Forest background
バイオインフォの森へようこそ

血中HOMA-IR

目次

概念と定義

HOMA-IR(Homeostasis Model Assessment of Insulin Resistance)は、空腹時の血糖値とインスリン濃度から体内のインスリン抵抗性を推定する指標です。侵襲的な負荷試験を使わず、日常診療のデータで代謝の状態を概観できる点が利点とされています。

計算式は単位により異なり、一般的にはHOMA-IR=空腹時インスリン(μU/mL)×空腹時血糖(mg/dL)÷405、または血糖(mmol/L)×インスリン÷22.5が用いられます。数値が高いほどインスリン抵抗性が強い可能性が示唆されます。

このモデルは、肝臓と膵β細胞のバランスが安定した定常状態にあると仮定して構築されています。そのため、急性のストレスや糖質摂取直後など定常状態でない条件では妥当性が下がります。

HOMA-IRは研究だけでなく臨床でも広く使われますが、測定法や集団により基準が変動しうるため、個々のカットオフ値の解釈には注意が必要です。モデルの限界を理解したうえで補助的に活用するのが適切です。

参考文献

測定と前提条件

HOMA-IRの算出には、8〜12時間の絶食後に採血した空腹時血糖と空腹時インスリンが必要です。血糖はグルコース酸化酵素法など、インスリンは免疫測定法で測られますが、インスリン測定の標準化が不十分な点がばらつきの一因です。

インスリンのアッセイ間差、ヘテロフィル抗体、プロインスリン交差反応、標準物質の違いなどが測定値に影響します。従って、縦断的評価は同一検査室・同一法を用いるのが望ましいとされます。

モデルは定常状態を前提とするため、感染、急性疾患、強い身体的・精神的ストレス、ステロイド投与、妊娠後期などの状況では結果の解釈に注意が必要です。

HOMA-IRは主に肝臓のインスリン抵抗性を反映しやすいとされ、末梢(筋)インスリン抵抗性を完全には反映しません。より厳密な評価にはクランプ法などが参照標準として用いられます。

参考文献

臨床での意義

HOMA-IRは、メタボリックシンドローム、脂肪肝、2型糖尿病、妊娠糖尿病、PCOSなどインスリン抵抗性に関連する疾患のリスク層別化や追跡に役立つ指標です。ベースラインの代謝状態を簡便に把握でき、生活習慣介入のモニタリングにも使われます。

ただし、糖尿病の診断基準には使われず、心血管リスク評価や治療方針は総合的に決めます。HOMA-IR単独では診断も予後予測も限定的であり、他の臨床情報と併用する必要があります。

集団研究では、HOMA-IRが高いほど心血管イベントや糖尿病発症リスクが高い傾向が示されていますが、個人レベルのカットオフは人種・年齢・BMI・検査法で変動します。

臨床での反復測定では、同一の検査法で同じ条件下(朝・絶食)に測ることで、変動を減らし介入効果をより正確に把握できます。

参考文献

遺伝と環境の影響

HOMA-IRに代表されるインスリン抵抗性の個人差には、遺伝と環境の双方が寄与します。双生児・家族研究では遺伝率が概ね30〜60%と報告され、残りは生活習慣や体組成、加齢、薬剤などの環境要因が占めると推定されています。

遺伝要因としては、インスリン受容体経路、脂質代謝、脂肪分布、肝糖産生に関わる遺伝子多型の累積効果が示唆されています。ただし単一遺伝子の影響は小さく、多因子・多遺伝子の寄与が一般的です。

環境要因では、過剰摂取、身体活動不足、睡眠不足、ストレス、内臓脂肪の蓄積、アルコール摂取、薬剤(ステロイドなど)がHOMA-IRを悪化させます。逆に減量や運動は改善に寄与します。

遺伝と環境は相互作用し、肥満の素因を持つ人では同じ環境でもHOMA-IRが上がりやすいことがあります。個別化した予防・介入が重要です。

参考文献

限界と注意点

HOMA-IRは簡便ですが、1型糖尿病や高度のβ細胞機能低下がある場合、インスリン分泌不足のため真の抵抗性を過小評価する可能性があります。空腹時高血糖が顕著な場合も解釈が難しくなります。

炎症、感染、急性疾患、妊娠、特定薬剤の影響下では定常状態の仮定が崩れ、数値が一過性に変動します。単回測定での過度な判断は避け、必要に応じて再測定します。

アッセイ差が大きいため、施設間の数値比較は慎重に行います。研究や臨床で閾値を用いる際は、対象集団と測定法に合わせたカットオフを設定することが推奨されます。

HOMA-IRは主に肝インスリン抵抗性の情報に偏りやすく、末梢抵抗性の評価にはMatsuda指数、クランプ法、最小モデル解析などの補完が有用です。

参考文献