間質性肺疾患
目次
概要
間質性肺疾患(Interstitial Lung Disease; ILD)は、肺のガス交換を担う末梢気道・肺胞・間質に炎症や線維化が起こり、肺が硬くなることで息切れや乾いた咳をきたす病気の総称です。原因がはっきりしたもの(粉じん吸入、薬剤、放射線、過敏性肺炎など)と、原因不明の特発性間質性肺炎(IIPs、代表が特発性肺線維症:IPF)に大別されます。
疾患群はさらに自己免疫疾患に伴うILD(膠原病関連ILD)や、職業・環境曝露に伴うもの、家族性にみられるものなど多彩です。診断は臨床所見、呼吸機能検査、高分解能CT(HRCT)、必要に応じた組織診を多職種(臨床医・放射線科・病理)で統合することが推奨されます。
臨床経過は可逆的な炎症優位型から、不可逆的な線維化優位型まで幅があります。とくにIPFは進行性で予後不良ですが、抗線維化薬の登場により肺機能低下速度の抑制が可能となりました。非IPFでも進行性線維化(PPF)を呈するサブセットがあり、新規治療選択肢が拡がっています。
治療目標は、原因回避、炎症・線維化の進行抑制、合併症予防(急性増悪、感染、肺高血圧など)、症状緩和と生活の質の維持です。禁煙、ワクチン、リハビリ、酸素療法、必要に応じ肺移植を含む包括的管理が重要です。
参考文献
症状・診断
代表症状は労作時息切れと持続する乾性咳嗽です。身体所見では吸気終末に聞こえるベルクロ様連続音(断続性捻髪音)、進行例ではばち指がみられます。症状は徐々に進行することが多い一方、過敏性肺炎などでは曝露に伴う増悪・改善を繰り返すことがあります。
診断では胸部HRCTが中心で、蜂巣肺や牽引性気管支拡張などの線維化所見、IPFを示唆するUIPパターンの有無を評価します。呼吸機能検査では拘束性換気障害(FVC低下)と拡散能(DLCO)低下が特徴的です。6分間歩行試験も重症度評価に有用です。
日本では血清バイオマーカーのKL-6やSP-Dが活動性の把握やフォローに広く使われています。自己免疫関連の評価として自己抗体測定や筋炎関連抗体、原因検索として職業・環境・飼鳥歴・薬剤歴の詳細聴取が不可欠です。
確定が難しい場合は多職種カンファレンス(MDD)での統合診断が推奨されます。侵襲的検査(外科的肺生検、経気管支凍結生検)は安全性と有用性を勘案して選択されます。急性増悪の除外や併存疾患(肺がん、肺高血圧症、GERD)評価も重要です。
参考文献
発生機序
多くの線維化優位ILD、特にIPFでは、反復する肺胞上皮の微小損傷に対する修復異常が中心と考えられています。TGF-βなどの線維化シグナルが亢進し、線維芽細胞・筋線維芽細胞が活性化してコラーゲン沈着が進み、肺構造が不可逆的に改変されます。
遺伝要因として粘液産生遺伝子MUC5Bプロモーター多型やテロメア維持関連遺伝子(TERT、TERC、RTEL1、PARN)変異が、上皮細胞のストレス耐性や粘液クリアランスに影響し、感受性を高めると考えられます。
免疫介在性ILD(過敏性肺炎、膠原病関連)では、吸入抗原や自己抗原に対する免疫応答が慢性的炎症を誘導し、二次的に線維化が進行します。胃食道逆流による微小誤嚥、ウイルス感染、加齢に伴う細胞老化も修復異常に関与しうる補助因子です。
近年は「進行性線維化表現型(PPF)」という概念が提唱され、原因を問わず一定期間で肺機能低下・症状悪化・画像進展を示す患者群に対して抗線維化治療の適応を検討する流れが一般化しています。
参考文献
- Nature Reviews Disease Primers: Idiopathic pulmonary fibrosis (2022)
- NEJM Review: Idiopathic Pulmonary Fibrosis
遺伝・環境要因
遺伝学的にはMUC5Bプロモーター多型(rs35705950)がIPF感受性と疾患進行に強く関連します。テロメア維持遺伝子(TERT、TERC、RTEL1、PARN)やサーファクタント関連(SFTPC、SFTPA2)変異は家族性間質性肺炎で報告され、罹患年齢や予後にも影響します。
家族性IPFは全体の約5〜20%とされますが、集団や定義により幅があります。遺伝率を単一の百分率で示す統一見解はなく、遺伝と環境の相互作用(gene–environment interaction)が大きいと考えられます。
環境要因では喫煙、金属・木材粉じん、シリカ、農業関連粉じん、カビ・鳥抗原(過敏性肺炎)、薬剤や放射線治療歴などが確からしいリスクです。胃食道逆流や感染の関与も示唆されています。
したがって「遺伝○%:環境○%」と単純化することはできず、個々の患者で曝露回避、家族歴の把握、必要時の遺伝カウンセリングを組み合わせたリスク低減が重要です。
参考文献
- NEJM: A Common MUC5B Promoter Polymorphism and Pulmonary Fibrosis
- Lancet Respir Med: Genetic determinants of IPF
- AnnalsATS: Environmental Exposures in IPF
疫学・治療
IPFの発症率は北米・欧州で概ね3〜9/10万人年、罹患率は10〜60/10万人と報告されます。日本の報告は地域差があるものの概ね同程度で、高齢男性に多く、発症年齢は60歳以降が中心です。
治療は原因回避と支持療法に加え、IPFやPPFに対して抗線維化薬ピルフェニドンとニンテダニブが肺機能低下速度を抑制します。膠原病関連や炎症優位型では免疫抑制薬が選択されることがあります。
進行例では在宅酸素療法、呼吸リハビリ、ワクチン(インフルエンザ、肺炎球菌)で感染予防と運動耐容能の維持を図ります。適応があれば肺移植を検討します。急性増悪対策や併存症管理も重要です。
日本では特発性間質性肺炎が指定難病に含まれ、医療費助成と高額療養費制度により自己負担が軽減されます。専門医による包括的管理と地域の支援制度の活用が推奨されます。
参考文献

