角膜曲率
目次
- 用語の定義と屈折との関係
- 測定法(ケラトメトリー・トポグラフィ・トモグラフィ)
- 生理的変動と加齢・発達
- 遺伝・環境の影響とエビデンス
- 疾患との関連(円錐角膜・術後不正乱視など)と臨床的意義
- 介入・予防・スクリーニング
用語の定義と屈折との関係
角膜曲率は、角膜前面の丸み(曲がり具合)を示す物理量で、主にディオプター(D)で表されます。角膜は眼の全屈折力の約2/3を担うため、その曲率は網膜上でのピントの合い方に直結します。曲率が大きくなる(急峻になる)と屈折力は増し、逆に平坦になると屈折力は減少します。
角膜曲率は一様ではなく、中央部と周辺部でわずかに異なる非球面性を持ちます。また水平・垂直方向で曲率が異なる「トリシティ(乱視成分)」を有することが一般的で、これが角膜乱視の主因となります。測定値は通常、主経線の平均(Kmean)や最急・最平坦経線(K1、K2)で表記されます。
臨床では、角膜曲率は角膜形状そのものの評価だけでなく、角膜内皮機能や角膜厚、涙液状態など他因子の間接的指標としても参照されます。例えば涙液破壊による反射の乱れは簡易的ケラトメトリーの再現性を下げ、実測曲率に影響しうるため前処置が重要です。
角膜曲率は屈折異常の理解に不可欠ですが、曲率自体は疾患名ではありません。いわゆる「異常な角膜曲率」は、円錐角膜のような疾患で病的に急峻化する場合や、手術後に不正乱視が生じる場合に問題となります。この区別が臨床判断上の第一歩です。
参考文献
測定法(ケラトメトリー・トポグラフィ・トモグラフィ)
ケラトメトリーは角膜前面中央3mm前後の反射像から曲率半径を推定する古典的測定法です。簡便で再現性が高い一方、測定範囲が狭く、周辺部や不正乱視の把握には限界があります。角膜屈折の推定には慣用的屈折率(例
.3375)が用いられます。角膜トポグラフィは角膜表面全体の等屈折力マップを提供し、乱視パターンや局所的な急峻化を可視化します。プラチド円盤反射型が代表で、円錐角膜の早期検出やコンタクトレンズフィッティングに不可欠です。
トモグラフィ(シェイムフルーグ撮影やOCTベース)は、前面だけでなく角膜後面や角膜厚分布も三次元的に再構成します。これにより後面隆起や角膜前後面の非対称性を捉え、前臨床段階の円錐角膜(サブクリニカルKC)の評価が可能となります。
いずれの方法も測定前の涙液安定化、眼瞼縁炎の管理、ソフトレンズ休止期間の遵守など前提条件が結果に大きく影響します。装置間の系統差もあるため、経過観察は同一装置・同一プロトコルで行うことが推奨されます。
参考文献
生理的変動と加齢・発達
角膜曲率は出生直後は急峻で、乳幼児期にかけて緩徐に平坦化し、その後は比較的安定します。思春期以降は角膜曲率よりも眼軸長の変化が屈折状態に与える影響が大きくなりますが、角膜乱視は加齢とともに軸の回転(with-the-ruleからagainst-the-ruleへ)を示す傾向が報告されています。
加齢に伴う角膜生体力学(コラーゲン架橋密度)や上皮厚分布の変化は、曲率分布の微小な変動として現れ得ます。白内障術前のIOLパワー計算では、角膜前後面の寄与を含む実測値の採用が屈折誤差低減に有利とされます。
人種・性差による平均角膜曲率の差は小さいものの存在し、民族集団間研究では数十分の一〜数分の一ディオプターの差が報告されています。ただし個体差が大きいため、臨床判断は個別測定に基づくべきです。
涙液や眼表面の状態は日内変動を生みます。ドライアイやアレルギー性結膜炎では角膜上皮の微細不整により測定再現性が下がるため、炎症コントロール後の再測定が望まれます。装置校正や測定者の熟練も再現性に影響します。
参考文献
- AAO Clinical Statement: Corneal Astigmatism and Aging (overview articles)
