親知らず
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親知らず(第三大臼歯)の概要
親知らずは多くの場合、10代後半から20代前半に最後に萌出する第三大臼歯を指します。上下左右で最大4本ありますが、もともと欠如して生えない人も珍しくありません。顎の成長や歯列のスペースとの関係で、正常に生える人もいれば、半分だけ露出したり骨の中に埋まったまま(埋伏)になる人もいます。
埋伏や半萌出の親知らずは、歯ぐきの局所炎症(智歯周囲炎)、隣接する第二大臼歯の虫歯や歯周病、嚢胞形成などの病変リスクが上がることがあります。一方で、全く症状を出さず一生経過する例もあります。したがって、個々のリスク評価と経過観察の方針が重要です。
親知らずの治療方針は、症状の有無、感染の反復、歯列や咬合への影響、全身状態、下顎管や上顎洞など重要構造との位置関係などを総合して決定されます。単純抜歯で済むこともあれば、粘骨膜の剥離や歯の分割を伴う外科的抜歯が必要なこともあります。
国や学会のガイドラインでは、無症状・病変なしの親知らずを一律に予防的に抜くことは推奨していません。将来のリスクが高いと判断される場合や病変が存在する場合に限って、利益と不利益を比較して介入が検討されます。
参考文献
- AAOMS(米国口腔顎顔面外科学会) Wisdom Teeth(患者向け)
- NICE Technology Appraisal 1: Guidance on the extraction of wisdom teeth
症状と合併症
典型的な症状は、奥歯の後方の痛み、腫れ、開口障害、噛むときの違和感、口臭などです。半萌出で歯ぐきのフード状粘膜の下に食片や細菌がたまりやすく、急性の智歯周囲炎を起こすと強い痛みや発熱を伴うことがあります。
長期的には、親知らずの手前の第二大臼歯が虫歯になったり、歯根面にう蝕や歯周病が生じて失われるリスクが上がります。まれに濾胞性嚢胞や角化歯原性嚢胞などの嚢胞性病変が関連し、X線で偶然見つかることもあります。
下顎の親知らずでは、下顎管内の下歯槽神経との近接が抜歯時の神経障害リスクと関係します。術前のパノラマX線や必要に応じたCBCTで距離や位置関係を評価し、術式や説明に反映します。
急性炎症が強い場合は、まず洗浄や消炎、痛みのコントロールを行い、感染が落ち着いてから抜歯を計画することがあります。抗菌薬は全身症状や拡がる感染がある場合に限って適切に使用します。
参考文献
発生と原因(遺伝・環境要因)
親知らずの萌出や欠如、埋伏には遺伝的要因と環境的要因がともに関与します。歯の数や形、形成・萌出を制御する遺伝子(PAX9、MSX1、AXIN2など)の変異は、第三大臼歯の先天欠如(第三大臼歯欠如)と関連が報告されています。
一方、現代的で軟らかい食事、咀嚼負荷の低下、幼少期の顎顔面成長の変化は、歯列弓の長さ不足や萌出スペースの不足を通じて埋伏を助長しうると示唆されています。人類学的研究では、狩猟採集民や硬い食事をとる集団で歯列不正や埋伏の頻度が低い傾向が報告されています。
双生児研究では、第三大臼歯の欠如(生えないこと)に対する遺伝率が高いという報告があり、個体差のかなりの部分が遺伝で説明できる可能性があります。ただし、正確に何割が遺伝・環境かは研究により幅があります。
結論として、親知らずの有無や生え方は「遺伝的素因×環境(顎の成長、食習慣、口腔衛生など)」の相互作用で決まると理解され、個別の評価が不可欠です。
参考文献
- Review: Genetic basis of tooth agenesis (Nieminen)
- Human diet, masticatory function, and occlusal variation(人類学的総説の一例)
診断と検査
診断は問診・視診に加え、パノラマX線写真で歯の位置、傾斜、周囲骨や隣接歯との関係を把握します。上顎では上顎洞との関係、下顎では下顎管との関係が特に重要です。
神経や洞との近接が疑われる場合、低被ばくで三次元的に評価できる歯科用CBCTの適応を検討します。CBCTは術式計画や合併症回避に有用ですが、必要性を吟味して撮影します。
無症状であっても、歯ぐきの清掃状態、ポケットやう蝕、隣接第二大臼歯の状態を定期的にモニターすることで、早期に病変を発見できます。痛みや腫れを繰り返す、清掃困難が続く場合は介入の時期を見直します。
X線撮影の頻度は年齢やリスクに応じて個別化されます。むやみに頻回撮影せず、エビデンスに基づく選択基準に従って適切なタイミングで行います。
参考文献
治療・経過観察と予後
治療は大きく待機的経過観察と抜歯に分かれます。無症状で病変がなく、清掃が保てている場合は定期的な観察が選択されます。将来的なリスクが高いと判断されるときや、病変が存在する場合は抜歯が検討されます。
抜歯は局所麻酔下で行われ、難易度に応じて切開・骨削除・分割抜歯が必要になります。術後はガーゼ圧迫、安静、冷却、口腔清掃の指導が行われ、疼痛管理にはアセトアミノフェンやNSAIDsが用いられます。
感染の拡大や免疫低下がある場合のみ抗菌薬を併用し、予防的な漫然投与は控えます。クロルヘキシジン含嗽は術後の感染やドライソケット予防に一定の効果が報告されています。
予後は概して良好ですが、稀に神経障害、上顎洞穿孔、ドライソケット、出血などの合併症がみられます。経験のある口腔外科医のもとで、術前評価とインフォームドコンセントを丁寧に行うことが重要です。
参考文献

