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血清IgG濃度

目次

概要

血清IgGは血清中でもっとも量が多い免疫グロブリンで、細菌やウイルスなどの病原体を中和したり、食細胞による貪食を助けたり、補体を活性化したりする重要な抗体です。成人では血清タンパクの約10~20%を占め、濃度はふつうg/L(またはmg/dL)で表されます。検査は多くの医療機関で日常的に行われ、免疫機能の概観をとらえる基本指標のひとつです。

IgGには複数のサブクラス(IgG1~IgG4)があり、総IgG濃度はこれらの総和です。サブクラスは病原体の種類や免疫応答の様式により増減しやすさが異なるため、臨床では総IgGに加えてサブクラスの評価が補助的に行われることがあります。ただしサブクラス検査は適応が限定され、解釈には注意が必要です。

血清IgG濃度は年齢や体内の炎症状態、肝機能、蛋白喪失の有無、薬剤投与(例:免疫抑制薬や静注免疫グロブリン)など多くの因子で変動します。したがって単回の数値だけで診断に直結させず、臨床症状・他の検査所見・既往歴と総合的に判断します。

測定法としては免疫比濁法や免疫比ろう(ネフェロメトリー)が広く用いられます。いずれも抗IgG抗体とIgGが結合して生じる免疫複合体が光を散乱・吸収する性質を利用し、散乱光や濁度の強さを既知濃度の標準と比較して定量します。外部精度管理と機器較正が品質確保に重要です。

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正常値と年齢差

成人の総IgG基準範囲は概ね7.0~16.0 g/L(700~1600 mg/dL)が広く用いられますが、試薬や機器、母集団によって異なります。そのため各検査室が設定したリファレンスレンジを参照することが推奨されます。報告書には施設ごとの基準範囲が併記されるのが一般的です。

小児では年齢依存性の変化が顕著で、新生児期は母体由来IgGが優位、乳児期に一過性に低下した後、自前の産生増加とともに学童期に成人域へ近づきます。したがって年齢別の参照範囲を用い、成人範囲での単純比較は避けます。

妊娠では循環血漿量の増加に伴う希釈効果により、総IgGが軽度低下してみえることがあります。一方で胎盤を介した胎児へのIgG移行(FcRn依存)は生理的現象であり、母親の防御抗体が新生児へ受け継がれる基盤となります。

高齢者では慢性炎症や併存疾患、栄養状態、薬剤の影響などが加わり、個体差が拡大します。基準範囲内であっても経時的な変化や臨床像に照らして評価し、必要に応じて原因検索や追加検査(蛋白分画、サブクラス、免疫固定など)を行います。

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測定法と理論

免疫比濁法は、抗IgG抗体を添加して形成された可溶性免疫複合体が光を吸収・散乱し溶液の濁度が増す現象を利用します。光路に直線的に光を通し、透過光の減少(もしくは散乱光の増加)を測定して濃度を算出します。試薬系の最適化とプロゾーン回避が重要です。

ネフェロメトリーは散乱光を特定角度で検出する方式で、微小な濁りに対しても高感度に応答します。標準物質との検量線を用いて未知試料の散乱光強度からIgG濃度を求めます。比濁法より低濃度域で有利とされ、日常検査で広く採用されています。

測定における誤差要因としては、リウマトイド因子、高脂血症による光学的干渉、溶血・黄疸、極端な高濃度に伴うフック効果などがあります。適切な希釈、異常反応のフラグ管理、外部精度管理計画が不可欠です。

定量値のトレーサビリティは国際標準血清やメーカー標準に依拠します。装置間・試薬間の差は完全にはゼロにできないため、経時的フォローは同一検査室・同一測定系で行うのが望ましいとされます。

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遺伝的・環境的要因

血清IgG濃度には遺伝要因と環境要因の両方が関与します。双生児研究や大規模コホートの解析から、免疫系の多くの表現型は環境の影響が大きい一方で、一部は遺伝的に強く規定されることが示されています。

一般的な免疫形質に関する双生児研究では、全体として非遺伝(環境)要因が優位で、平均すると約70%前後が環境により説明されると報告されています。ただしこれは多様な免疫指標の平均像であり、総IgGに特化した推定は研究間で幅があります。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、HLA領域やFc受容体関連遺伝子座など免疫応答に関わる座位が血中タンパクや抗体関連形質に影響することが示されています。これらはIgGの産生効率やクリアランスに間接的な影響を与える可能性があります。

結論として、血清IgGの個人差はおおむね環境要因の寄与が大きく、遺伝要因は中等度と考えられます。感染歴、ワクチン接種、腸内環境、生活習慣、基礎疾患、薬剤などが環境側の主要因です。

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臨床的意義と異常時の対応

低IgG血症は原発性免疫不全症(例:CVID、X連鎖無ガンマグロブリン血症)や蛋白喪失(ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症)、薬剤性免疫抑制、血液悪性腫瘍などでみられます。反復感染やワクチン不応などの臨床像を伴えば精密評価が必要です。

高IgG血症(高ガンマグロブリン血症)は慢性感染症、自己免疫疾患、慢性肝疾患などのポリクローナルな上昇、あるいは形質細胞腫瘍やMGUSに伴うモノクローナルな増加に大別されます。後者では蛋白分画・免疫固定・遊離軽鎖検査などが重要です。

異常を認めた場合は、症状、他の免疫グロブリン(IgA/IgM)、サブクラス、特異抗体価、蛋白分画、炎症反応、腎肝機能などを組み合わせて原因を絞り込みます。必要に応じて専門科(臨床免疫、血液内科、小児科)に紹介します。

治療は原因に依存し、原発性抗体欠損では静注/皮下注免疫グロブリン補充(IVIG/SCIG)が標準的選択肢です。モノクローナル増加では基礎疾患に対する治療や経過観察が行われます。検査値の単独異常のみで過度に心配せず、主治医と相談を重ねることが重要です。

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