが総合予後の改善に寄与します。
参考文献
- Rossebø et al. Intensive lipid lowering with simvastatin and ezetimibe in aortic stenosis (SEAS, NEJM 2008)
- Chan et al. ASTRONOMER trial (Circulation 2010)
予防と生活管理
確立した一次予防法はありませんが、喫煙、中性脂肪・LDL管理、高血圧・糖尿病の治療、腎機能保護など、全身の動脈硬化リスク低減は弁病変の進行抑制に寄与する可能性があります。
リポタンパク(a)が高い人ではリスクが上がるため、将来的にLp(a)低下療法(例:アンチセンス薬)の臨床応用が期待されていますが、現時点では標準治療ではありません。
運動は症状や重症度に応じて安全域で行い、失神や胸痛がある場合は無理な負荷を避けます。歯科治療時の口腔衛生管理は感染性心内膜炎予防に重要です。
家族に二尖弁の人がいる場合は、第一度近親者の心エコー検査で早期発見を図ることが推奨されます。
参考文献
疫学と負担
非リウマチ性大動脈弁疾患は高齢化とともに増え、65歳以上での有病率は上昇し、75歳を超えると中等度〜重症狭窄は数%に達します。男性に多い一方、超高齢層では女性患者数も多くなります。
二尖大動脈弁は一般人口の約1〜2%で、男性に多く、若年からの弁病変進行や大動脈拡張が問題となります。
日本でも高齢化に伴い患者数は増加しており、TAVRの施行数は年々増えています。医療費・介護費の負担、生活の質への影響は大きく、早期診断と適切治療が重要です。
国・地域により危険因子の分布や医療アクセスが異なるため、患者負担やアウトカムにも差が生じます。疫学研究の更なる蓄積が求められます。
参考文献

