近視の指標(角膜から網膜までの長さ)
目次
定義と測定法
眼軸長は、角膜前面から網膜中心窩付近までの眼球の長さを指し、近視の重症度と強く相関する客観的指標です。通常、成人の平均は約23〜24 mmで、1 mmの延長で概ね−2.5〜−3.0ジオプターの近視化に相当すると報告されています。屈折度数は角膜屈折力や水晶体にも左右されますが、成長期の近視進行の大半は眼軸の伸長によって説明されます。
臨床では超音波Aモードや光学式生体計測(例えば光干渉干渉計を用いたIOLMasterやLenstarなど)で高精度に測定されます。光学式は非接触で再現性が高く、0.01 mm単位の追跡が可能で、近視進行管理の標準となりつつあります。学校健診などの裸眼視力はスクリーニングには有用ですが、眼軸長の測定は進行リスクの層別化により直接的です。
研究と臨床の両面で、眼軸長は治療介入の有効性評価の主要アウトカムとして用いられます。低濃度アトロピン、オルソケラトロジー、多焦点ソフトレンズ、周辺近視デフォーカス眼鏡などは、眼軸伸長を抑制するかで評価されます。屈折度数だけでは一時的な角膜形状変化の影響を受け得るため、眼軸長がより安定した生体指標です。
眼軸長の基準値や増加速度は年齢、人種、性別で異なります。特に東アジアの学齢期では伸長速度が速い傾向があり、早期からの定期測定が推奨されます。家族歴や近業負荷が高い児では、6か月〜1年ごとのフォローが有用とされます。
参考文献
- IMI – Defining and Classifying Myopia
- Association of Axial Length With Myopic Complications (Tideman 2017)
疫学と臨床的意義
世界的に近視は急増しており、2050年には世界人口の約半数が近視になるという予測があります。眼軸長の平均値も、それに伴い学齢期から若年成人にかけて長くなる集団傾向が報告されています。特に東アジアでは進学期に急速な眼軸伸長が見られます。
眼軸が長いほど、網脈絡膜の牽引や薄化が進み、網膜剥離、近視性黄斑変性、後部ぶどう腫などの合併症リスクが上がります。屈折値が同程度でも、眼軸が長い個体のほうが構造的リスクは高く、長期的な視機能に影響します。
日本でも学校保健統計で裸眼視力低下の児童生徒が増えており、背景には学齢期の眼軸伸長が関与します。視力検査のみでは見逃される進行例もあるため、眼科での精密検査やバイオメトリーが推奨されます。
臨床の意思決定では、絶対的な眼軸長だけでなく年齢に対する伸長速度(mm/年)を見ることが重要です。例えば0.2〜0.3 mm/年以上の伸びはハイリスクとされ、積極的な介入を検討します。
参考文献
遺伝・環境の寄与
双生児研究や家族研究から、眼軸長の遺伝率は概ね60〜80%と推定されます。これは形質の個体差のうち遺伝要因で説明できる割合を指し、近視の素因に強い遺伝的基盤があることを示します。
一方で、環境要因、とりわけ屋外活動時間と近業負荷は発症・進行に大きく影響します。屋外光に含まれる明るさやスペクトル、網膜ドーパミンの変化が強膜リモデリングを抑えると考えられています。
ゲノムワイド関連解析では、眼軸長や屈折異常に関与する多数の座位(例:PAX6、GJD2、RASGRF1、PRSS56など)が同定され、強膜外マトリックスや神経伝達、成長因子経路が示唆されています。
結論として、遺伝素因に高強度の近業や屋外不足が重なると、眼軸伸長が加速します。したがって、リスク層別化と環境介入の併用が理にかないます。
参考文献
- Myopia genetics and environment (Tedja 2019)
- Genome-wide meta-analyses of refractive error (Verhoeven 2013)
病態生理(発生機序)
近視の中核は眼球後極の過成長で、強膜のコラーゲン配列やプロテオグリカン代謝が変化し、組織が薄く伸展しやすくなります。刺激は網膜像のデフォーカス(遠視性ぼけ)で、局所性の視覚信号が脈絡膜・強膜に伝達されます。
動物モデルでは、遠視性デフォーカスが眼軸伸長を誘導し、近視性デフォーカスが抑制することが示され、網膜ドーパミン、レチノイドシグナル、成長因子(TGF-βなど)が介在すると考えられています。
人では、早期の持続的近業と屋外光の不足により、眼軸伸長のセットポイントが変化する可能性が示唆されています。脈絡膜の一過性肥厚・菲薄化が短期的な焦点誤差の補償に関与し、長期には強膜リモデリングへと波及します。
高近視では後部ぶどう腫形成、黄斑部の脆弱性、視神経乳頭周囲の牽引など、構造変化が顕著になり、視機能低下の主因となります。これらは単なる屈折異常ではなく、眼球疾患としての側面です。
参考文献
介入と管理
低濃度アトロピン(0.01〜0.05%)は、小児の眼軸伸長と近視進行を有意に抑制します。LAMP試験では0.05%が最も効果的で、リバウンドも相対的に小さいことが示されました。副作用は散瞳・近見困難などですが、低濃度で軽微です。
オルソケラトロジーは夜間装用で角膜形状を変え、周辺網膜に近視性デフォーカスを与えることで眼軸伸長を抑えます。適合・衛生管理が重要で、角膜感染のリスク対策が必須です。
多焦点ソフトレンズや周辺デフォーカス眼鏡(例:DIMS)も眼軸伸長抑制効果が確認されています。選択は年齢、ライフスタイル、リスク、許容できる副作用に応じて個別化します。
介入の評価には、6〜12か月ごとの眼軸長測定が推奨されます。屋外活動の推奨(1日2時間以上)と近業の休憩ルール(20-20-20)を併用すると相乗効果が見込めます。
参考文献

