血清クレアチニン
目次
基本と代謝の概要
血清クレアチニンは、筋肉内でエネルギー貯蔵に関わるクレアチンやホスホクレアチンが非酵素的に分解して生じる最終代謝産物です。体内ではほぼ一定速度で産生され、主に腎臓から尿として排泄されるため、腎機能、とくに糸球体ろ過機能の指標として広く用いられています。
クレアチニンの産生量は筋肉量に左右され、年齢、性別、体格、運動習慣などで個人差があります。たとえば筋肉量の多い若年男性では基礎値が高めになり、筋肉量の少ない高齢者や女性では低めの値になりやすいという特徴があります。
クレアチニンは腎臓で主に糸球体でろ過され、少量が近位尿細管から分泌されます。このため、腎機能が低下すると血清中のクレアチニンが上昇し、逆に腎機能が良好だと低めに保たれます。ただし尿細管分泌や測定法の干渉により、真のろ過機能とわずかに乖離することがあります。
臨床現場では血清クレアチニン単独値よりも、年齢や性別などを加味した推算糸球体ろ過量(eGFR)に換算して腎機能を評価することが一般的です。最近は人種項目を含めない推算式が推奨され、より公平で標準化された評価が進んでいます。
参考文献
- MedlinePlus: Creatinine test
- Wyss & Kaddurah-Daouk. Creatine and creatinine metabolism (Physiol Rev 2000)
- KDIGO 2024 CKD Guideline
測定法と標準化
血清クレアチニンの測定には、古典的なヤッフェ法と、特異性の高い酵素法があります。ヤッフェ法はアルカリ性下でピクリン酸と反応して発色する原理ですが、ブドウ糖、ケトン体、ビリルビン、セファロスポリン系抗菌薬などの干渉を受けやすいことが知られています。
酵素法はクレアチニナーゼやクレアチナーゼ、サルコシンオキシダーゼなどの酵素反応を連結して生成される過酸化水素を発色体で測定する方法で、干渉が少なく精度が高いのが利点です。近年は多くの臨床検査室でIDMSトレーサブルな標準化が行われ、施設間のばらつきが減少しています。
測定の標準化は、腎機能推算式の精度に直結します。IDMSにトレースした校正を行うことで、eGFR式(CKD-EPIなど)の妥当性が担保され、施設間で比較可能なクレアチニン値が得られます。
なお、黄疸の強い標本や高度溶血など、前分析要因による影響にも注意が必要です。検体採取時の脱水や大量の調理肉摂取後の短期的上昇など、生理的・分析的変動も解釈に影響します。
参考文献
- Delanghe & Speeckaert. Creatinine determination according to Jaffe (NDT 2011)
- NIDDK: Creatinine Standardization Program
- AACC/Clin Chem review: Serum creatinine as index of renal function (1992)
臨床的意義とeGFR
血清クレアチニンは腎機能の低下を早期に察知する入口ですが、単独では筋肉量の影響を強く受けます。そのため年齢や性別を加味したeGFRに換算することで、同じ値でも患者背景の違いを補正して比較しやすくなります。
eGFRはCKDの診断、重症度分類、予後予測に用いられ、アルブミン尿の程度(A分類)と組み合わせて総合的に評価します。一定期間(3か月以上)にわたるeGFR低下やアルブミン尿の持続でCKDと定義されます。
クレアチニンには薬剤性の見かけ上昇もあります。たとえばシメチジンやトリメトプリムは尿細管分泌を阻害して血清クレアチニンを上昇させますが、実際のGFRは低下していないことがあります。
高タンパク食や激しい運動、脱水は一過性にクレアチニンを上げる要因です。逆に妊娠や重度の低栄養、サルコペニアは低値の原因になり、腎機能の過大評価につながるため注意が必要です。
参考文献
- KDIGO 2024 CKD Guideline
- National Kidney Foundation: Creatinine and eGFR
- Inker et al. New eGFR equations without race (NEJM 2021)
影響因子と生物学的変動
血清クレアチニンの個体内変動は比較的小さく、安定時の日差変動は数%程度とされますが、採血条件や食事内容の影響を受けます。標準化された条件での採血が望まれます。
年齢とともに筋肉量が減るため、同じ腎機能でも高齢者ではクレアチニンが低く出てしまうことがあります。こうした背景では、補助的にシスタチンCによるeGFRを併用することが推奨されます。
薬剤による干渉は、測定法への分析的干渉と、尿細管分泌抑制などの生理学的干渉に大別されます。臨床判断では投薬歴の確認が重要です。
スポーツ選手やボディビルダーでは筋量由来で基礎値が高めです。反対に寝たきりや長期臥床では低めになりやすく、いずれもeGFRの解釈に注意が必要です。
参考文献
遺伝学と集団差
血清クレアチニンやeGFRには遺伝的要因が中等度に関与します。双生児・家系研究では広義の遺伝率が概ね30~60%と報告されており、残余は環境要因や測定誤差などが占めると考えられます。
一方で、ゲノムワイド関連解析に基づくSNPレベルの遺伝率はより低く、eGFRcreaで概ね7~10%程度と推定されます。これは一般的な多因子形質でみられる傾向で、未解明の遺伝要因や環境との相互作用が背景にあります。
集団差については、筋肉量や生活習慣、食習慣の違いがクレアチニン値に影響します。人種・民族の項目を式に含めない新しいeGFR推算式の採用が進んでおり、公平性の観点からも重要です。
臨床では、遺伝要因の存在を前提としつつも、個々の患者では生活習慣、合併症、薬剤など修正可能な要因の管理が最優先となります。
参考文献