- Review: Update on Keratoconus and Corneal Biomechanics (Eye)
遺伝・環境の影響とエビデンス
角膜曲率は連続的な形質で、双生児研究や家系研究から中等度以上の遺伝率が示されています。屈折異常全体の遺伝率と同様に、角膜曲率も遺伝と環境の相互作用の産物で、個人差は多因子により形成されます。
ゲノムワイド関連解析(GWAS)は、眼の発生や細胞外マトリックスに関わる遺伝子座が角膜曲率と関連することを示しています。PAX6など眼発生関連遺伝子やコラーゲン代謝経路のバリアントが報告され、角膜形状の基盤に分子生物学的裏付けが与えられています。
環境要因としては、慢性的な眼こすり、アトピー性疾患、コンタクトレンズ装用、外傷・手術などが角膜曲率の病的変化(不正乱視や円錐角膜)に寄与し得ます。一方、日常的な近業や屋外活動は主に眼軸長に関与し、角膜曲率への直接影響は限定的と考えられています。
遺伝率は研究により幅があり、集団や年齢、測定法に依存します。概ね40〜80%程度の遺伝寄与が示される報告が多い一方、可塑性のある環境因子が臨床上の変化を引き起こすことも珍しくありません。
参考文献
- Prog Retin Eye Res: The Genetics of Refractive Error and Myopia (Tedja et al., 2019)
- Eye (Nature): Genetics and pathogenesis of keratoconus
疾患との関連(円錐角膜・術後不正乱視など)と臨床的意義
円錐角膜では角膜の局所的な菲薄化と急峻化が進み、角膜曲率マップに特有のパターン(下方の急峻化、後面隆起など)が現れます。これにより矯正困難な不正乱視と視機能低下が生じます。早期発見にはトポグラフィ・トモグラフィの併用が有用です。
角膜屈折矯正手術(LASIK/PRK)や白内障手術後の切開位置・癒痕も角膜曲率に影響し、術後乱視の原因となり得ます。術前計画では角膜前後面の測定と乱視のベクトル解析が重要です。
治療は病態に応じて選択されます。円錐角膜では、角膜クロスリンキング(CXL)により進行抑制が可能で、ハードコンタクトレンズや角膜内リング、移植術などで視機能の改善を図ります。不正乱視ではトーリックIOLや切開矯正の併用を検討します。
臨床的には、角膜曲率の縦断的変化が病勢評価や治療適応の判断材料となります。測定の標準化と装置間差の理解、再現性の確保は、見逃しを避けるうえで不可欠です。
参考文献
- EyeWiki: Keratoconus
- AAO: What Is Keratoconus?
- Eye (Nature): Update on Keratoconus (Ting et al., 2021)
介入・予防・スクリーニング
角膜曲率そのものは疾患ではないため「治療」の対象ではありませんが、病的な曲率変化のリスク低減は可能です。アレルギーの適切な治療と慢性的な眼こすりの回避は、円錐角膜の進行リスクを下げる行動として支持されています。
スクリーニングとして、屈折の急な変動や視力矯正の効きにくさが出た場合には、角膜トポグラフィやトモグラフィを早期に行うことが推奨されます。特に家族歴がある場合やアトピー体質、ダウン症などの背景があれば注意が必要です。
手術計画時には、角膜後面を含む三次元評価を行い、危険な形状(サブクリニカルKC)を除外することが安全性向上につながります。また、コンタクトレンズ装用者では十分な休止期間をおき、測定値の安定化を図ります。
生活面では、目をこする癖の回避、紫外線からの眼表面保護、ドライアイ対策が推奨されます。これらは測定の再現性改善にも寄与し、経過観察における小さな変化の検出を助けます。
参考文献

