赤血球数
目次
- 赤血球数の概要
- 赤血球数の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
- 赤血球数を調べる意味
- 赤血球数の数値の解釈
- 赤血球数の正常値の範囲
- 赤血球数が異常値の場合の対処
- 赤血球数を定量する方法とその理論
- 赤血球数のヒトにおける生物学的な役割
- 赤血球数に関するその他の知識
赤血球数の概要
赤血球数(RBC数)は、1マイクロリットル(μL)の血液中に含まれる赤血球の個数を示す検査値で、一般的な採血の「血算(CBC)」に含まれます。単位は×10^6/μL(百万/μL)で表され、貧血や多血症のスクリーニング、経過観察に広く用いられています。
赤血球は骨髄で産生され、寿命はおよそ120日です。腎臓から分泌されるエリスロポエチン(EPO)や、鉄・ビタミンB12・葉酸などの栄養素が産生に必須で、不足すると赤血球数は低下します。慢性炎症や腎機能低下なども赤血球産生を抑制し得ます。
同じ酸素運搬能を表す指標でも、赤血球数は血色素量(ヘモグロビン:Hb)やヘマトクリット(Hct)と完全には一致しません。体内の水分量(血漿量)の変動に影響され、脱水では見かけ上高く、過水分では低く出ることがあります。
そのため、赤血球数は単独ではなく、Hb・Hct・平均赤血球容積(MCV)・平均赤血球血色素量(MCH)などの赤血球指数と組み合わせて解釈します。基礎疾患、症状、服薬歴、喫煙や高地生活の有無など背景情報も重要です。
参考文献
- MedlinePlus: Red blood cell (RBC) count
- MSDマニュアル家庭版: 全血球算定(CBC)
- NCBI Bookshelf: Clinical Methods – Red Blood Cell Indices
赤血球数の遺伝的要因と環境的要因の比率(%)
赤血球数の個人差には遺伝と環境の双方が関与します。双生児・家系研究では、赤血球関連形質の遺伝率は概ね40~60%と報告されることが多く、一定の遺伝的素因が関与しますが、環境要因の影響も同程度に大きいと考えられています。
大規模ゲノム研究(GWAS)では、赤血球数や関連指標に多数の遺伝子座が関与する多因子性が示されています。SNPに基づく遺伝率(狭義遺伝率)は20~30%程度と見積もられる報告もあり、遺伝の影響がある一方で、説明しきれない分は環境や稀少変異に担われます。
環境要因には、鉄・B12・葉酸などの栄養状態、慢性炎症や腎疾患に伴うEPO低下、喫煙、睡眠時無呼吸、心肺疾患、高地滞在や居住、脱水・輸液などが含まれます。これらは赤血球産生や血漿量を通じて赤血球数を増減させます。
総合すると、集団や測定法により幅はありますが、実務上は「遺伝30~60%、環境40~70%」程度が目安です。同一人物でも加齢、疾病、生活習慣の変化で数値は動くため、時系列での把握が重要です。
参考文献
- Astle et al. The Allelic Landscape of Human Blood Cell Trait Variation (Nat Genet, 2016)
- Vuckovic et al. The Polygenic and Monogenic Basis of Blood Traits and Diseases (Cell, 2020)
- MSDマニュアル専門版: 赤血球増加症(多血症)の概説
赤血球数を調べる意味
赤血球数は、貧血(赤血球数低下)や赤血球増加症(高値)のスクリーニングに役立ちます。疲労感、息切れ、動悸、頭痛、めまい、顔面紅潮、手足の冷えなど非特異的な症状の背景に、赤血球異常が潜んでいないかを確認する拠り所になります。
健診や術前検査、妊娠中の検査、慢性疾患(腎疾患、心肺疾患、炎症性疾患など)の評価でも赤血球数は基本項目です。治療の安全性確保やリスク層別化、疾患の早期発見のためにも定期的な測定が行われます。
