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血清テストステロン濃度

目次

定義と基礎知識

血清テストステロン濃度とは、血液中を循環するアンドロゲンであるテストステロンの量を指し、主として総テストステロン(SHBGやアルブミンに結合した分画と、非結合=遊離分画の合計)で表されます。生理活性に直結しやすいのは遊離テストステロンとアルブミン結合分画(生物学的活性型)で、SHBGに強固に結合した分画は受容体へのアクセスが限定されます。

日内変動が顕著で、男性では早朝に高く夕方に低下します。加齢に伴い平均値は緩やかに低下し、肥満や慢性疾患、急性疾患、薬物(オピオイド、グルココルチコイドなど)でも低下し得ます。女性の絶対濃度は男性よりはるかに低く、測定法の感度・特異度がより重要になります。

単位はng/dLまたはnmol/Lが用いられ、1 ng/dL ≒ 0.0347 nmol/Lで換算します。検査は通常朝(7–11時)に採血し、空腹かつ安静条件が望ましいとされます。測定値は検査法間差が大きいことがあり、標準化プログラムの適合が推奨されます。

検査の標準化は臨床判断の一貫性に不可欠です。CDCのHormone Standardization(HoSt)プログラムや、学会が提示するハーモナイズド基準範囲を参照することで、施設間差や測定法差による誤解を減らせます。

参考文献

測定と解釈のポイント

測定は症状と併せて判断します。低テストステロンが疑われる場合、早朝の総テストステロンを少なくとも2回、急性疾患や過度の運動後を避けて測定します。境界域ではSHBGやアルブミン濃度を用いた計算法、あるいは遊離テストステロンの直接測定が有用です。

症状には性欲低下、勃起機能の低下、活力低下、無精子症や不妊、骨密度低下、貧血などが含まれます。測定値単独ではなく、こうした臨床像と一貫性があるかが重要です。

SHBGは年齢、肥満、肝疾患、甲状腺機能、薬剤(例: 抗てんかん薬)で大きく変わるため、総テストステロンのみでは誤判定の恐れがあります。SHBGが高い高齢者では総値が正常でも生物学的に低値、肥満では逆に総値が低めに出ることがあります。

女性や小児では低濃度域の測定となるため、免疫法は過小・過大評価のリスクが高く、LC-MS/MSなど高精度法が推奨されます。解釈では月経周期や避妊薬、妊娠などの影響も考慮します。

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遺伝的要因と環境的要因

テストステロン濃度には遺伝・環境の双方が寄与します。大規模ゲノム解析では、総テストステロンのSNPベースの遺伝率は男性で概ね20–25%、女性で15–20%前後と推定され、SHBGではさらに高い値が報告されています。

双生児研究では、広義の遺伝率がこれより高く、男性でおおむね40–60%程度とする報告もありますが、対象や年齢、測定法でばらつきます。残余は年齢、体脂肪、睡眠、栄養、疾患、薬剤、ストレス、アルコール・喫煙などの環境要因に帰せられます。

肥満や2型糖尿病、睡眠時無呼吸、慢性炎症性疾患はテストステロン低下と関連します。体重減少、運動、十分な睡眠、飲酒抑制は改善に寄与することがありますが、効果の大きさは個人差があります。

遺伝的素因があっても環境の最適化で臨床的に意味のある改善を得られる場合があります。逆に急性疾患や薬剤性低下は可逆的であり、まず原因の是正が優先されます。

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臨床的意義と異常時の対応

低テストステロンでは性機能低下、筋力低下、骨量減少、気分・活力低下、貧血などがみられます。反復測定で低値が確認され、症状が一致し、禁忌がない場合に限り、男性ではテストステロン補充療法が検討されます。

低値の原因鑑別ではLH/FSHで一次性(原発性)と二次性(中枢性)を区別し、二次性ではプロラクチン、高プロラクチン血症や下垂体病変の評価を行います。薬剤性や睡眠時無呼吸、甲状腺・肝疾患など可逆的因子の是正が第一です。

高テストステロンは外因性アンドロゲン投与、アンドロゲン産生腫瘍、副腎酵素異常などが鑑別に挙がります。女性ではPCOSや先天性副腎過形成を考慮します。臨床像と併せて追加検査を組み立てます。

補充療法は不妊希望では禁忌(精子産生を抑制)で、前立腺癌の既往などにも注意が必要です。実施時は血球数、前立腺関連指標、心血管リスク、睡眠時無呼吸の増悪に留意し、定期フォローを行います。

参考文献

定量法と理論(免疫測定とLC-MS/MS)

免疫測定法(RIA、CLIAなど)は迅速・低コストですが、交差反応やマトリックス効果により特に低濃度域(女性・小児)で精度が低下し得ます。対して液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)は特異性と感度が高く、基準法として推奨されます。

総テストステロンは直接測定されますが、遊離テストステロンは平衡透析や限外ろ過による直接測定、あるいはSHBG・アルブミンを用いた計算(Vermeulen式など)で推定します。計算法は再現性に優れますが、入力値の精度に依存します。

標準化は測定値の比較可能性を高めます。CDCのHoStプログラムやハーモナイズド基準範囲を利用し、装置・試薬間の系統誤差を補正します。研究と臨床で同等の信頼性を確保することが重要です。

前分析要因(採血時間、姿勢、絶食、急性疾患、薬剤、血清と血漿の違い)も大きく影響するため、プロトコルの徹底が不可欠です。再検は同条件で行い、外部精度管理に参加している検査室を選びます。

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