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血清IgA濃度

目次

定義と概要

血清IgA濃度とは、血液中に存在する免疫グロブリンA(IgA)の量を示す指標で、通常はmg/dLまたはg/Lで表されます。IgAは体の粘膜面を守る主要抗体で、腸・呼吸器・唾液・涙などで分泌型IgAとして機能し、血清中では主にモノマーとして循環します。

IgAは病原体の付着や侵入を防ぎ、中和や免疫複合体の除去に寄与します。血清中のIgAは分泌型と異なり補体活性化能が弱い一方、受容体(FcαRI)を介した貪食や炎症調整に関わります。そのため血清IgAの量は、全身性の免疫状態や炎症の背景を反映し得ます。

臨床では、IgA濃度の測定は免疫不全(選択的IgA欠損など)のスクリーニング、慢性炎症や肝疾患の評価、形質細胞疾患(IgA型骨髄腫)の鑑別などで用いられます。またセリアック病の血清学的診断では、tTG-IgAの解釈に先立ち総IgAの確認が推奨されます。

IgAは体内で2つのサブクラス(IgA1とIgA2)に分かれ、組織や微生物叢との相互作用により産生が調整されます。血清IgA濃度は年齢、遺伝、環境、基礎疾患、薬剤などの要因で変動し、その解釈には臨床経過と他の検査結果の総合判断が不可欠です。

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正常範囲と加齢の影響

血清IgAの基準値は検査法と試薬によって異なりますが、成人では概ね70–400 mg/dL程度が用いられます。一方、小児では年齢により基準範囲が広く変動し、乳幼児期は低値で、学童期以降に成人域へ近づきます。検査報告書に付属する施設ごとの基準範囲を必ず参照する必要があります。

大学病院や大手検査機関のディレクトリでは、年齢階層別の参照区間が公開されています。例えば新生児や乳児ではIgAはきわめて低く、数mg/dLから始まり、月齢とともに上昇します。思春期にかけて成人の下限域に達するのが一般的です。

性差は大きくはありませんが、集団差(人種・民族)や環境暴露により分布がわずかに異なることがあります。また免疫刺激(ワクチン、感染)や慢性炎症状態ではポリクローナルな上昇が観察される場合があります。

検査単位としてmg/dLとg/Lが混在することがあるため、解釈の際は単位換算(1 g/L = 100 mg/dL)に注意します。過去データとの縦比較を行う際も、同一法・同一施設での経時変化かを確認することが重要です。

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測定法の原理

血清IgAの定量は、現在は主に免疫比濁法や免疫ネフェロメトリーで行われます。IgAと特異抗体を反応させて形成される免疫複合体による濁度や散乱光の強度を測定し、校正曲線から濃度を算出する仕組みです。

免疫ネフェロメトリーは前方散乱光の検出により感度とダイナミックレンジが広く、迅速な自動分析に適します。免疫比濁法も多くの臨床化学装置で実装され、日常検査で広く用いられています。古典的には放射状免疫拡散法もありますが、現在は主に補助的な用途です。

測定にはマトリックス効果やプロゾーン現象(高濃度での見かけ低値)などの限界があり、検体希釈や再測定の判定アルゴリズムが重要です。精度管理のためにトレーサブルな標準物質を用いた校正や内部・外部精度管理が求められます。

IgAサブクラス(IgA1/IgA2)の測定は研究的には可能ですが、日常臨床では総IgAが主たる指標です。モノクローナルIgAが疑われる場合は、総量の測定に加え、蛋白分画(SPEP)や免疫固定法(IFE)と組み合わせて解釈します。

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臨床的意義と解釈の要点

低IgAは選択的IgA欠損や蛋白漏出、免疫抑制薬使用などでみられます。選択的IgA欠損は成人で<7 mg/dL程度を目安とし、臨床的には感染症の反復や自己免疫疾患の合併、輸血時の注意が必要です。

高IgAは慢性肝疾患、慢性感染、自己炎症性疾患、または形質細胞増殖性疾患(IgA骨髄腫、MGUS)などでみられます。ポリクローナル上昇とモノクローナル増加の鑑別には蛋白分画や免疫固定が有用です。

セリアック病の血清学的診断では、tTG-IgAやEMA-IgAの前提として総IgAの評価が必要です。IgA欠損例ではIgGベースの代替検査(tTG-IgGやDGP-IgG)に切り替えます。

解釈は必ず臨床症状、他の免疫グロブリン(IgG, IgM)、炎症マーカー、肝機能や腎機能、蛋白分画の結果と統合して行います。単回測定の逸脱は一過性であることもあるため、経時的な追跡測定が推奨されます。

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遺伝・環境要因

血清IgA濃度には遺伝・環境の双方が影響します。双生児研究では中等度の遺伝率が示される一方、生活歴や感染・微生物叢・喫煙・薬剤などの環境要因も大きく寄与します。

ゲノムワイド関連解析(GWAS)では、免疫調整や粘膜関連の複数の遺伝子座が血清IgA濃度に関連すると報告されています。ただし、SNPベースの遺伝率は全体の遺伝率より低めに見積もられるのが一般的です。

遺伝率は集団・年齢・測定法により幅を持ち、およそ数十%の範囲とする報告が多い一方で、残余は共有・非共有環境の影響と解釈されます。個人の検査値にそのまま適用できる「固定の比率」は存在しません。

臨床的には、家族歴や関連疾患の集積がある場合でも、環境介入(感染対策、基礎疾患管理、生活習慣)で血清IgAに影響し得る点を念頭に、過度に遺伝要因のみを強調しないバランスが重要です。

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