治療のモニタリングとしても重要です。鉄欠乏に対する補充療法、ビタミンB12・葉酸の補充、エリスロポエチン製剤の投与、原因疾患の治療(出血源の対処、炎症の制御など)により、赤血球数や関連指標がどのように応答するかを追います。
ただし、赤血球数は脱水・輸液、急性疾患、採血条件で短期的に変動するため、単回の数値で結論せず、症状や他の血算項目も併せて総合判断するのが基本です。異常が持続する場合は医療機関で精査が必要です。
参考文献
- Mayo Clinic: Complete blood count (CBC)
- MedlinePlus: Red blood cell (RBC) count
- MSDマニュアル家庭版: 全血球算定(CBC)
赤血球数の数値の解釈
赤血球数が低い場合、多くは何らかの貧血の存在を示唆します。ただし、貧血の定義はヘモグロビン濃度によるため、軽度の低下や正常下限でもHbが保たれていれば「貧血」とは限りません。MCV、MCH、RDWなど赤血球指数の併読が不可欠です。
赤血球数が高い場合は、真の赤血球量増加(絶対的増加)と、脱水などで血漿量が減って見かけ上高くなる相対的増加の区別が重要です。ヘマトクリットや臨床状況(脱水、高地、喫煙、低酸素血症)を確認し、必要に応じて再検や追加検査を行います。
MCVが低く赤血球数が比較的保たれる、または高めの場合は、鉄欠乏性貧血よりもサラセミア保因者などの可能性が考えられます。逆にMCV高値ではB12・葉酸欠乏や骨髄疾患、アルコール多飲、薬剤影響などが鑑別に挙がります。
時間的推移や他の血液像(白血球・血小板)、網赤血球、溶血所見、炎症反応、腎機能、EPO値なども総合的に評価します。採血姿勢や駆血帯の使用時間といった前処理要因も、わずかですが解釈に影響します。
参考文献
- NCBI Bookshelf: Clinical Methods – Red Blood Cell Indices
- ARUP Consult: Thalassemias
- MSDマニュアル専門版: 赤血球増加症(多血症)の概説
赤血球数の正常値の範囲
基準範囲は検査法や施設、地域、標高によって異なりますが、成人の目安は男性でおよそ4.5~5.9×10^6/μL、女性で4.1~5.1×10^6/μLとされます。必ず自分の検査報告書に記載の基準範囲で解釈してください。
小児は成長段階で大きく変動します。新生児期は高めで、生後数か月で一時的に低下し、その後徐々に成人値へ近づきます。施設によって年齢別の範囲が提示されているので、それに従って評価します。
妊娠中は血漿量の増加(希釈効果)により、赤血球数やHbが相対的に低めに出ることが一般的です。また高地居住者では慢性的な低酸素刺激により基準範囲自体が高めに設定されることがあります。
同じ人でも日内・日差変動があります。体調や水分状態、採血条件の違いも影響するため、継時的に見る際はできるだけ同じ条件での採血が望まれます。急な変化や持続的な逸脱があれば医師に相談しましょう。
参考文献
- MedlinePlus: Red blood cell (RBC) count – Normal Results
- UCSF Health: Red blood cell count
- MSDマニュアル家庭版: 妊娠中の貧血
赤血球数が異常値の場合の対処
まずは結果の再確認が大切です。体調不良時や脱水、採血の前後での水分摂取・点滴、長時間の駆血などは数値に影響し得ます。異常が軽度・一過性であれば、数週間後の再検で自然に是正することもあります。
低値が持続する場合は、鉄、ビタミンB12、葉酸の不足や慢性出血(消化管、月経過多など)、腎機能低下、慢性炎症や甲状腺機能低下症などを評価します。必要に応じて消化管内視鏡や溶血評価、栄養評価、薬剤見直しを行います。
高値が持続する場合は、脱水の除外に加え、低酸素血症(心肺疾患、睡眠時無呼吸、高地)、喫煙、一酸化炭素暴露、腎性EPO過剰、骨髄性腫瘍(真性多血症など)を鑑別します。ヘマトクリット、EPO値、JAK2変異検査などが検討されます。
