血清エプスタイン・バーウイルス核抗原1IgG
目次
EBNA1 IgGの基礎と概要
エプスタイン・バーウイルス(EBV)はヒトヘルペスウイルス4型で、成人の90%以上が生涯のどこかで感染します。核抗原1(EBNA1)は潜伏感染に必須の核内タンパクで、ウイルスのエピソーム維持に関与します。EBNA1に対するIgG抗体は、初感染後しばらくして出現し、一般に生涯持続するのが特徴です。
血清EBNA1 IgGは単独では急性期診断に向きませんが、VCA IgM、VCA IgG、EA IgGなど他のEBV抗体と組み合わせることで、急性感染、既感染、再活性化の鑑別に役立ちます。多くの健常成人で陽性であるため、“陽性=病気”ではない点に注意が必要です。
初感染のごく早期にはEBNA1 IgGは陰性で、通常は感染後2〜4か月以降に陽性化します。小児や免疫抑制状態では陽性化が遅れる、あるいは十分に上昇しないことがあります。したがって患者背景を踏まえた解釈が重要です。
EBNA1はGly-Ala繰り返し配列により抗原提示を回避する性質を持つため、細胞傷害性T細胞から逃避しやすいとされます。血中のEBNA1 IgGは免疫記憶の指標であり、中和抗体というより過去曝露のマーカーとして臨床で用いられます。
参考文献
- CDC: Epstein-Barr Virus Laboratory Testing
- ARUP Consult: Epstein-Barr Virus - Testing
- Levitskaya et al., Nature 1995: Inhibition of antigen processing by EBNA1
臨床での解釈と限界
EBNA1 IgG陽性は多くの場合、既感染を意味します。急性期ではVCA IgM陽性・EBNA1 IgG陰性が典型で、数週間から数か月の経過でEBNA1 IgGが陽転します。既感染ではVCA IgGとEBNA1 IgGがともに陽性で、VCA IgMは陰性です。
再活性化や慢性活動性EBVでは、EBNA1 IgGは既に陽性であることが多く、単独では活動性の指標になりにくいです。この場合はEA IgG、定量的EBV DNA PCR、臨床症状の総合判断が求められます。
乳児では移行抗体の影響や免疫成熟の未熟さが解釈を難しくします。また免疫抑制患者では抗体反応が減弱し偽陰性化することがあります。疑わしい場合は繰り返し測定や核酸検査を併用します。
キット間でカットオフや単位(Index, AU/mL, U/mL)が異なり、標準化に限界があります。したがって“正常値”“異常値”の絶対的基準は存在せず、自施設の基準値と臨床文脈に沿って判断する必要があります。
参考文献
- CDC: Interpretation of EBV serology
- ARUP Consult: EBV testing and interpretation
- Quest/Euroimmun product information for EBNA1 IgG ELISA
測定法と原理
EBNA1 IgGの測定には、間接ELISAや化学発光免疫測定(CLIA)が広く用いられます。精製または組換えEBNA1抗原を固相化し、患者血清中の特異的IgGを結合させ、標識二次抗体で検出します。出力は吸光度や発光強度で、キャリブレータにより定量化されます。
EBNA1の抗原としては交差反応を抑えるためC末端ドメイン由来の組換え抗原が用いられることが多いです。ウェスタンブロットや免疫ブロットは確認試験として位置づけられ、複雑な抗原パターンの評価に適します。
測定系によっては結果が“Index”や“S/CO(試料/カットオフ)”として報告されます。一般にIndex <0.9は陰性、0.9–1.1は判定保留、>1.1は陽性などと定義されますが、各社取説に従うことが重要です。
前分析要因として溶血・高脂血症・リウマトイド因子などが干渉する可能性があり、また免疫グロブリン低値や早期感染では偽陰性が起こりえます。解釈時には臨床像と他項目の整合を確認します。
参考文献
- EUROIMMUN Anti-EBV ELISA (IgG) information
- Abbott ARCHITECT EBV panel (including EBNA-1 IgG)
- ARUP Laboratories Test Directory – EBV antibodies
遺伝的・環境的要因の影響
EBNA1 IgGの有無は主に環境、すなわちEBVへの曝露時期と回数に依存します。一方、IgG値の強さや持続には遺伝的要因、とくにHLAクラスIIの多型が関与することが示されています。GWASでHLA-DR/DQ領域とEBNA1抗体価の関連が報告されています。
双生児・集団研究から、抗体応答の個人差のうち遺伝の寄与は中等度で、残りは年齢、感染負荷、共感染、喫煙・栄養などの環境要因が説明するとされます。EBNA1 IgGに限らず、多くの病原体特異抗体で同様の傾向が認められます。
具体的な割合は集団と測定法で幅がありますが、概ね遺伝20–40%、環境60–80%と見積もる研究が多いです。遺伝の内訳としてはHLAの影響が大きく、抗原提示効率の違いが抗体価形成に影響すると考えられます。
ただし、これらの推定は横断的な抗体価を対象としたものが多く、縦断的な変動や免疫抑制の影響を十分に反映していません。個別患者の解釈には集団推定ではなく臨床コンテクストを優先します。
参考文献
- Scepanovic et al., Science 2018: Human genetic variants shape immune phenotype
- GWAS linking HLA class II with anti-EBNA1 IgG
- Review on heritability of antibody responses
臨床的意義と関連疾患
EBNA1 IgGは過去のEBV曝露の指標として、感染性単核球症の経過評価や既感染の確認に用いられます。特に妊娠中や免疫抑制患者での原発感染リスク評価において、既感染の確認は実務上有用です。
一部のEBV関連腫瘍(上咽頭癌、胃癌、ホジキンリンパ腫など)では特定抗体(例:VCA/EA IgA)の上昇がリスク指標となることがありますが、EBNA1 IgGは広く陽性で特異度が低く、スクリーニングには適しません。
神経疾患との関連では、EBV感染と多発性硬化症(MS)の強い関連が前向きコホートで示されており、過去の研究では高いEBNA1抗体価が将来のMS発症リスクと相関する報告もあります。ただし個別診断には用いません。
疑わしい再活性化や移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)では、血漿EBV DNA定量PCRの方が病勢を反映しやすく、抗体検査は補助的です。適切な検査選択は専門医と相談して決定します。
参考文献

