血小板分布幅
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概要
血小板分布幅(platelet distribution width: PDW)は、末梢血中に存在する血小板の大きさ(体積)のばらつきを数値化した指標です。一般的に自動血球計数装置が血小板体積のヒストグラムを作成し、その分布の広がりを表すことでPDWが算出されます。赤血球の大きさのばらつきを示すRDWと類似の概念で、血小板系の造血や活性化の変化を反映しうる二次的な指数として利用されます。
PDWは単独で疾患特異的な診断マーカーになるというよりは、血小板数(PLT)や平均血小板体積(MPV)、大型血小板比率(P-LCR)など他の血小板指数と併せて解釈することで臨床的価値が高まります。血小板は止血・血栓形成に直接関与するため、サイズの不均一性は機能や成熟度の多様性と関連づけて議論されます。
なお、PDWの単位や算出法は装置メーカーによって異なることがあります。多くの装置では「変動係数(%)」として報告されますが、ヒストグラムの特定の高さ(例:ピークの20%)における幅を体積(fL)で示す定義を採る装置もあります。このため施設間で基準範囲や数値の絶対値が異なる点に注意が必要です。
前分析過程(採血から測定までの時間、抗凝固薬の種類、温度、混和の程度)や検体内事象(凝集、衛星現象、断片化赤血球の干渉)でもPDWは影響を受けます。信頼性の高い判定には、検体品質の確保と測定条件の標準化が不可欠です。
参考文献
- Platelet indices: a potentially useful set of biomarkers in clinical practice
- ICSH recommendations for platelet counting and reporting
- Hippokratia 2010: Platelet distribution width as a marker of platelet activation
遺伝・環境要因
血小板サイズやそのばらつきには遺伝的背景が関与します。大規模ゲノム研究では、血小板数や平均血小板体積(MPV)に関連する多数の遺伝子座が同定され、巨核球分化や血小板形成経路への遺伝的影響が示されています。PDW自体の直接的な遺伝率推定は限られますが、サイズ関連形質の遺伝性から、一定の遺伝寄与が推測されます。
双生児研究やバイオバンクデータを用いた解析では、血小板関連形質の遺伝率は概ね30〜60%程度と報告されており、残余は環境要因や測定誤差に起因します。環境因子には炎症、喫煙、代謝状態、薬剤(抗血小板薬、化学療法薬)、栄養、感染などが含まれます。
PDWに特異的な環境影響としては、急性炎症や組織損傷に伴う末梢での血小板活性化、骨髄での血小板産生の加速・偏り、そして前分析要因による見かけの分布拡大が挙げられます。こうした影響は時間依存的で、採血から測定までの遅延だけでもPDWが変動しうることが知られています。
したがって、PDWの変化を遺伝と環境のどちらに帰するかを判断するには、縦断的な追跡、家族歴、並行する炎症・代謝マーカーの評価、そして前分析条件の統制が重要です。
参考文献
- Nature 2016: The allelic landscape of human blood cell trait variation
- Nat Genet 2011: New gene functions in megakaryopoiesis and platelet formation
- ICSH preanalytical recommendations and platelet counting variability
臨床的意義
PDWは血小板のサイズ不均一性を介して、造血のダイナミクスや活性化状態の手がかりを提供します。例えば末梢破壊型の血小板減少では産生亢進により若年で大型の血小板が増え、分布の広がりが増大することがあります。一方、骨髄抑制による産生低下では分布が相対的に均一化しうるとされます。
炎症・血栓性疾患では、活性化に伴う形態学的変化がPDWや関連指標(MPV、P-LCR)に反映される可能性が指摘されています。心血管疾患や敗血症の予後マーカーとしての有用性を示す報告もありますが、感度・特異度は状況により大きく異なります。
しかし、PDWは単一の疾患を特異的に指し示す指標ではなく、前分析・分析的影響を強く受けるため、臨床判断ではあくまで補助的に用いるべきです。血小板数、凝固系検査、末梢血塗抹標本所見、炎症マーカーなどと総合して解釈することが推奨されます。
特に、著明な外れ値や臨床像と乖離する値が得られた際は、検体の再採取・迅速測定、抗凝固薬の変更(EDTAからクエン酸塩など)、機器の測定原理の違いの確認、血小板凝集や衛星現象の有無の確認が重要です。
参考文献
- Hippokratia 2010: PDW as a marker of platelet activation
- Review of platelet indices in clinical practice (CCLM)
測定法と理論
多くの自動血球計数装置は、電気的インピーダンス法または光学散乱法により粒子体積を測定し、血小板のサイズ分布ヒストグラムを作成します。PDWはこのヒストグラムの広がりを指標化したもので、理論的には体積分布の標準偏差と平均体積の比(変動係数)に対応します。
装置によっては、分布曲線の特定の高さ(例:ピークの20%)における幅をfLで表す定義を用いる場合があり、PDWが%かfLかはレポート形式に依存します。MPVやP-LCRなど他の指標も同一ヒストグラムから導出されるため、相互に関連しますが、各指標は異なる側面を反映します。
測定の正確性は、血小板の微小凝集、赤血球断片、巨大血小板の有無などの干渉因子に左右されます。ICSHは血小板計数・指数の標準化に向けた推奨を公表しており、測定原理や前分析条件の明示、品質管理の徹底が求められます。
また、EDTAによる時間依存的な血小板膨化はMPV・PDWに影響しうるため、採血から一定時間内の測定や代替抗凝固薬の使用、結果への注記が重要です。機器間差を理解し、施設内での基準範囲設定と継続的なバリデーションが不可欠です。
参考文献
- ICSH recommendations for platelet counting methods
- Sysmex educational resources on platelet indices (general)
解釈と基準範囲
PDWの基準範囲は機器・施設によって異なります。一般的には%表記でおよそ10〜18%程度を採用する施設が多く、fL表記では約9〜13 fL程度が一つの目安とされることがあります。ただし、これはあくまで代表例であり、各検査室が定める基準範囲に従うことが必須です。
PDW高値は、若年大型血小板の相対的増加や、活性化に伴う形態不均一性の増大、検体内凝集などを反映しうります。逆に低値は、比較的均一な小型血小板が多い状態や、産生低下に伴う分布の狭小化などで観察されることがあります。
解釈の際は、血小板数(PLT)、MPV、P-LCR、白血球・赤血球系の所見、炎症・凝固マーカー、臨床症状との整合性を確認します。特に外れ値が出た場合は、前分析要因を最初に検証することが重要です。
臨床的な意思決定は、単一のPDW値に依存すべきではありません。再検査、末梢血塗抹標本での形態確認、必要に応じて造血評価(骨髄検査等)を段階的に行い、背景にある疾患の診断と治療につなげます。
参考文献