自己判断での鉄剤内服や無診断での瀉血は避け、医療機関で原因に応じた治療方針を立てましょう。めまい、息切れ悪化、胸痛、神経症状、血栓症状などの警戒症状がある場合は早急に受診してください。
参考文献
赤血球数を定量する方法とその理論
現代の多くの検査室では、自動血球計数装置が赤血球数を測定します。代表的な原理は電気抵抗法(Coulter原理)で、微小孔を通過する細胞が電気抵抗のパルスを生じ、その数と大きさから細胞数と体積を算出します。
光学的方法では、フローサイトメトリー様の流路でレーザー光散乱や吸光を検出し、赤血球を計数・分類します。装置は同時にヘモグロビン、MCV、MCH、MCHC、RDWなど多くの指標を算出し、異常フラグを提示します。
手作業の血球計算盤(ヘモサイトメーター)による計数は教育・研究用途などで用いられますが、精度・再現性で自動分析に劣るため、日常検査では主流ではありません。標準化団体の推奨に沿ったキャリブレーションと品質管理が重要です。
前処理要因として、EDTA採血の混和不足や凝集、保存時間超過、極端な温度、溶血、血小板の巨大化などが測定値に影響します。また、採血時の体位や駆血帯時間も血算値にわずかながら影響し得ます。
参考文献
- Coulter counter – Wikipedia
- Hematology analyzer – Wikipedia
- WHO: Drawing blood – Best practices in phlebotomy
赤血球数のヒトにおける生物学的な役割
赤血球の主な役割は、ヘモグロビンに酸素を結合させて全身の組織に運搬することです。肺で取り込んだ酸素を末梢へ届け、組織で放出する過程により、生命活動の根幹であるエネルギー代謝が支えられます。
赤血球は二酸化炭素の運搬や酸塩基平衡の維持にも関与します。ヘモグロビンは緩衝能を持ち、血中pHの恒常性に寄与します。また、一酸化窒素(NO)との相互作用を通じ、血管調節や微小循環にも影響を及ぼします。
赤血球数が少なすぎると酸素運搬能が不足し、倦怠感や息切れ、臓器障害のリスクが高まります。多すぎると血液粘稠度が上昇し、頭痛、めまい、視覚異常、血栓症などの合併症が増え得ます。適正範囲の維持が重要です。
産生は腎臓のEPOと低酸素誘導因子(HIF)経路により調節されます。低酸素状態ではHIFが活性化し、EPO分泌が増加して骨髄での赤血球産生が促進されます。赤血球の寿命は約120日で、脾臓などで除去されます。
参考文献
- StatPearls (NCBI Bookshelf): Physiology, Hemoglobin
- MSDマニュアル専門版: 赤血球増加症(粘稠度と合併症)
- Semenza GL. Hypoxia-inducible factors in physiology and medicine (Cell, 2012)
赤血球数に関するその他の知識
新生児は生理的に赤血球数が高めで、その後一過性に低下します。妊娠では希釈により低めに出やすく、高地や喫煙は赤血球数を押し上げます。人種・民族や遺伝的背景でも基準値や分布が異なることがあります。
持久系のトレーニングでは血漿量が増えて相対的にヘモグロビンやヘマトクリットが低めに出る「スポーツ貧血」様の所見がみられることがあります。一方、高地合宿は低酸素刺激により赤血球産生を高める目的で用いられます。
サラセミア保因者ではMCVが低いにもかかわらず赤血球数が相対的に高めに保たれるパターンが知られます。数値の組み合わせから、鉄欠乏性貧血との鑑別の糸口が得られることがあります。
検査を受ける際は、前日からの過度な脱水や過度の飲酒を避け、可能なら同じ条件(時間帯、体位)で採血すると、比較が容易になります。結果は自己解釈に偏らず、医療者と共有して判断しましょう。
参考文献

