血漿β2-マイクログロブリン濃度
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概要
β2-マイクログロブリン(β2M)は、ほぼ全ての有核細胞の細胞表面に存在するMHCクラスI複合体の軽鎖で、分子量は約11.8 kDaの低分子タンパクです。細胞の新陳代謝や免疫活性化に伴い血中へ放出され、腎糸球体で濾過され近位尿細管でほぼ完全に再吸収・分解されます。したがって血漿濃度は産生量と腎機能の双方の影響を強く受けます。
臨床的には、β2Mは慢性腎臓病(CKD)や急性腎障害(AKI)に伴う腎機能低下の指標、また多発性骨髄腫やリンパ腫など造血器腫瘍の腫瘍量・予後を反映するマーカーとして用いられてきました。炎症や感染症、自己免疫疾患など全身性の免疫活性化でも上昇し得ます。
血漿β2Mは加齢とともに緩やかに上昇する傾向が報告され、喫煙、肥満、慢性炎症、ウイルス感染(例:HIV)などの環境・生活因子の影響も受けます。また透析患者では蓄積し、長期には透析関連アミロイドーシスの原因アミロイド前駆体として病態形成に関与します。
検査としては免疫比濁法・免疫散乱法・ELISA・化学発光免疫測定法などが普及しており、比較的短時間で定量可能です。ただし測定法やキャリブレーションの違いにより施設間差が生じるため、解釈は各検査室の基準範囲と併せて行う必要があります。
参考文献
- Testing.com: Beta-2 Microglobulin (B2M) Test
- MedlinePlus: Beta-2 microglobulin (B2M) blood test
- UniProtKB - P61769 (B2M)
測定と臨床的意義
β2Mは腎機能評価の補助マーカーとして、クレアチニンやシスタチンCと同様に糸球体濾過機能の変化に敏感です。特に体格や筋肉量の影響を受けにくい利点があり、CKDの層別化や予後評価に応用されます。複数マーカーを組み合わせたGFR推定式にもβ2Mが用いられています。
造血器腫瘍では腫瘍細胞の回転や腫瘍微小環境の炎症を反映してβ2Mが上昇します。多発性骨髄腫の国際病期分類(ISS)では、血清β2M値が3.5 mg/L以上や5.5 mg/L以上といった閾値が重要な区分基準に採用されています。
感染症や自己免疫疾患、臓器移植後の拒絶反応など、全身性の免疫活性化が持続する状況でもβ2Mは上昇し得ます。したがって単独で特異的診断を下す指標ではなく、臨床所見や他の検査(炎症反応、血算、腫瘍マーカー、腎機能)と統合して解釈することが不可欠です。
長期透析患者ではβ2Mが除去されにくく、組織沈着により透析関連アミロイドーシスを発症します。高透過性膜やオンラインHDFなどの治療戦略はβ2Mの除去効率向上に寄与し、骨・関節症状の軽減が期待されます。
参考文献
- NEJM: Estimating GFR from Multiple Markers including B2M
- American Cancer Society: Multiple Myeloma Staging
- Dialysis-related amyloidosis: challenges and solutions (Review)
基準範囲と解釈
多くの検査室での血清/血漿β2Mの参考範囲は概ね0.7〜1.8 mg/L前後ですが、試薬や測定系により0.6〜2.4 mg/Lなど幅を持ちます。したがって検査報告書に併記される施設固有の基準範囲に従うことが最も重要です。
軽度上昇(例:2 mg/L台)は軽度の腎機能低下、加齢、軽度炎症でも見られます。中等度〜高度上昇(例:>3.5〜5.5 mg/L)はCKD進行や造血器腫瘍の関与を疑わせ、特に骨髄腫では予後層別化に用いられます。極端な高値は重篤な腎不全や活動性の腫瘍性疾患を示唆し得ます。
腎機能の影響が大きいため、β2M単独の解釈は危険です。必ず血清クレアチニン、シスタチンC、推算GFR、尿検査、炎症マーカー(CRP)、電気泳動や遊離軽鎖など関連検査と合わせて総合的に評価します。
年齢、人種、体格、炎症状態、治療(透析膜の種類、化学療法)などにより値が変動します。連続測定では同一法・同一施設でのトレンドを重視することが推奨されます。
参考文献
- Testing.com: Beta-2 Microglobulin reference ranges and interpretation
- MedlinePlus: B2M test interpretation
測定法の原理
免疫比濁法・免疫散乱法では、試料中のβ2Mと特異抗体が反応して形成される免疫複合体による光の吸収・散乱を測定し、濃度を定量します。生成粒子の光学的性質がシグナル強度に比例するため、高速・高再現性の自動分析が可能です。
ELISAでは固相に固定化した抗体でβ2Mを捕捉し、酵素標識二次抗体で検出します。基質反応による発色や化学発光の強度を標準曲線と比較して定量します。高感度ですが手技と時間を要します。
化学発光免疫測定法(CLIA)は、酵素やアクリジニウム標識を用いた発光反応を検出する方式で、広いダイナミックレンジと高感度を両立します。高スループット機で臨床検査室に広く導入されています。
測定の注意点として、溶血や強いリポ血症は光学測定に干渉し得ます。またキャリブレーションや試薬ロット差、抗体の特異性の違いが値に影響するため、異なる装置・施設間での数値比較には慎重さが必要です。
参考文献
- IFCC/IUPAC recommendations on immunoassay principles
- CLIA/ELISA general principles (NIH/NCBI Bookshelf)
生物学的役割と遺伝要因
β2MはMHCクラスI(HLA-A/B/C)やCD1、Fc受容体(FcRn)などの構成要素で、抗原提示や自己・非自己認識、IgGの半減期制御に関与します。β2Mの欠損はクラスIの表面発現低下と免疫機能異常をもたらす稀な病態です。
血中濃度の個人差には遺伝的背景が一部寄与します。大規模プロテオーム遺伝学研究では、B2M遺伝子座やHLA領域のpQTLが同定され、共通変異が濃度の数%〜10数%の分散を説明することが示唆されています。
一方で、腎機能、炎症、感染、腫瘍などの環境・病態要因が大半の変動を規定します。したがって集団レベルでは環境・病態が優位、遺伝要因は補助的と考えるのが妥当です。
加齢や生活習慣(喫煙、肥満、身体活動)、併存症(糖尿病、高血圧)も濃度に影響します。予防の観点では腎血管リスク管理や感染対策、生活習慣の是正が重要です。
参考文献

