血清陽性関節リウマチ
目次
概要
血清陽性関節リウマチは、関節リウマチのうち血液検査でリウマトイド因子(RF)や抗CCP抗体(ACPA)が陽性となるタイプを指します。一般に全関節リウマチ患者の約60〜80%が血清陽性とされ、骨びらんや結節、肺合併症などのリスクが相対的に高い傾向があります。自己免疫の破綻により滑膜炎が持続し、放置すると関節破壊や機能障害につながります。
血清陽性かどうかは病型の一つであり、診断は2010年ACR/EULAR分類基準などで総合的に判定されます。臨床では朝のこわばり、手指の対称性腫脹、長期化する痛みが典型的です。血清陽性は疾患活動性が高いというより、病勢の持続性や構造的損傷のリスクと関連づけられることが多い点が特徴です。
発症は遺伝素因と環境因子の相互作用により生じます。喫煙や歯周病などの粘膜炎症を介してシトルリン化タンパクへの免疫寛容が破綻し、ACPAが産生されます。これら自己抗体は関節内で免疫複合体を形成し、補体やマクロファージ、線維芽細胞様滑膜細胞を活性化して炎症を増幅させます。
治療は早期からの治療目標(寛解または低疾患活動性)への到達を目指すT2T戦略が推奨されます。メトトレキサートを中心とするcsDMARD、必要に応じて生物学的製剤(TNF・IL-6阻害、CTLA4-Ig、抗CD20)やJAK阻害薬を組み合わせ、定期的に指標(DAS28等)で評価し調整します。
参考文献
発生機序
血清陽性関節リウマチでは、まず気道や歯周など粘膜での蛋白質シトルリン化が増え、遺伝素因(HLA-DRB1共有エピトープなど)を持つ人でACPAが誘導されやすくなります。ACPAは関節外で先行して出現し、症状発現の数年前から血中で検出されることがあります。
その後、自己抗体や滑膜内の免疫複合体が補体を活性化し、樹状細胞・マクロファージからTNF、IL-6、IL-1などの炎症性サイトカインが大量に産生されます。線維芽細胞様滑膜細胞は増殖し、血管新生とともに“パンヌス”を形成して関節軟骨・骨へ侵襲します。
骨破壊は主に滑膜由来のRANKLが破骨細胞を活性化することで生じ、軟骨はMMPなど分解酵素で損傷します。ACPA自体が骨芽細胞や破骨細胞に影響し、骨代謝を直接ゆがめる可能性も示されています。
喫煙、シリカ粉じん、歯周病細菌(Porphyromonas gingivalisやAggregatibacter actinomycetemcomitans)などは粘膜免疫の撹乱やタンパク修飾を通じてこの過程を促進します。これら外因と遺伝因子の相互作用が、血清陽性型の特徴的な病態を規定します。
参考文献
- Klareskog et al. Rheumatoid arthritis (Lancet review)
- Environmental risk factors for RA (Nat Rev Rheumatol)
遺伝的要因
最も強い遺伝的要因はHLA-DRB1の共有エピトープ(SE)と呼ばれるアミノ酸配列で、ACPA陽性RAのリスク上昇と強く関連します。SE保有と喫煙の相乗効果は著明で、複合的にリスクを高めます。
非HLA遺伝子ではPTPN22(欧州系で顕著)、PADI4(日本・東アジアで強い)、STAT4、TRAF1/C5、TNFAIP3、CTLA4、CCR6など多遺伝子が関連します。これらはT細胞受容体シグナル、シトルリン化、NF-κB制御など免疫経路に関与します。
遺伝率(遺伝的要因が全体のばらつきに占める割合)は、ACPA陽性RAで約50〜60%と見積もられ、ACPA陰性より高い傾向です。HLA領域だけで全体リスクの相当部分を説明しますが、なお多くは非HLA多遺伝子や遺伝子×環境相互作用です。
大規模ゲノム研究は疾患生物学の理解と創薬標的の発見に貢献しています。RA関連遺伝子近傍には既存薬の標的が濃縮しており、遺伝学が治療選択や薬剤反応の差(例:血清陽性でのリツキシマブ反応性)理解にもつながっています。
参考文献
- Okada et al. Genetics of RA (Nature)
- Shared epitope hypothesis (Arthritis Research & Therapy)
- PADI4とRA(Nat Genet 2003)
- Frisell et al. Heritability by serostatus (Ann Rheum Dis)
環境的要因
喫煙はACPA陽性RAの最も確立した外因で、用量依存的にリスクを上げ、HLA-DRB1共有エピトープとの相互作用でさらに増幅します。禁煙は一次予防の中心であり、発症後も疾患活動性や心血管合併症の低減に資します。
シリカ粉じん曝露(鉱業・建設業など)、受動喫煙、大気汚染はリスク上昇と関連が示されています。ホルモン因子では出産歴、授乳、経口避妊薬などの影響が報告されていますが、効果は一様ではありません。
歯周病と口腔内細菌は、シトルリン化やNETs形成を介して免疫寛容破綻に関与しうると考えられます。口腔衛生の改善や歯周治療はリスク低減に寄与する可能性があり、一次・二次予防の観点から推奨されます。
肥満、低身体活動、低ビタミンDなど生活習慣関連因子も観察研究で関連が指摘されていますが、因果は限定的です。適正体重の維持、運動、バランスの良い食事は全身の炎症負荷を減らし、治療反応性の改善にもつながります。
参考文献
診断と治療
診断は症状の持続、関節所見、血清マーカー(ACPA、RF)、炎症反応(CRP/ESR)、画像(超音波・MRI)などを統合し、2010年ACR/EULAR分類基準が広く参照されます。ACPAは特異度が高く、早期から陽性化するため血清陽性の指標として有用です。
治療は早期開始・T2Tが基本で、メトトレキサートを第一選択に、併用でスルファサラジン、レフルノミド、ヒドロキシクロロキン等を用います。必要時に短期の少量ステロイドを併用します。
効果不十分・不耐の場合は生物学的製剤(TNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬、アバタセプト、リツキシマブ)やJAK阻害薬(トファシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ等)を追加・切替します。感染リスクや心血管・血栓リスクの評価とワクチン接種が重要です。
理学療法、運動、禁煙、口腔衛生、心血管リスク管理を含む包括的ケアが転帰を改善します。定期的に疾患活動性を測り、寛解維持で薬剤の減量・休薬を検討しますが、再燃リスクに注意して個別化します。
参考文献

