除脂肪体重
目次
除脂肪体重の基礎
除脂肪体重(LBM)は、体脂肪を除いた体の総重量で、主に骨格筋、臓器、水分、骨量などから構成されます。体脂肪率と並んで身体組成の二大指標であり、健康や体力、代謝機能の理解に不可欠です。肥満やサルコペニアの評価、トレーニング効果の判定など、多様な場面で用いられます。
LBMは体重と同一ではなく、同じ体重でもLBMが高い人は筋肉量が多く代謝が高い傾向があります。安静時代謝量の多くは除脂肪組織で生じるため、体重管理や慢性疾患予防においてLBMの維持は重要です。加齢や疾患によりLBMが低下すると、転倒・要介護リスクの上昇につながります。
LBMは「筋肉量」と同義ではありません。筋肉はLBMに含まれる主要成分ですが、体水分や臓器重量、骨ミネラルを含む点が異なります。研究や臨床では、骨格筋のみを見たい場合は四肢除脂肪量や筋断面積などの指標が併用されます。
身体組成を評価する際は、測定法の特性や誤差、比較条件(年齢、性別、民族、身体活動)を考慮する必要があります。単回測定より縦断的な追跡が望ましく、同一機器・同一条件での測定が推奨されます。
参考文献
測定方法と指標
臨床や研究で広く用いられるのが二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)で、全身および四肢の除脂肪量を推定できます。DXAは被ばくが少なく再現性に優れ、サルコペニア評価では四肢除脂肪量(ALM)や身長で補正した指標(ALMI)が使われます。
生体電気インピーダンス法(BIA)は手軽でコストが低く、フィットネス現場でも普及しています。ただし水分状態や食事の影響を受けやすく、機器や推定式により精度が異なるため、同一条件での継続測定に向きます。
CT/MRIは筋断面積や筋内脂肪化など、組織レベルの評価が可能です。費用やアクセスの制約がある一方で、筋質の変化を捉えられるため、研究や特定疾患の精密評価に用いられます。
身体組成の指標にはLBMのほか、脂肪量、体脂肪率、骨格筋量、ALM、ALMI、除脂肪量指数(FFMI)などがあります。目的に応じた指標選択と、カットオフの民族差・年齢差への配慮が重要です。
参考文献
遺伝と環境:寄与の比率と遺伝率
双生児研究では、除脂肪体重(あるいは四肢除脂肪量)の遺伝率は概ね50〜80%と報告され、残る20〜50%は環境要因(身体活動、栄養、睡眠、疾患など)が説明します。推定値は年齢、性別、測定法により変動します。
若年期は遺伝の寄与が高く、加齢とともに環境や疾患の影響が相対的に大きくなります。特に活動量低下、慢性炎症、ホルモン変化はLBM減少に寄与しやすく、縦断研究でも示唆されています。
遺伝率は集団内での相対指標であり、個人の運命を決めるものではありません。高い遺伝率があっても、トレーニングや栄養介入により有意な変化が得られる点は多数の介入研究で実証されています。
測定誤差やモデル仮定は遺伝率推定に影響します。DXAとBIAでの差、共通環境の取り扱い、サンプルの年齢構成などを吟味する必要があります。
参考文献
関連遺伝子の例
筋量の調節に関与する代表的遺伝子としてMSTN(ミオスタチン)が知られ、機能低下変異では筋肥大とLBM増加が生じます。ヒトでの稀な変異例や動物モデルで、筋成長の強力な負の制御因子であることが示されています。
ACTN3は速筋線維の構造タンパク質をコードし、R577X多型は筋力・パワー系表現型と関連します。一部研究でLBM指標との関連も報告され、運動適性や筋機能の個人差の一因と考えられます。
近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)では、四肢除脂肪量や筋量に関連する多数の座位が報告され、骨格筋の発生、カルシウムシグナリング、ホルモン経路など、多因子的制御が示唆されています。
こうした遺伝子の効果量は一般に小さく、日常的な運動や栄養管理の効果を凌駕するものではありません。遺伝情報の活用は、過度な決定論ではなく個別化の補助として位置づけます。
参考文献
環境要因と介入
レジスタンストレーニングはLBM増加の中心的介入で、週2〜3回、主要筋群を対象に中強度〜高強度で実施すると、若年から高齢者まで一貫して筋量の増加が示されています。
たんぱく質摂取はトレーニング効果を増強し、体重1kgあたり1.6g前後までの範囲でLBM増加が飽和するというメタ解析もあります。高齢者やエネルギー制限下では十分なたんぱく質とロイシンの確保が重要です。
睡眠不足、慢性ストレス、過度の持久的負荷、炎症性疾患、安静臥床はLBMを減少させます。回復の確保、疾患治療、段階的なトレーニング進行は予防に有効です。
高齢者ではビタミンDやたんぱく質補充、バランス・パワートレーニングの併用が転倒・機能低下の予防につながります。医療者と相談しながら個別化することが推奨されます。
参考文献

