血中IGF-1
目次
定義と基礎
血中IGF-1(Insulin-like Growth Factor-1)は主に肝臓で合成されるペプチドホルモンで、成長ホルモン(GH)の刺激に応答して分泌が増加します。骨や筋肉、軟部組織の成長や修復に関与し、代謝にも影響を与える重要な因子です。血中ではIGF結合タンパク質(IGFBP)と複合体を形成し、半減期や生体内での分布を調整します。
IGF-1は胎児期から成人期まで幅広く作用し、特に思春期にピークに達し、その後は加齢とともに緩やかに低下します。この年齢依存性のため、測定値の解釈には年齢と性別に応じた基準範囲が不可欠です。臨床現場では、GH分泌異常の間接的なマーカーとして用いられます。日内変動が小さい点も検査に適しています。
IGF-1はインスリン受容体に類似したIGF-1受容体に結合して細胞内シグナルを活性化します。PI3K-AKTやMAPK経路を介して蛋白合成や細胞増殖、抗アポトーシス作用を引き起こし、成長促進や組織修復を支えます。さらに神経系や心血管系でも作用が示され、全身性のホルモンとして機能します。
生理的には、栄養状態や肝機能、甲状腺機能、性ステロイド、インスリン感受性などに影響されます。慢性疾患や炎症状態、薬物(例:経口エストロゲン)も血中IGF-1を変動させます。そのため単独では診断確定に至らず、臨床症状や他の検査と組み合わせて評価します。
参考文献
測定と解釈
IGF-1の測定は主に自動化学発光免疫測定法(CLIA)やELISAを用いて行われます。IGF-1は血中でIGFBPと強固に結合しているため、測定前に酸エタノール抽出やIGF-2過剰添加などの前処理で結合を解離させる工程が重要です。標準化のために国際標準物質が使用されます。
測定値の解釈では、各検査室固有の基準範囲と年齢・性別を考慮したZスコア(SDS)が有用です。異なるアッセイ間で値が乖離しうるため、経時的なフォローは同一法・同一施設で継続するのが望ましいとされます。外因性因子や基礎疾患による変動にも注意が必要です。
高値は主に先端巨大症や巨人症を示唆しますが、思春期や妊娠、インスリン抵抗性、肝性GH過剰など生理・病理条件でも上昇します。低値は成長ホルモン分泌不全、栄養不良、慢性肝疾患、甲状腺機能低下などでみられます。臨床像と合わせた解釈が不可欠です。
検査前の断食は必須ではありませんが、急性疾患や重症ストレス下では値が変動しうるため、安定期に測定するのが推奨されます。採血時間の影響は小さいものの、同一条件での再検を心がけると信頼性が高まります。
参考文献
- ARUP Consult: IGF-1 Test Fact Sheet
- Clemmons DR et al. Consensus on GH and IGF-I assays (JCEM, 2011)
臨床的意義
IGF-1はGH関連疾患のスクリーニングとモニタリングに中核的な役割を果たします。先端巨大症の疑いではIGF-1の年齢・性別補正高値が一次評価として推奨され、治療後のコントロール指標にも用いられます。成人GH分泌不全の補助診断としても有用です。
小児では成長遅延の評価に際し、成長曲線、骨年齢、GH刺激試験とともにIGF-1が検討されます。単独では感度・特異度に限界があるため、包括的評価が重要です。成人では骨密度や体組成、心血管リスクとの関連も研究されています。
内科的には、栄養状態や慢性炎症、肝機能評価の補助指標としての利用が提案されています。低栄養やサルコペニアのリスク評価でIGF-1を組み込む研究も進んでおり、フレイルや転倒リスクとの関連も示唆されています。
腫瘍学では高IGF-1シグナリングが一部の癌の増殖に寄与する可能性が報告されていますが、血中IGF-1の単純な上昇が癌発症リスクを直接規定するわけではありません。観察研究の限界を踏まえた慎重な解釈が必要です。
参考文献
- Endocrine Society Clinical Practice Guideline: Acromegaly (2014/2018)
- Melmed S et al. Acromegaly consensus (Nat Rev Endocrinol, 2021)
遺伝と環境
血中IGF-1の個人差には遺伝と環境の双方が関与します。双生児研究では中等度の遺伝率が報告され、GWASでも複数の関連遺伝子座が同定されています。一方で栄養状態やホルモン、疾患が大きく変動させます。
大規模コホートの遺伝学研究では、SNP由来の遺伝的寄与(SNP遺伝率)は概ね15〜20%程度と推定されることがあります。これに対し、古典的双生児研究では総遺伝率が40〜60%とされる報告もあります。
環境要因としては総タンパク質摂取、エネルギー収支、慢性炎症、肝機能、甲状腺機能、インスリン抵抗性、薬剤(特に経口エストロゲン)が挙げられます。生活習慣の改善は一定の範囲でIGF-1に影響しうると考えられます。
ただし個々人で感受性は異なり、同じ食事や運動でもIGF-1の反応は均一ではありません。検査値の変化を過度に一般化せず、臨床的背景と合わせて総合的に評価することが重要です。
参考文献
- Sinnott-Armstrong N et al. Genetics of biomarkers in UK Biobank (Nat Genet, 2021)
- Teumer A et al. Loci for IGF-1 and IGFBP-3 (Nat Commun, 2016)
注意点と限界
IGF-1は有用な指標ですが、アッセイ間差や前処理法の違いによる値のばらつきが存在します。追跡では同一測定法を用い、結果はZスコアも併記して解釈するのが望ましいとされます。標準化の取り組みが進められています。
特定の病態ではIGF-1が基礎疾患の影響を強く受け、GHの真の活性を反映しないことがあります。重篤な肝疾患、栄養不良、甲状腺機能低下、腎不全、急性疾患では注意が必要です。こうした状況では再検や別検査の併用を検討します。
治療モニタリングでは、先端巨大症の薬物療法(ソマトスタチンアナログ、GH受容体拮抗薬など)によりIGF-1が選択的に抑制される一方、GH値と乖離することがあります。治療薬の機序を理解して整合的に評価します。
患者教育として、単回のIGF-1値で自己判断しないこと、検査の目的や限界を理解することが重要です。異常値が見つかった場合は、専門医と相談し、必要に応じて追加検査や治療を受けることが推奨されます。
参考文献

