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血管内皮増殖因子A(VEGF-A)血清濃度

目次

定義と基礎知識

血管内皮増殖因子A(Vascular Endothelial Growth Factor A; VEGF-A)は、血管新生を強力に促進するシグナルたんぱく質で、主に低酸素などのストレス環境で産生が高まります。VEGFA遺伝子から複数のスプライスバリアントが作られ、その多くが血管内皮細胞の増殖・遊走・生存を制御して新しい毛細血管の形成を助けます。臨床では腫瘍の血管新生や虚血組織の再灌流などに深く関与する因子として研究・応用が進んでいます。

VEGF-Aは内皮細胞上の受容体(VEGFR-1[FLT1]、VEGFR-2[KDR/FLK1])に結合し、受容体型チロシンキナーゼを介して細胞内シグナル伝達を開始します。この結果、内皮細胞の増殖や透過性の亢進、内皮前駆細胞の動員などが起こり、血管新生が進行します。腫瘍ではこの機構が病的に活性化され、無秩序な血管網が形成されることが多いです。

VEGF-Aの測定は血清または血漿で行われますが、採血から遠心、保存までの前処理条件によって値が大きく変わります。特に血小板からの放出が血清値を押し上げるため、循環中の「遊離型」を評価したい場合は血小板減少処理を行った血漿の使用が推奨されることがあります。

臨床応用としては、癌の予後推定や治療反応のモニタリング、希少疾患であるPOEMS症候群の診断補助などが挙げられます。ただし、疾患横断的に標準化された判定基準は確立されておらず、測定法や施設に依存する基準値の差が大きいことから、解釈には慎重さが必要です。

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生理学的役割

VEGF-Aは主に低酸素誘導因子(HIF-1)により転写レベルで制御され、組織の酸素需要と供給の不均衡を埋め合わせる形で血管新生を促進します。創傷治癒、月経周期、妊娠など生理的な状況でもVEGF-Aは重要な役割を担います。

内皮細胞の生存シグナルを強化するほか、血管の透過性を一過性に高め、必要な栄養や免疫細胞の組織移行を助けます。しかし、慢性的な過剰発現は浮腫や病的血管形成を招き、眼底疾患や腫瘍の悪性進展の一因になります。

VEGF-Aは神経保護や骨形成、リンパ管形成(主にVEGF-C/VEGF-Dが担うが一部でVEGF-Aも関与)など、血管以外の組織機能にも間接的・直接的な影響を及ぼします。これらは局所濃度と受容体発現の組み合わせに依存します。

抗VEGF療法(ベバシズマブ、アフリベルセプト、ラニビズマブ等)は、VEGF-Aの結合や受容体活性化を阻害し、腫瘍血管の正常化や病的血管新生の抑制を図ります。一方で創傷治癒遅延や高血圧、蛋白尿などの副作用が生じうるため、適切な患者選択とモニタリングが必要です。

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測定法と前処理の注意

VEGF-Aの定量はサンドイッチELISAや電気化学発光(ECL)、多項目同時測定(Luminex)などの免疫測定法が用いられます。キャプチャ抗体と検出抗体でVEGF-Aを挟み込み、較正曲線に基づいて濃度を推定します。測定範囲や交差反応性は試薬ごとに異なります。

前処理の影響が大きく、凝固過程で血小板からVEGFが放出されるため、血清値は血漿値より高くなりがちです。遊離型の循環レベルを評価する目的では、EDTA血漿やクエン酸血漿を速やかに二重遠心して血小板を可能な限り除去する方法が推奨されます。

保存・凍結融解の回数も結果に影響します。多くのキットは−80℃での保存や凍結融解の最小化を指示しており、各キットの手順書に従うことが不可欠です。異なるキットやプラットフォーム間では絶対値が一致しないことが多いため、縦断的フォローは同一方法で行うべきです。

定量の妥当性確保には、適切なブランク、スパイク回収、希釈直線性、インター/イントラアッセイ精度の検証が必要です。臨床解釈の前に、検査室は内部品質管理と外部精度管理への参加で測定信頼性を担保します。

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臨床的意義と解釈

循環VEGF-Aはがん、炎症性疾患、虚血性疾患、妊娠など多様な状況で変動します。腫瘍では高値が予後不良と関連する報告があり、抗VEGF療法の反応や再発リスクの補助的指標として検討されています。ただし、単独で診断的に用いることは推奨されません。

POEMS症候群では顕著な高値が診断を支持し、治療反応性のモニタリングにも利用されます。一方、子癇前症では可溶性VEGF受容体(sFlt-1)の増加により遊離型VEGFが低下するなど、病態により方向性が異なります。

絶対的な正常範囲は方法依存で、各検査室が設定した基準範囲に従う必要があります。連続測定での変化量(同一個人内のトレンド)に着目する方が有用な場面が多いです。

測定結果の解釈では、採血時の炎症、喫煙、運動、低酸素暴露、薬剤(抗VEGF薬、ステロイド、エストロゲンなど)といった修飾因子を確認し、臨床所見・画像・他のバイオマーカーと統合して判断します。

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遺伝的規定性と環境要因

VEGF-A循環濃度には遺伝的なばらつきが存在し、ゲノムワイド関連解析(GWAS)でVEGFA座位を含む複数の座位が関連しています。これらのシス/トランス作用のpQTLは、個体差の一部を説明します。

双生児研究やSNPハリタビリティ解析では、VEGF-Aを含む多くの血中タンパク質で中等度以上の遺伝率が示唆されます。ただし、推定値はコホートや測定法に依存し、環境因子の寄与も小さくありません。

環境要因として、低酸素(高地滞在、睡眠時無呼吸など)、喫煙、慢性炎症、肥満、運動、妊娠、薬剤投与などがVEGF-Aを変動させます。急性期反応や採血前の運動負荷でも一過性の上昇がみられることがあります。

したがって、遺伝と環境の双方を考慮した解釈が不可欠で、特に縦断的評価や対照条件の標準化が、個体内変動と病的変動を区別する助けになります。

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