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血管性認知症

目次

定義と特徴

血管性認知症は、脳の血管が障害されることで起きる認知機能低下の総称で、脳梗塞や脳出血、微小梗塞、小血管病変、びまん性の白質病変などが背景にあります。アルツハイマー病に次いで頻度が高いタイプの認知症とされ、しばしば両者が混在(混合型)します。循環器・代謝疾患の管理と深く関連する点が大きな特徴です。

臨床的には、記憶障害だけでなく、注意・処理速度・遂行機能(段取りや切替)・視空間認知の障害が目立ちやすく、歩行障害や情動の変化、排尿症状などの神経学的所見を伴うことがあります。経過は「階段状の悪化」や脳血管イベントと連動する変動がみられることがあります。

病態の枠組みとしては、多発梗塞型、戦略的領域梗塞型、皮質下虚血性血管性認知症(Binswanger病を含む)、脳アミロイドアンギオパチー関連、出血性病変優位などに大別され、画像や病歴から総合的に診断します。

診断名としてはDSM-5の「大(軽度)神経認知障害(血管性)」やNINDS-AIREN基準などが用いられ、臨床症状に加えてMRIを中心とした画像所見、血管危険因子、既往の脳卒中歴などを組み合わせて判断されます。

参考文献

症状と経過

症状は障害部位と負荷量により多彩で、認知領域では注意・遂行機能低下、情報処理速度の低下、記憶の想起困難、言語や視空間の障害がみられます。歩行が小刻みになる、転びやすい、構音障害、嚥下障害、手先の不器用さなどの徴候も手がかりになります。

感情の抑制困難やアパシー(意欲低下)、うつ状態、感情失禁などの行動・心理症状(BPSD)が出やすいことも知られています。脳血管イベント後に急速な悪化がみられ、その後しばらく安定し、次のイベントで再び悪化する「段階的悪化」をとることがあります。

皮質下小血管病が主体の場合、MRIで白質高信号やラクナ梗塞、微小出血が蓄積し、長期的に緩徐進行することがあります。戦略的領域(海馬、視床、基底、角回など)の単発梗塞でも、日常生活に影響する認知障害が急に出現することがあります。

失神や血圧過降に伴う一過性虚血や低灌流でも症状が揺らぐことがあり、睡眠時無呼吸や心房細動の管理、脱水予防など、生活背景の調整で症状の安定が期待できることがあります。

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診断と検査

初期評価には問診・家族からの情報、身体・神経学的診察、血圧・代謝・甲状腺機能・ビタミン欠乏など可逆的要因の検査、簡易認知スクリーニング(MMSE、MoCA、HDS-Rなど)を行います。遂行機能や注意の評価は血管性に敏感です。

画像検査はMRIが中心で、拡散強調像での急性梗塞、FLAIRでの白質高信号、T2*やSWIでの微小出血、ラクナ、皮質微小梗塞、海馬萎縮の程度、皮質領域の梗塞・出血の分布などを総合判断します。

血管病変の評価として、頸動脈エコー、頭頸部MRA/CTA、心エコーやホルター心電図による塞栓源検索、睡眠時無呼吸の評価などが適応に応じて実施されます。神経心理検査での遂行機能低下と画像の皮質下病変の整合が診断の鍵です。

純粋な血管性のみならず、アルツハイマー病病理(アミロイド、タウ)との混在が高齢者では一般的であるため、臨床診断では混合型の可能性を常に念頭に置きます。現時点で血液バイオマーカー単独で血管性認知症を特異的に診断する検査は確立していません。

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予防と治療

一次・二次予防の要は血管危険因子の最適管理です。高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、運動不足、肥満、睡眠時無呼吸、心房細動の治療はエビデンスに基づき推奨されます。特に血圧管理は微小血管病変や白質病変の進行抑制に寄与します。

SPRINT-MINDでは厳格な血圧管理が軽度認知障害の発症を減らす可能性が示され、MRIサブ解析でも白質病変進行の抑制が報告されました。食事では地中海食やDASH食、身体活動、社会・認知活動の維持が推奨されます。

薬物療法は原因の是正と再発予防が中心で、抗血小板薬や抗凝固療法(適応のある心房細動など)、スタチン、糖尿病治療などを個別に最適化します。コリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンは血管性に対しても軽度の認知機能改善が示唆されていますが、効果は小さく個別判断です。

リハビリテーション(作業療法・理学療法・言語療法)、多職種での生活環境調整、転倒・誤嚥・せん妄予防、介護者支援が機能維持に重要です。禁煙、減塩、節酒、睡眠の質改善は総合的な血管リスク低減に寄与します。

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日本における支援と制度

日本では公的医療保険と介護保険が基盤で、外来・入院・処方は医療保険、生活支援や在宅サービスは介護保険が中心となります。自己負担は年齢・所得により1〜3割で、高額療養費制度により上限が設けられています。

介護保険では要介護認定に応じて訪問看護、通所リハ、福祉用具、短期入所、ケアマネジメントなどが利用可能です。地域包括支援センターが入口となり、家族支援や認知症初期集中支援チームの活用が推奨されます。

国は「認知症施策推進大綱」に基づき、予防・共生・研究の推進、認知症カフェや医療介護連携の強化、本人・家族の権利擁護の仕組み整備を進めています。自治体レベルでも相談窓口や家族会が整備されています。

費用面では、医療・介護双方で公的負担が大きく、所得に応じた自己負担軽減策があります。困りごとがあれば地域包括支援センターや自治体の相談窓口、主治医に早めに相談することが重要です。

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